33.アーデシラ王国への逆侵攻2
第2王子カルメーロ率いるアーデシラ王国逆侵攻軍5万人は国境の都市レンファルコを出た。ここから街道はまっすぐ北に向かって走っている。途中の平野の中は道幅も広く街道も整備されている。しかし、そこから山岳地帯に入ると道は急に狭くなる。これはアーデシラ王国のロイマーナ王国への侵攻を防ぐためにわざと整備してなかったためである。
そして、その狭い山道を5万人の部隊が進んで行く。途中山肌にはロイマーナ王国の砦がいくつもある。そこで、しばし休憩できるが、小さな砦では多くの兵が休憩できない。それでも砦のあるあたりは安全が確保されている。しかし、そこから先の砦のないところへ差し掛かるとそこから先はもう地獄の1丁目である。
ここで、例えば道幅が3mとしてそこを2列になって進むとする。兵士の間隔を1mとすると5万人の兵士の従軍延長は25000mとなる。つまり25kmである。もう側面の山の中に敵兵が潜んでいたら「襲ってくれ」と言うようなものである。
第2王子はこれほどかというほど斥候を出している。しかし、兵士の不安は尽きない。マリーは大聖女である。魔法は得意である。周囲の状況に細心の注意を払い、風の音を捕らえ、魔力を感じて敵兵の存在を探っている。
前と後ろには護衛の兵士がいるが横にはもう護衛の兵士はいないのである。矢が飛んでくれば終わりである。念のため、マリーは出来るだけ広範囲に結界魔法をかけている。これで少しでも兵の損耗を抑えることが出来ればと思っている。
馬は狙わる恐れがあり、乗っていない。徒歩で歩いている。馬に乗っていればそれは指揮官クラスである。もう狙ってくれと言っているようなものである。
時折アントニオが
「まだ子供を運ばかりだろうにマリアは大丈夫か」
「大丈夫。体は丈夫にできている。子供を産んだ影響もない」
ほんとは適宜、回復魔法をかけているのである。
むしろ夫のアントニオの方が息が上がっているようにも思う。そのようなときは密かに夫に軽く回復魔法をかけている。するとアントニオが
「あれ、急に楽になった」
と言っている。
そうやって山道に入って3日ほどしてロイマーナ王国とアーデシラ王国の国境に差し掛かった。ここまではアーデシラ王国からの攻撃はなかった。当たり前である、ここまではロイマーナ王国の領土である。毎日ではないがロイマーナ王国の砦の警備兵が巡回しているのである。敵軍が侵入すればすぐにわかってしまう。
今日はここで野営するようである。山間の少し開けたところでテントを張っての野営である。今日は明日からのアーデシラ王国侵攻についての軍議が開かれることになった。夕方少し早い夕食を取ると第2王子のいるテントに夫と供に向かった。
テントに入ると、もう第2王子と今回の軍を指揮する将軍がいた。名目上の指揮官は第2王子だが、実際の指揮は将軍が取るようだ。将軍の名はフィルミーノというらしい。らしいというのは自分から名乗らなかったからである。第2王子がマリーの顔を見ると
「今回の従軍、大丈夫でしたか。アリーチャちゃんは元気にしていますか」
「はい、元気にしています。今はお義父様とお義母様が見ています」
「そうか。それはよかった。おいアントニオ、しっかりしろよ。妻に守ってもらうようでは男の名折れだぞ」
「そう言うな。お前だって知っているだろう妻の方が俺よりも強いことを」
「そうだな。お前は妻に命を救われたのだな」
この会話を聞いて将軍が目を白黒させている。どうも女ということでお飾りと思ったようだ。
その後今回軍を出した貴族家の指揮官も集まったので軍議となった。
その軍議で決まったことは、今後もこのまま山道を進む。しかし、明日国境を越えると、アーデシラ王国に入るので細心の注意を払うこと。状況の変化は伝令を出して伝える。
明日は第1目標のフィライッハの町に至る。伝令の報告ではかつては交通の要衝で多くの人が住んでいたが、今は誰も住んでいないそうだ。ただ草原が広がっているそうだ。そこに敵軍の姿はないそうだ。
こうして軍議は終わった。しかし、なぜか第2王子が焦っているように思うマリーであった。




