露悪コンテンツ
■1
「俺が人間兵器として召喚されたことは分かった」
「はい」
「でもさ」
俺は息を飲み込んだ。
「異世界に召喚される奴って、全員が戦えるわけじゃないだろ?」
女が顔を上げる。
「と言いますと?」
「いるじゃん」
「大した戦闘スキルもないのに、地球の知識だけで無双する奴」
「料理とか」
「農業とか」
「鑑定とか」
「悪役令嬢になって、断罪を回避するとか」
俺は指を折りながら続けた。
「そういう奴らは、どう説明するんだよ」
「どう考えても、人間兵器にはならないよな?」
女は少し考えた。
「ああ」
「そのタイプですか」
「……何だよ」
女は淡々と答えた。
「動画配信ですね」
「……は?」
■2
「動画配信って……」
「そのままの意味ですよ」
女は淡々と答えた。
「現地では当たり前の知識を」
「異世界人本人だけが、『自分はすごいことを発見した』と思って得意げに披露する」
「その様子を、こちらの視聴者が楽しむんです」
「もちろん、本人には、配信されていることは知らせません」
「楽しむって……」
「まあ」
女は少し言葉を選んだ。
「ニヤニヤしながら眺める、と言った方が近いですかね」
「趣味悪すぎるだろ!」
「私は見ないですけど、再生数けっこう回るらしいですよ」
「そういう問題じゃないだろ!」
「あなた方の世界にもあるでしょう?」
「そういう、露悪的なコンテンツ」
「例えば」
女は少し考えた。
「『ゆいちゃんと田中さん』とか」
俺は女を見た。
「……『呪術廻戦』は実名そのままなのに、そこは少しぼかすんだな」
「何のことでしょう?」
「わかってやってるよね?」
■3
「まあ」
女は資料をめくった。
「動画配信なんて、何がバズるか分からない世界ですからね」
「いろんなジャンルがありますよ」
空中に魔法ビジョンが開く。
《知識無双》
《内政無双》
《鑑定》
《悪役令嬢》
《婚約破棄》
《追放ざまぁ》
《スローライフ》
「……何でもあるな」
「ええ」
女は淡々と頷いた。
「本人には本当の人生だと思わせたまま」
「周囲に役割を与えて、反応を演出する」
「そうやって一本の物語として配信するんです」
「……」
「私としては」
女は少しだけ眉をひそめた。
「こういうコンテンツばかりトップページに並んでいる方とは、あまりお付き合いしたくありませんけど」
「再生数は回るみたいですね」
「……トップページ?」
「はい?」
「何のトップページだよ」
「動画配信サイトですけど」
「そんなもんまであるのかよ!」
「最大手は女神グーグリアですね」
■4
「……トップページ?」
「はい?」
「何のトップページだよ」
女は少し首を傾げた。
「動画配信サイトですけど」
「そんなもんまであるのかよ!」
「さっきから言ってますよ」
「最大手は、女神グーグリアが運営する配信プラットフォームですね」
「女神グーグリア?」
「はい」
女が指を払う。
空中に大きな魔法ビジョンが開いた。
無数の動画が並んでいる。
「ちょっと見てみます?」
「見たくねえよ」
「あ、これなんか、今から生配信始まるみたいですよ」
女が画面を開く。
《まもなく配信開始》
《異世界人に“石鹸の作り方”を大発明だと思わせてみた》
「タイトルひでえな」
配信が始まる。
画面の中で、転生者らしい男が得意げに石鹸を掲げた。
『みんな聞いてくれ! 俺、すごいこと思いついたんだ!』
その瞬間。
画面の右側に、色付きの投げ銭表示が次々と流れ始めた。
《100G 草草の草》
《500G これは期待》
《1000G 村長のリアクション待ち》
《3000G 今回も本人ガチで信じててW》
「悪趣味の極致だろ!」
「まあ」
女は画面を眺める。
「感想はそうかもしれませんが」
「回ってはいますね」
「数字で正当化すんなよ!」
女は別の画面を開いた。
「もちろん、最近はコンプライアンスも厳しくなっています」
「違法召喚者を利用したチャンネルは、収益剥奪対象です」
「じゃあ取り締まってるんじゃないのか?」
「建前上は」
「建前?」
「女神グーグリアも、再生数が回れば広告収入になりますからね」
「……」
「違法召喚者だと分かっていて放置した事例も、何件か確認されています」
女は小さくため息をついた。
「法律をナメんなよ、という感じです」
「お前が言うのかよ」




