29.有力部族の離反
ロイマーナ王国への侵攻に失敗したアーデシラ王国は国力回復に努めたがさすがに失った7万頭の馬はすぐには回復できなかった。それに兵も2万人失っており、すぐにはロイマーナ王国への侵攻は不可能であった。その間にロイマーナ王国が国境の砦を増強したため、さらにロイマーナ王国への侵攻は難しくなった。
遊牧国家は草さえあれば馬の維持と住民の生活は成り立つ。基本的にはそうである。しかし、ここで生産できない物もある。例えば剣などの鉄製の武器は鉄を購入する必要がある。必ずしも家畜からすべてが生産できるわけではない。また、人口が増えると家畜から得られる食糧だけでは足らなくなる。
すると生産できない物を購入する資金、あるいは増えた人口を養う金が必要になる。それらの資金あるいはその物品を周辺国から戦利品として獲得する必要がある。そのためのロイマーナ王国への侵攻だったのである。
アーデシラ王国が出来る前はここにクレッセント王国があった。その王国を亡ぼしてその資産をすべて没収した時はその資産でしばらくは暮らすことが出来たが、その資産ももうない。クレッセント王国の元住民も奴隷として酷使するうちにすべて殺してしまった。
そこで、ロイマーナ王国へ侵攻したのであるが結果は手痛い敗北である。得られた資産や奴隷として連れて来る予定だった住民もその多くが、本国帰還時の混乱で放棄せざるを得なかった。
その結果指導者としての国王アーデシラの求心力は低下した。不満を抱える反乱分子が密かに会合を持った。この動きはすぐにアーデシラの耳に入り、反乱分子は一斉に粛清された。
この動きを見て、ロイマーナ王国は密かにアーデシラ王国配下の有力部族に使者を送り、アーデシラからの離反を促した。しかし、ロイマーナ王国の住民は農耕民族である。こんな遊牧民のところへ行っても接触などできるはずはない。すべてアーデシラの知るところとなった。
しかしこれは賭けである。若し接触できなければ使者の情報がアーデシラまで行く。接触できれば情報がアーデシラまでいかない。つまり国内が割れているということである。
そして、3度目の使者は見事アーデシラ王国の有力部族との接触に成功した。そこで使者は国王よりの条件を提示した。
「もし、貴殿の部族がアーデシラ王国から離反してアーデシラ王国を出るなら、ロイマーナ王国の北西部の平原に定住することを許可する。当面の活動資金と武器を与える」
しかし、これは虫のいい話である。北西部の平原は確かにロイマーナ王国の領地だが、そこにはロイマーナ王国の都市はほとんどない。遊牧民がかっぽしている。
ここに定住するという事はアーデシラ王国から謀反人としてすぐに追討軍を送られる。それを防がなければならない。つまりロイマーナ王国は彼らをロイマーナ王国を防衛する盾にしようという訳である。
普通だったら、この提案は拒絶されるはずであった。しかし、最近のアーデシラはロイマーナ王国再侵攻の費用調達のため、支配下部族に重税を課していた。それで、この部族長はロイマーナ王の提案を受けるかどうかを側近と協議した。すると、もうアーデシラはダメだろうということになった。
そして密かにこの使者に提案を受ける旨の返事がなされた。使者に返事をするとこの部族長の動きは早かった。すぐに一族をまとめ、その日のうちこれまでの野営地から国境を越えた。
国境を越えるときに一族の者が不安がったが、一族の長の命令は絶対である。それに一度離反した者をアーデシラが許すはずもない。もう部族長の命令に従うだけである。そして部族全員がその日のうちに国境を越えた。
そして数日して指定された場所に到着した。そこにはロイマーナ王国の担当官がいて今後の活動資金と武器を提供した。そして新たな戦争の火種がここに燃え上がった。




