28.新しい農法
マリーは夫アントニオと一緒に館に帰って来た。アントニオは玄関で待ち構えた公爵様に一礼すると
「アントニオ、無事帰って来ました」
すると公爵様が
「よく帰って来た。そして、センセンチェリ平原では『敵の主力を打ち破った』と聞いた。よくやった。お前は我が公爵家の誇りだ」
そう言って、公爵様はアントニオと抱擁した。
すると義母様が
「よく帰ってきました。無事な姿を見られて安心しました」
そう言って涙を流した。
感動の親子の再会が済むと屋敷の中に入ってお茶を飲みながらの款談となった。
「戦地の状況はどうだった」
「はい父上、それがセンセンチェリ平原で戦ったアーデシラ王国軍は領都クレベンナを包囲した時ほどの勢いがなくて拍子抜けでした」
「そうなのか、アーデシラ王国軍に疫病が広がっていたというのは本当なのか」
「はい、センセンチェリ平原で捕虜にした敵軍は、衰弱していました。尋問の結果では領都クレベンナの水が合わなかったそうです。アーデシラ王国軍のほとんどはお腹を壊したそうです。馬も半数以上が死んだそうです。その病状が回復しないままの戦闘だったので、力が発揮できなかったようです」
「そうか、それはよかった。やはり教会の言うような『神の加護』ではなかったのだな」
「はい、それは有りません。その後行った北部の町では教会は徹底的に破棄されていました。また教会の神父もすべて殺されていました」
「すべてか」
「はい」
「それはむごいことだな」
「はい、アーデシラ王国軍に占領された都市や町や村はひどいものでした。もう人が住めないのではと思いました」
「そんなにひどいのか。領都クレベンナが持ち堪えることが出来てよかった」
「ところでマリアから聞いたのですが、新しい農法でクレベンナより北の今回アーデシラ王国軍に占領された地域を復興できるというのは本当なのですか」
「儂もマリアから聞いて半信半疑なのだが、このままでは復興はおぼつかない。試す方法があるのなら試してみることにした。この農法はマリアさんから説明してもらおう」
「それでは新しい農法について説明させてもらいます。
農地で同じ作物を作っていくと何年かすると収量が極端に低下します。また病気にも弱くなります。そこで現在は冬小麦を作った後は休耕しています。これは夏場に雨が少ないという我国の気候条件とも合致しています。しかしこれでは農地は半分しか利用されていません。
そこで、夏場の水不足を補うために灌漑施設と排水施設を整備します。そしてここに植える作物として稲を導入します。現在、稲は湿地帯にただ種をまいておいて秋に収穫するという栽培方法ですが、これを灌漑施設と排水施設が整備された水田で栽培します。米は連作が効きます。毎年同じところで栽培しても収量が落ちません。これだと農地がすべて利用できます。すなわち収量が2倍になるわけです。
また、耕作には鉄製の鋤を用います。これを家畜に引かせれば、深く農地を耕すことができます。鉄製の農具は高いので公爵家で購入し順番に貸し出す方向で調整しています。また稲を刈り取った後の水田には、家畜を放牧します。家畜の糞は肥料にもなります。こうすることで、農地の地力が低下することなく、農作物を作ることが出来ます。ここで家畜の飼育として馬を飼育すれば戦時にこれを徴用することで軍の維持費の軽減にも寄与出来ます。これが私の考えた新しい農法です」
実はこれはマリーの前世の1000年後の時代にはこの地方で稲作が行われ始めていた。それをマリーは知っていたのである。しかし、これは言わないことにした。
「この農法がどれぐらいうまくいくか分からないが、とにかく今は試せることが有るなら試してみようということになった」
「分かりました。この件はマリーに任せることにします」
これでこの農法はマリーが担当することになった。次の日からマリーは領都北部の農村を回って、住民にこの新しい農法を説明して回った。また公爵家で費用負担して灌漑施設と排水施設の整備に取りかかった。マリーは大聖女である、土魔法も使える。そこでマリーは農村を周りながら大規模な魔法を行使して、主要な用水路と排水路を整備していった。そして鉄製の鋤と馬を無料で貸し出すことで住民の了解を得た。
マリーは農村を周りながら密かに豊穣魔法を行使していった。こうしてこの農法だけでなく、農地の地力アップにより生産量は劇的に改善した。
この農法の普及により領都北部の農業生産性は著しく向上した。もう1年目からアーデシラ王国軍の侵攻以前の生産量を越えた。すると、領都より南の地位でもこの農法が普及していった。
そして、公爵領の農業生産の増加を見て周りの貴族の領地でもこの農法が普及していった。




