40.遊牧民の入植地
次の日の夕方マリーたちは遊牧民の入植地ナレスマンサ地方に入った。ここは周囲を取り囲んだ小高い山々から小さな川がいくつか流れている。その中央を南から北に向かって流れる川以外には大きな川はなかった。しかし、この地方の降水量が多くないこともあって、その水量は少なかった。そして周りには半砂漠が広がっている。山の山麓には草地も見えるが盆地の中央まで来ると草地は見えない。
遊牧民はその山麓の草地の中にテントを張って暮らしている。多くのテントが並んでいる。どれくらいの人が住んでいるかは見ただけでは分からない。事務官の話では3万人ほどとのことである。テントの周りには多くの羊がいる。そして犬が羊を監視している。彼らはここに来ても遊牧民の生活をしているようだ。
こんな半乾燥地域では草はあまり生えないと思うが、それでも彼らは自分たちの生活スタイルを捨てないようだ。夕方に着いたこともあり、その日は挨拶だけで終わった。遊牧民の部族名はゴートリア族、族長の名前はアイヒホルンさんである。マリーが農業指導に来たと言うといやそうな顔をされた。ただ、通訳は事務官がしているので、彼らの細かい感情は表情から読み取るしかない。
次の日は朝から周辺調査を行うことにした。まず現状を知るところから始めることにした。いきなり農業指導をしろと言われても無理である。しかし、アイヒホルンさんはマリーにあまり協力的でない。
遊牧民は強い者に従う。マリーの言うことを聞かないので腕比べをすることにした。馬に乗ったまま矢を射る。マリーは10本の矢をすべて的に当てた。これに対してアイヒホルンさんは8本当てたが2本外した。
するとアイヒホルンさんが意地になってきた。アイヒホルンさんは族長である。つまり、ゴートリア族では一番強い。そのアイヒホルンがポットでの女に負けたのである。これでは示しがつかない。
「今度は馬でなく、剣で勝負」と言い出した。さすがに剣ではマリーは勝てない。そこでマリーは「魔法を併用してもいいか」と聞いた。すると、アイヒホルンさんは「構わない」と答えた。これでマリーは「勝った」と思った。
マリーとアイヒホルンさんは部族の者が見つめる前で剣を持って相対した。審判はゴートリア族の副長がしてくれることになった。
アイヒホルンさんは余裕の表情で何か言っているが、生憎マリーは彼らの言葉が分からない。そこで胸を借りるつもりで先に仕掛けることにした。
「マリー行きます」
そう言うと一直線にアイヒホルンさんに向かって駆けだして行った。駆けると同時にマリーは風魔法を併用した。
マリーがものすごい勢いでアイヒホルンさんに向かっていく。するとそれまで余裕だったアイヒホルンさンの顔色が変わった。マリーを強者認定したようだ。
アイヒホルンさんは突っ込んでくるマリーに剣を当てようと剣を振り下ろした。その剣をマリーは受け流しながら、マリーは横へ飛んだ。横へ飛んだマリーは足が地面に着くと再び地面を蹴って、アイヒホルンさんの脇腹に向けて剣を突き出した。
もちろんマリーがこんなに早く体が動けるのは、風魔法を併用しているからである。マリーの筋力だけではとてもこんな早い動きは出来ない。しかし、模擬戦を見ている人にはマリーが目にも止まらない速さで動いたように思えた。
マリーの突きだした剣はアイヒホルンさんの脇腹に当たった。
「それまで勝者マリー」
審判の声がする。この声は同時に通訳された。そこでマリーは剣を納めた。
「まさかマリアさんが族長の俺より強いとは思わなかった。これからはマリアさんの言うことには従う」
あっさり、アイヒホルンさんがマリーに負けを認めた。
マリーは
「これからはよろしく。私は農業指導に来ました。皆さんがこの地でよりよい暮らしができるように、いろいろな提案をするつもりです。少しでも暮らしがよくなるように一緒に努力しましょう」
と挨拶した。
するとアイヒホルンさんが
「こちらこそよろしくお願いします。俺たちの暮らしがよくなるなら、あなたの言うことに従う」
と言ってくれた。周りの人たちも異存ないようである。意義は出なかった。
こうしてマリーの農業指導が始まった。




