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異世界召喚勇者

■1


取調室。


「ちょっと、あんた何なんだよ!」


机を挟んで座る長い耳の女に、俺は声を荒らげた。


「あのな、俺は勇者なんだぞ!」


「女神セレスティア様の依頼で魔王を倒した英雄だ!」


女は手元の書類に目を落としている。


「それがなんで、こんなところに連れて来られるんだよ!」


「セレスティア様は?」


「どこに行ったんだ?」


女は顔を上げた。


「ああ」


「そこからですね」


「え?」


「まず、前提から訂正します」


女は淡々と言った。


「あなたは勇者ではありません」


「……は?」


「違法召喚された異世界人傭兵です」


「…………」


「は?」


■2


「ちょ、ちょっと待てよ!」


俺は身を乗り出した。


「俺は、この国を救うために特別に召喚されたんだぞ!」


「女神セレスティア様に力を引き出してもらって、俺にしかないレアスキルを――」


「ああ」


女が頷いた。


「そこですね」


「え?」


「だから召喚されたんですよ」


「……どういうことだ?」


「あなたが召喚された場合、どのようなスキルが発現するかは事前に把握されています」


「は?」


「魔力量、身体能力、適性、性格。地球での生活状況も含めて、事前にかなり詳細なプロファイリングを行います」


女は書類を一枚めくった。


「召喚してから能力を調べているわけではありません」


「……」


「無能力者なら、そもそも召喚されませんから」


「…………」


俺はしばらく女の顔を見つめた。


「じゃあ……俺が選ばれたのって」


「はい」


「特別だったから、というより」


女は淡々と答えた。


「使えると分かっていたからですね」


■3


「いやいやいやいや!」


俺は両手を机についた。


「俺のレベル上限は最高ランク!」


「普通の奴は、どれだけ努力してもここまでは強くなれない!」


「でも俺は違う!」


「それにユニークスキル、《メテオストライク》!」


「『あなたには世界を救えるだけの才能があります。努力すれば、必ず強くなれます』って、セレスティア様も言ってたんだぞ!」


「ああ」


女は頷いた。


「そこは本当ですよ」


「……え?」


「あなたの成長上限が高いことも、《メテオストライク》が発現することも」


女は手元の資料をめくる。


「だから召喚されたんです」


「……は?」


「召喚してから、たまたま才能が判明したわけではありません」


「事前に把握していますから」


「そんな……」


「まあ、珍しいっちゃ珍しいですけど」


女は少しだけ考えた。


「そこまでレアではないですね」


「は?」


「同じ条件を満たす方でしたら……」


手元の資料を操作する。


「あなたがお住まいの、さいたま市中央区にも、もう一名いらっしゃいますね」


「えっ?」


「個人情報なので、氏名などは伏せますけど」


女が指を払う。


空中に淡い光が広がった。


半透明の文字と数字が並ぶ。


年齢。


身体能力。


魔力適性。


レベル上限。


そして。


《固有技能:メテオストライク》


「……同じじゃねえか」


「ええ」


女はさらに表示を切り替えた。


《配偶者:あり》


《子ども:二名》


《居住形態:持ち家》


《勤続年数:十四年》


《家族関係:良好》


「……」


「この方」


女がこちらを見る。


「異世界で活躍なさりたいと思うでしょうか?」


「…………」


「しかも、私たちのような職員が各地をパトロールしていますから」


女は画面を消した。


「成人した異世界人が本気で帰還を希望すれば、案外簡単に元の世界へ戻れます」


「この方を召喚しても、奥さまとお子さんのもとへ帰ろうとする可能性が高い」


「つまり、手駒としては使いにくいんですよね」


「手駒……?」


女は資料へ目を落とす。


「その点、あなたは」


嫌な予感がした。


「独身」


「交際相手なし」


「職歴なし」


「やめろって!」


女は淡々と続けた。


「勇者に必要な能力が高くて」


「現世への未練が少ない」


そして、顔を上げる。


「非常に優秀な手駒だった、ということですね」


■4


「おいおいおいおい」


「さっきから聞いてりゃ、好き勝手言いやがって!」


俺は机を叩いた。


「俺は魔王国から人間国を救うために召喚された!」


「そして実際に、魔王を倒した!」


「これは事実だろ!」


「そこですよ、そこ」


女が言った。


「え?」


「特殊スキル、《メテオストライク》を持つ人間兵器」


「……人間兵器って言うなよ」


「そして、その人間兵器を別世界から呼び出せる召喚技術」


女は俺を見る。


