31.長女誕生
アーデシラが死んで、アーデシラ王国が分裂した。そしてそれまで配下であった多くの部族が王国を離れロイマーナ王国に移住してきたことで、アーデシラ王国の国力は一気に弱まった。もうロイマーナ王国に侵攻することは不可能である。
かつてアーデシラ王国の侵攻を受けたロイマーナ王国の北東部にも安心感が広がった。この地域が安全になったということで、避難していた人々も戻り始めた。またマリーが広めた新しい農法も収穫量が増えるということで一気に広がった。
こうして、クレベンナ公爵家にも平穏が訪れた。マリーはまた妊娠した。最近はお腹も目立つようになって、アントニオが心配しているが、マリーの体調は万全である。
「苦しくはないか」
夫が聞くが
「問題ありません。至って順調です。フィリベルトの時と同じです」
「第1王子妃の出産のときは難産だったそうだ。妊娠後のつわりはマリーの作ったポーションで乗り切ったそうだが、出産時も大変だったようだ」
「でも元気な赤ちゃんが生まれてよかったですね」
「でも、もう第1王子妃は子供が産めないそうだ。それで第1王子は側室を取るそうだ。しかし、側室選びは難航しているようだ。魔力量の少ない女性だと子供が産めない」
「そうですね、第2王子は結婚相手は決まったのですか」
「決まっていない。あんな難産を見ると結婚相手は慎重に選ぶそうだ。『マリーに妹がいれば、即決まりだ』と言っていた」
「私は兄妹はいません。みんな死んでしまいました」
「そうか、悪いことを聞いた」
王国歴324年3月10日、マリーは元気な赤ちゃんを産んだ。今度は女の子であった。その子はアリーチャと名付けられた。母子ともに元気である。フィリベルト同様、金髪に紫の目であった。これを見て公爵様が
「間違いない。アリーチャも王家の子だ」
と言い出した。この知らせは王宮にも届けられた。
すると第2王子が祝いに駆けつけた。アリーチャを見たかったそうだ。アントニオと一緒に
「もし、このまま、俺の嫁さんが見つからなかったら、アリーチャを俺の嫁にくれないか」
「アリーチャはやらん。年が違い過ぎる。お前もあきらめて早く嫁さんを見つけろ」
本気か冗談か分からないような会話を交わしている。
第1王子は相変わらず北西の国境に張り付いたままだそうだ。とにかく気を抜くと移住してきた部族が問題を起こすそうだ。一番多いのは以前まで住んでいた人たちとのあきれつだそうだ。
いくら人が少ないと言ってもそこには以前から人が住んでいたのである。そこに顔も言葉も違う人たちが大量に移住してきたのである。問題を起こさないはずがない。
一応移住する土地は王国が買い上げて、来た部族に渡しているのだが、その範囲が少しずれていると、とたんに問題が起こる。それに移住してきた部族の人口が増えると割り当てられた土地では不足する。事前に土地の増加を申請するようなおとなしいことをしない部族が多く、彼らの流儀では力ずくで取りに行くのである。
これをされると王子の面目丸つぶれである。今はおとなしく王国に従っているが、将来王国の力が弱まってくるとどうなるか分からない。かといって、もう受け入れたものはどうしようもない。後は王国人として生きていってもらうしかない。
そこで王子は王国の言葉と文字を教えるために、教師を派遣しようとしたが、王国人で蛮族のところへ行ってもいいという人間はいなかった。そこでその部族の若者の中から優秀な人間をロイマーナ王国の都市の学校へ留学してもらうようにした。最初は誰も参加しなかったが王国がその費用を全額負担するというとかなりの若者が参加するようになった。これで次の世代は王国とのあきれつがなくなるのではと安堵する王子であった。
王国歴324年4月、受け入れた部族の扱いに頭を悩ますロイマーナ王国であった。




