34.アーデシラ王国への逆侵攻3
次の日アーデシラ王国逆侵攻軍5万人は国境を越えた。といっても先頭集団が国境を越えただけで、マリーの公爵領軍はまだ国境を越えていない。とにかく隊列は長いのである。
そして次の日の昼頃マリーの部隊もフィライッハの町に入った。かつてここは交通の要衝でマリーもクレッセント王国からロイマーナ王国に逃れるときに通った。そして、多くの人が住んでいた。しかし、今は見渡す限りの草原が広がっている。人の影も見えない。そんな草原を見ていると涙が出てくる。もうみんな死んでしまったのだ。
その日の夕方また軍議が開かれた。メンバーは昨日と同じ。内容も昨日と同じである。斥候の報告でも近くに敵軍の姿は見えないそうだ。次はフルトクラーゲンを目指すそうだ。
将軍は何も言わない。そこで気になったことを聞いてみた。
「フィライッハの町に駐留軍は残さないのですか。もしここを占領されると、本国との連絡が途絶えます。ここフィライッハの町は東西の街道だけでなく南北の街道も走っています。もし北からアーデシラ王国軍が来てここを占領されたら我々は孤立します」
すると将軍は「余計なことを言う」という顔をしている。しかし、第2王子が
「そうだな、確かに北からアーデシラ王国軍が来てここを占領すると我々は孤立する。よく気づいてくれた、どうする将軍」
「そうですな、それなら領主軍を5000人ほど残しますか」
こうしてここに領主軍5000人を残すことになった。
次の日フィライッハの町を出発したロイマーナ王国軍は無事フルトクラーゲンに入った。ここでも敵軍の抵抗はなかった。そして、ここフルトクラーゲンもただ草原が続くだけの平原だった。かつての賑わいも人の姿も何もなかった。「すべて夢の跡」そう思うと悲しかった。「もうクレッセント王国はマリーの記憶の中にしかないのだ」そう思うとよけい悲しかった。
この日の軍議は荒れた。ここも東西に走る街道に加えて南北に走る街道が走っている。当然ここにも駐留軍を残すべきである。もしここに駐留軍5000人を残すと、ロイマーナ王国軍は4万人となり、アーデシラ王国軍の予想兵力4万人と同じになってしまう。
敵の4万人はほぼすべて軽騎兵である。一方ロイマーナ王国軍の騎兵と軽騎兵の数は公爵軍の軽騎兵を入れても12000人である。草原での戦闘になったらまず勝てない。
もしここに駐留軍を残さずに先へ進めば、たぶんアーデシラ王国軍は途中の物資の運搬路を占領してロイマーナ王国との連絡を絶つ。そうしたら我軍は敵国の中で孤立する。
もしこの辺りに都市や町や村があり、人がいれば、それらの都市や町や村から、食料の強制徴収を行い食料の確保ができるのだが、この辺りに町や村どころか人の住む家すらない。ただ草原が広がっているばかりである。孤立したロイマーナ王国軍は食料が無くなって餓死するだけである。
アーデシラ王国軍は何もしなくていいのである。4万人の軍の規模を維持して、ただ待っていればそのうちロイマーナ王国軍が餓死して全滅するのである。
軍議に参加した全員が第2王子の顔を見た。もう軍を引くときである。このまま進めば地獄が待っている。ここで取れる方法としては、今回確保したフィライッハの町とフルトクラーゲンの町を新たな領地としてここに砦を築くかである。
第2王子は
「ここで軍を引く。我々は一旦フィライッハの町に戻る。そこで陣を敷いて本国の指示を仰ぐ」
すると将軍が
「お待ちください、第2王子。それでは我国の奪われた民はどうなるのですか」
「将軍はこの草原を見て、我々の民がまだ生きていると思うか」
「しかし、それでは我軍を送り出した国王や貴族にどう言い訳すればいいのですか」
「国王には俺から話す。最初の目論見が甘かったのだ。それに一旦フィライッハの町に戻るだけで、もしロイマーナ王国から援軍が来ればまた我軍は進むことが出来る」
こうして、第2王子率いるアーデシラ王国逆侵攻軍5万人はフィライッハの町に戻って国王の指示を仰いだ、急ぎの用ということで伝書バトが使われた。しかし国王からの返事は「援軍は出せない。しばらくそこで待機」との指示であった。王宮でも意見が割れているようである。




