30.アーデシラ王国の分裂
有力部族の離反を知るとアーデシラは烈火のごとく怒った。そして準備もしないまま有力部族の追討に向かった。これには周りを固めた部下たちも慌てた。ここでアーデシラについて行かないと自分が謀反人として討伐される。しかし、このアーデシラの行動はあまりにも唐突であったことから、野営の準備が出来ていなかった。
その日の行軍を終えてテントに入った時にアーデシラは急に胸を押さえて倒れた。そこには今日の褥を共にする女性がいたが、あまりのことで気が動転し適切な処置が出来なかった。そして医者が来た時にはアーデシラは死んでいた。
アーデシラの死にはクレベンナで崩した体調が回復していなかった可能性もある、また一説には毒を盛られたとの情報もあるが定かなところは分からない。
とにかくアーデシラは死んだ。遊牧民は力がすべてである。一族を率いるのは力ある者でなければならない。力のない者には誰も従わない。
アーデシラには息子が5人いた。そしてその5人が国王の座を巡って争い始めた。まず配下の部族のうち有力部族に自分の陣営に就くよう促した。そして敵対する陣営に就く部族を攻撃し始めた。これによって王国は混乱を極めた。すると、アーデシラ王国そのものから離反する部族も現れた。
彼らはロイマーナ王国を頼って王国内での定住許可を求めて王国内へ入ってきた。ほんとうは最初に離反した部族のようにロイマーナ王国の許可を得るべきだったが、今は非常時、若し流暢に許可が出るのを待っていると他の部族から攻撃されるかもしれない。とにかく、今アーデシラ王国は割れているのである、誰が味方で誰が敵か分からない。
なりふり構わずにロイマーナ王国内に侵入し、侵入してから定住許可を求める始末であった。これにはロイマーナ王国の国境警備兵は慌てた。とにかく数が多いのである。それに彼らは戦争しに来たのではなく逃げてきたのである。どうしていいか判断がつかない。
王宮には国境から多くの指示を仰ぐ文書が送られてきたが、ロイマーナ王国は広い。北は北の海から南は中の海まで広がる大国である。伺い文がすぐに王宮には届かない。それにどの部族に許可を与えるかも逃れてきた部族との交渉次第である。王国に忠誠を尽くす。それは絶対条件だが、それだけではない。細部も詰めなければならない。
それらの細部までの条件を文書のやり取りだけで決めるには時間がかかり過ぎる。今は緊急時である。そこで王宮は第1王子であるアルマンドを現地に派遣して、彼の判断に任せることにした。
ロイマーナ王国の方針は逃げてきた部族は出来るだけ受け入れる。それによって、アーデシラ王国の力をそぐ。これが基本方針である。しかし、受け入れた部族が将来、王国に牙をむいたのでは、今度はロイマーナ王国が内部に爆弾を抱えることになる。それにこの逃避によって、アーデシラ王国のスパイが多数ロイマーナ王国に侵入する恐れもある。
アルマンドの部族長との交渉は困難を極めた。先ず言葉の問題がある。通訳を介しての会話である。それに相手は蛮族である。ロイマーナ語の文字は読めても書くのはおぼつかない。文書にしてみると、ロイマーナ王国としては問題ないのであるが、相手の部族がどれだけ理解しているか疑わしい。将来そんな約束はなかったとして王国に反旗を翻すかもしれない。
そこで王子はなるだけ大人しく従順な部族を中心に許可を出していった。そうやって中小部族は追い返すことが出来ても、大きな部族となるとそれもできない。武力で威嚇されると、細部を詰めたうえで許可せざるを得ない。ここで戦争を起こすと、ここに派遣する部隊がロイマーナ王国にはいないのである。現在は昨年侵攻された王国北西部の国境警備で手一杯なのである。
このようにして、アーデシラ王国の分裂によって、多くの部族がロイマーナ王国に入ってきた。そして、ロイマーナ王国は内部に爆弾を抱えることになった。