「そんな戦局を左右する超技術を」


「交戦国のどちらか一方だけが独占しているって、変だと思いませんでしたか?」


「へ?」


「人間国が地球人を召喚できるなら」


女は指を一本立てた。


「魔王国も、当然やります」


「……」


■5


「約八十年前」


女は空中に魔法映像を展開した。


古い戦場。


人間国の兵士たち。


その先頭に、見慣れない服を着た男が立っている。


「最初に異世界人召喚を軍事利用したのは、人間国でした」


映像が切り替わる。


巨大な炎。


吹き飛ぶ城壁。


「異世界を越えた転移によって、高い魔力や特殊技能を得る人間がいることが判明した」


「人間国は彼らを大量に召喚し、戦場へ投入しました」


「……大量に?」


「はい」


さらに映像が変わる。


今度は魔王国の軍勢。


その中にも、人間らしい姿が何人もいる。


「当然、魔王国も対抗します」


「人間国が一人召喚すれば、魔王国も一人」


「人間国が十人なら、魔王国も十人」


「人間国が百人なら、魔王国も百人」


「より強い異世界人を」


「より多く」


「より早く」


「……」


「異世界人召喚による軍拡競争です」


俺は黙って映像を見ていた。


「最終的には、双方とも」


女が淡々と言う。


「これ以上続ければ、どちらかが勝つ前に世界が壊れる、と判断しました」


映像が消える。


「そこで約八十年前」


「人間国、魔王国、および周辺諸国の間で――」


女は書類を一枚、俺の前へ置いた。


《異世界人召喚禁止条約》


「異世界人召喚を禁止する国際条約が締結されました」


「……」


「あなたを召喚した行為は」


女が書類を指で叩く。


「その条約に基づく国内法、《異世界人召喚禁止法》に違反しています」


俺はしばらく黙っていた。


「……あんたらも」


「はい?」


「昔は、相当な極悪人だったんだな」


女は少しも表情を変えなかった。


「ええ」


「ですので、条約ができました」


■6


「まあ、これは八十年前の話ですので」


女は書類を閉じた。


「現在は技術革新も進んでいます」


「技術革新?」


「はい」


「あなた方、異世界人が持つユニークスキルも、現在ではほとんどが技術的に再現可能です」


「……は?」


「人間国も、魔王国もです」


俺は眉をひそめた。


「じゃあ、《メテオストライク》も?」


「できますよ」


あっさり言った。


「できるのかよ!」


「できます」


「じゃあ、なんで俺を召喚する必要があるんだよ!」


女は少し困ったように首を傾げた。


「高いんですよ」


「……何が?」


「メテオストライクです」


■7


女が空中に魔法映像を展開する。


巨大な魔法施設。


何百個もの魔石。


その周囲で働く、大勢の魔術師と技術者。


「人工的に《メテオストライク》を再現する場合、大規模な魔法施設が必要です」


「大量の高純度魔石」


「専門の魔術師」


「設備を維持する技術者」


「それらを全部揃えて、ようやく一発」


「……」


「その点」


女は俺を見る。


「異世界人なら、召喚するだけです」


「召喚して」


「食事を用意して」


「住む場所を用意して」


「適度に褒めて」


「女の人でも配置しておけば」


「おい」


女は構わず続ける。


「メテオストライクを撃ってくれます」


「人を何だと思ってんだよ!」


「ですから、違法なんです」


「……」


「多少、茶番芝居にお金をかけたところで」


女は魔法映像を消した。


「地球人を一人召喚した方が、圧倒的に安いんですよ」


俺は黙り込んだ。


「禁止されて八十年も経つのに、違法召喚がなくならない最大の理由です」


女は淡々と言った。


「人間兵器として、コストパフォーマンスが良すぎるんですよ。異世界召喚は。」


「ちなみに、先ほどから私が持っている、この逮捕令状」


女が、金属板のような札を机に置いた。


「……令状?」


「魔法裁判所が発行した、対異世界人用の法執行魔具です」


「あなたのユニークスキル、《メテオストライク》のみを一時的に封印します」


「俺のだけ?」


「はい。対象者と対象スキルを指定して作成します」


「そんなもん作れるのかよ」


「作れますけど、非常に面倒ですよ」


女は札を指で叩いた。


「魔法裁判所の高位魔導士が、あなたの魔力波形とスキル構造を解析して、一か月かけて作った特注品です」


「一か月!?」


「ですので、一般家庭に置いておけるようなものではありません」


「……」


「当然ですが、あなた以外の《メテオストライク》には効きません」


「そこまで俺専用なのかよ……」


「だから、変な気は起こさないでくださいね」


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