36.アーデシラ王国への逆侵攻5
結局、第1王子の部隊も第2王子の部隊もアーデシラ王国への侵攻には失敗した。第1王子の部隊は敵の策略にはまって攻撃を1日延ばした。その間に敵が増援部隊を送ってきたために侵攻を断念した。
また第2王子の部隊は補給の問題でアーデシラ王国へ侵攻できなかった。とにかくアーデシラ王国では食料を現地調達できないのである。するとアーデシラ王国へ深く侵攻すればするほど補給路が伸びてその補給路の維持に要員を取られて攻撃できる部隊がいなくなってしまうのである。補給を必要としない遊牧民の部隊とは根本的に違うのである。
なお、第2王子の部隊も第1王子の部隊の撤収の知らせを受けフィライッハの町から撤収した。こんな草しかない土地を確保しても役に立たない。それにもしここに駐留軍を配置して、ここが急襲されたら、峠の向こうの守備隊では対処できない。駐留軍が見殺しにされるのだけである。
今回の失敗を受けて、今後はアーデシラ王国への侵攻は行わないという方針が決定された。これには一部貴族からも不満が出た。しかし実際あのままアーデシラ王国へ侵攻していたら侵攻軍が全滅していたと考えられること、また、今回の侵攻に際しての国軍の経費は王宮で負担していたために、新たな軍を編成するならそれは貴族で負担してほしいという王宮の説明も相まって納得せざるを得なかった。
それはそれでいいのであるが、侵攻に参加した領主軍については問題が生じた。今回の侵攻に関する経費は領主もちである。期間が短かったこともあり、あまり多くの経費はかかっていない。公爵家としては何とかなる範囲だが寄子の貴族では公爵の威光に従って軍を出したこともあり、その一部を公爵家で補填することになった。この経費はマリーが進めた新しい農法による生産量の増加が寄与していた。また王家に図って、3年間の税免除を勝ち取った。これで何とかなるようである。
しかし、人口の増加による土地不足という問題は解決しないままだった。特にロイマーナ王国の北西部に移住してきた部族の土地問題は深刻であった。
彼らは新しい入植地を求めて王都に向けて示威行動に出た。表向きは王都への陳情である。しかし3万人の武装した軽騎兵の集団である。
これを止めようとするとロイマーナ王国も無傷ではいられない。大軍を動員してやっとこれを止められるかどうかといった状態である。
それに彼らは戦闘をするのではないのである。実際通過した町では食料を求めることはあっても、破壊活動はしていない。
王宮は頭を抱えてしまった。新しい入植地などロイマーナ王国にはない。特に南へくればくるほど土地は緻密に管理されている。水の少ないところでは灌漑施設を整備して農地の開発を進めている。また山の斜面にはオリーブやブドウが植えられている。
王宮の官吏の中には彼等を傭兵として雇用してはどうかと言う意見も出たが、もし彼らを傭兵として恒久的に雇用すると、例えば彼らが軍の実権を握った場合、彼らによって王国が支配されるかもしれない。これは最も避けるべきことである。
そこで王宮が考えたのは彼らを西の半砂漠地帯に追いやって、そこで新たな農業開発を行わせるというものである。
この地域は比較的雨が少ないので灌漑設備なしでは農業が行えない。だから、この地域に移住させても、灌漑設備の知識の無い彼らでは農業は出来ない。
当面はその灌漑施設を整備する作業員として彼らを雇用し、施設完成後はそこで農業に従事させるのである。その際も施設の管理を王国が行えば、彼らの行動を制約できる。これなら彼らが反乱を起こす可能性も低い。
早速この案が陳情に訪れた部族に提示された。彼らは、これまでの行軍で王国に新たな土地がないことも理解したので、この案を受け入れることにした。今彼らがここで反乱を起こしても鎮圧されるだけである。それは彼らも望まないことであった。
そうして陳情に訪れた部族は西方に移住して行った。これで王国の危機は一旦回避された。




