13.クレベンナへの帰還と途中の襲撃
結局マリーが借りた家では護衛を付けると手狭ということで市内の宿に移った。大家のおばちゃんとマリーの借りていた部屋の隣人には、「あまり事を表立たにしないでほしい」とお願いした。おばちゃんと隣人はフィリベルトの父親が公爵家の嫡男と知って驚いていた。
その間、アントニオ様がマリーとフィリベルトの手続をしてくれた。手続に当たりマリーはほんとの名前がマリーでクレッセント王国から逃れてきたことを明らかにするか悩んだが、明らかにするとクレッセント王国の王族にマリーという名の聖女がいたことが分かる。
そうなれば、マリーだけでなく、フィリベルトも命を狙われる。それは何としても避けたい。フィリベルトは大切な宝物である。それで何も言わなかった。もうマリーは死んだことにした。
あれからクレッセント王国を亡ぼした遊牧民はクレッセント王国の旧王都辺りを根拠地にして、このロイマーナ王国にも何度も侵攻してきているようだが、ロイマーナ王国の国境は山地が続く。そんな山地では遊牧民の馬を主体とした戦闘は出来ないようで、山地の砦で撃退されているようである。
アントニオ様の強い希望でマリーはアントニオ様の第1夫人となった。アントニオ様はまだ結婚していなかったようだ。アデーレ様がかなりアタックしたようだが、頑として首を縦に振らなかったそうだ。そしてフィリベルトはアントニオ様の長男として届がなされた。
3か月ほどしてフィリベルトの首が座ったので親子3人でクレベンナに帰ることになった。なお、マリーの産後の肥立ちは順調である。というか聖女なので出産後すぐに自分に回復魔法をかけた。だから出産後すぐに全回復したのであるが、これは秘密にして、さも苦しそうにしていた。
帰りの順路は真っ直ぐに西に向かった。こちらの方が街道は通り易いそうだ。そして途中まで行ったら後は北西に向かうそうだ。この山地を抜けるのに2日、そして後の1日は平野の中を進むそうだ。
馬車にはマリーとアントニオ様とフィリベルト、それに奴隷のカーラが乗っている。それを守るクレベンナ家の従士20人が騎乗して随伴している。しかし、この馬に鐙は装着されていない。若し山地で遊牧民の刺客に襲われたら、これでは役に立たない。
そこでマリーは綱と布切れを使って簡易的な鐙を作った。そうしたら、騎乗した従士が驚いている。
「これはすごい。これだと馬にしがみつく必要がないので、馬の上からも自由に剣を使うことが出来る。マリア様は何故、このようなことを知っているのですか」
「私は馬に乗っていたので、馬の扱いには慣れています」
そう答えた。
シァルナを出発したその日は何事もなく無事途中の村に着いた。そして次の日、一行が森の中を進んでいると突然多数の弓矢が飛んで来た。この弓矢の一斉攻撃で多数の護衛が傷ついた。そして山の斜面を駆け下りてくる騎兵が見えた。
マリーはアントニオが止めるのも聞かずにすぐに馬車の外に出た。そして、すぐに傷ついた騎兵にポーションを渡した。そして傷ついた兵士がポーションを飲むのに合わせて治癒魔法を掛けた。すると傷ついた兵士が一瞬で回復した。矢には毒も塗ってあったようだが、マリーの治癒魔法の前に毒もすぐに効果を失った。
そして、マリーは1頭の馬にまたがると、一気に向かってくる騎兵に向って行った。そして、マジックバッグから出した槍を構えると、その槍で向かってくる騎兵の頭を貫いた。
そして、その騎兵を通り過ぎると山肌に居る弓兵に向けて馬を走らせた。急峻な斜面なので馬が嫌がっているが、マリーは気にせず、疲れてきた馬に回復魔法をかけながら馬を駆使した。そして山肌に居た弓兵を蹴散らすと、今度は下馬して剣を抜いて、向ってくる敵兵を切り捨てていった。
この様子を見ていたアントニオと護衛の従士たちが驚いている。しばらくするとマリーのところへ護衛の従士たちがやってきたが、生きている襲撃者はいなかった。
念のため身元を証明する物を探したが何も持っていなかった。しかし、マリーが倒した騎兵の馬には鐙が使われていた。だからこれは遊牧民の放った刺客の可能性が高い、しかし、鐙はクレッセント王国でマリーが実用化してからロイマーナ王国にも伝わっている。だから遊牧民の仕業だと断定することはできない。
正体不明の襲撃者に襲われた。そういう事実だけが残った。




