23.クレベンナ籠城戦
マリーが西の山岳地帯に潜伏して3日が経った。街道は避難してくる人でいっぱいである。時々斥候を出して様子を見ているが、まだアーデシラ王国軍は来ていない。しかし、避難民の話ではレンファルコの町はすでに落ちたようである。そして抵抗した人はすべて殺されたようである。こんな話が伝わるとさらに避難民の数が増える。
避難民はクレベンナ市を目指しているようだが、クレベンナ市が城門を固く閉じているので、諦めて南へ向かうようである。
それから3日ほどした。北の方から地響きが聞こえてくる。とうとうアーデシラ王国軍が来たようである。高台に登って北の方を見てみるが遠くてよく分からない。
それからしばらくして敵本体が到着したようだ。それからしばらくは隠遁生活である。自分たちの存在を敵に悟られてはいけない。唯見つかっても、500人ぐらいの部隊である。3万人の部隊に何かできるわけがない。普通はそう考えるはずである。
3日目の夕方に、マリーは行動を開始した。先ず軍を2つに分けた。1つは1番隊から4番隊で、先発隊とした。彼らには牛と馬を連れてそのまま東に向かい、その背に括り付けた松明に火をつけて、敵軍にけしかけるように指示した。敵軍を襲う場所は隊の隊長に任せた。そして、その後は一旦南へ逃げるように指示した。西に向かえばマリーたちの潜伏先が敵にばれる。この潜伏先に戻ってくるのは2日後とした。もう1つの部隊はマリーの特殊任務を行う部隊とした。
敵に向かって進軍していく1番隊から4番隊を見送ると、マリーは5番隊を率いて北に向かった。そして夜半過ぎにザブェナ川に突き当たった。そこでマリーは馬を下りて山で取ってきた有毒植物を地面に植えた。そして聖魔法を最大限に行使した。聖魔法をかけられた有毒植物は一斉に咲き乱れた。そして毒素を川一面にまき散らした。
たぶんこれでここから下流はあと数時間で毒の川となる。たぶん朝までにはこの毒はアーデシラ王国軍の水の補給基地まで達するだろう。
その後マリーは東に向かった。そこにはアーデシラ王国軍の水の補給基地があった。しかし、周りを多くの兵が取り囲んでおり、とても夜襲を掛けることなどできない。
それを確かめるとマリーはまた南に向かった。そして再度東に向かうと遠くからクレベンナ市が見えた。赤々とかがり火をたいて、その明りが夜空を焦がしている。まだ、クレベンナ市は落ちていない。それを確かめるとほっと一息ついた。まだ息子は生きている。嬉しさがこみ上げてくる。
それから、再度、有毒植物を地面に植えた。そして最大限の魔力を込めて聖魔法を掛けた。また有毒植物が盛大に生い茂った。そしていっぱいの花粉をまき散らした。その花粉を風魔法でクレベンナ市を包囲するアーデシラ王国軍の周辺の畑に向けて飛ばした。
本当はアーデシラ王国軍の近くまで行きたかったが、そこまで近寄ると敵軍に発見される恐れがある。とにかくマリーの軍は100人しかいないのである。それも新兵ばかりである。敵軍に発見されたら終わりである。
多分花粉が混じった草を食べた馬が急死すると思う。それを祈ることにした。
そのようにしてマリーは場所を変えて、いくつかの場所で周辺の畑を毒の原に変えて行った。そして朝までには元の潜伏先に戻ってきた。随行した5番隊はマリーが何をしているか分からないようだった。しかし、マリーはあえて説明しなかった。川や畑を毒の海にしたと知ればマリーへの反感がわく。それにどこにスパイがいるか分からないのである。ただ、「敵軍の状況確認をした」とだけ部下には知らせた。
それから、2日して別行動を取っていた1番隊から4番隊が戻ってきた。攻撃の成果を聞いたが
「敵軍の多さに怖気図いて、連れて行った牛や馬は遠くから放った。それで、敵軍まで到達した牛や馬は少なかった。たぶん効果はなかったと思う。急いで逃げたのでこちらに被害はなかった」
とのことであった。
どうもお茶お濁したぐらいで終わったようである。
それからしばらくは斥候を出して敵軍の様子を探らせた。もうマリーにできることはない。後は天に祈るだけである。
そして、マリーが川と畑を毒の海にしてから3日して「アーデシラ王国軍がクレベンナ市の包囲を解いて軍を北に引いた」との知らせが入ってきた。
そこで、恐る恐る潜伏先の西の山岳地帯を出てクレベンナ市の周辺に行くと、累々と横たわる馬の死体が目に飛び込んできた。
アーデシラ王国軍は多くの馬を失って軍を引いたようである。クレベンナ市は守られたのであった。王国歴323年6月20日、クレベンナ籠城戦はクレベンナ公爵家の勝利で終わった。




