32.アーデシラ王国への逆侵攻1
アーデシラ王国が分裂し、その国力が弱まったことから、かつてアーデシラ王国に連れ去られた人々を救出するためにアーデシラ王国に逆侵攻すべきだという意見が北東部の貴族を中心に高まってきた。これをその言葉通りに取れば人命救助だが、その裏には領土的野心がある。
ここ数年のマリーが広めた新農法でこの地方の生産力も上がった。また安全が確保されたとして人々も戻ってきた。すると土地が不足する。そこで国力の弱まったアーデシラ王国から分捕ろうというのである。ここはかつてクレッセント王国が栄えたところで古の三日月地帯と呼ばれる豊かな土地である。クレッセント王国が滅んだことでここは一面の草原に変わっているが、本来は豊かな土地である。開墾すれば多くの収穫が見込める農地になる。
マリーとしてはクレッセント王国の土地を取り戻せるのはうれしいが、もうロイマーナ王国に来てずいぶん経つ。子供も生まれた。もうロイマーナ王国人として生きていくつもりである。何となく複雑な気持ちである。
それに国力が弱まったとはいえ、アーデシラ王国は強国である。結局、アーデシラ王国は長男が相続して王についた。その間、長男に服従しない三男は南に逃れ、そこで新た王国を作った。それでも長男がかつてのアーデシラ王国の領域の半分以上の領域を支配している。侮れない勢力である。それに草原の戦いで軽騎兵との真っ向勝負となる。たぶん同じ兵なら間違いなく負ける。
どうするのだろうと思っていたら、王国は北西部の国境沿いで定住する種族に応援を依頼した。確かに彼等なら同じ遊牧民である。アーデシラ王国の軽騎兵とも対等に戦うことができる。しかし、王国の北西部から、王国の北東部のアーデシラ王国と国境を接するあたりまでは遠い。そこで、この部族は第1王子が率いて、別動隊としてアーデシラ王国に侵攻するのである。これなら、この付近で不足する土地をアーデシラ王国から切り取れば、彼らに土地を与えることができる。
王国歴324年6月、第1王子アルマンド率いるロイマーナ王国軍3万人がアーデシラ王国に侵攻した。そのほとんどはかつてアーデシラ王国に従っていた部族である。これに対してアーデシラ王国は軍を指し向けたが、その数は予想された数よりも少なかった。斥候の知らせでは1万ほどとのことである。やはり大軍を派遣すれば、その隙に第2王子率いるロイマーナ王国軍がアーデシラ王国の中枢部に侵攻することが予想されたようである。
この知らせに第2王子は、途中クレベンナによって増援を依頼した。今回の逆侵攻では第2王子の率いる軍は約3万人である。現在アーデシラ王国が動員できる軍の数は約5万人と予想される。今回1万人しか西方へ派遣しなかったことから中央部にはまだ約4万人のアーデシラ王国軍が残っている。
これに対して第2王子率いる軍は3万人である。数の上でも劣るとなればとても逆侵攻などできない。そこでの応援要請である。このままこの付近の貴族家に応援を依頼して領主軍で約3万人を集めるそうである。「数だけ集めても、アーデシラ王国軍には勝てない」と思うのだが、しかし、このままでは敗北は必定である。苦肉の策のようである。
その際問題となったのはその費用である。とにかく領主軍の費用は領主持ちとのことである。その代わり『アーデシラ王国から領土をもぎ取ったらその領土は優先的に応援してくれた領主家に与える』というのである。他人お金を当てにした戦争である。負ければ絵にかいた餅である。
この依頼に躊躇する貴族も多く出た。「まだ先の戦争の被害から立ち直っていないので軍を出すことはできない」そう言って応援要請を退ける貴族が続出した。
公爵家としては同じ王族としてこの要請を受けることにした。そして1万人の領主軍を出すことにした。指揮は夫のアントニオが取ることになった。マリーは「是非この戦争に参加させてほしい」と願い出た。マリーとしてはマリーの故郷クレッセント王国がどうなったのか見てみたかった。それに地の利を知っているマリーなら適切なアドバイスもできると思った。公爵はこれを快く了解してくれた。これによりクレベンナ公爵家の寄子の貴族の軍も集まって最終的には公爵家軍と合わせて2万人の領主軍が集まった。
この5万人でアーデシラ王国に逆侵攻することになった。そして領都クレベンナを出た4万人の逆侵攻軍は途中で応援の貴族軍を加え5万人の部隊で国境の都市レンファルコに到着した。ここはクレッセント王国から逃れたマリーが最初にたどり着いた町である。ここから北に向かうとアーデシラ王国との国境地帯となる。




