第25話 決意とためらい
時計を見ると、もう少し眠れる時間だった。
でも、昨日より頭が軽い気がした。
......ちゃんと、言わないと。
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。
もし、嫌だって言われたら――
そこまで考えて、頭を振った。
少しだけ、胸の奥が落ち着かなかった。
なんとなく、枕元のぬいぐるみを触った。
しゅんくんが、近くにいてくれるような気がした。
それだけで、少しだけくすぐったかった。
鏡の前で、いつもより念入りに、髪の毛がおかしくないか確認した。
少しでも、しゅんくんに......
いつの間にか、櫛を持つ手に力が入っていた。
身支度が一段落して、冷蔵庫を開けた。
パウンドケーキが、少しだけキラキラしている気がした。
そっと取り出して、手のひらに乗せた。
しゅんくんに、おいしいって、また食べたいって言って欲しいな。
それで一緒に――
そのために、ちゃんと伝えないと......
胸の奥がそわそわして、落ち着かなかった。
袋に入れて、ゆっくりとバッグに入れた。
いつもより、バッグが重い気がした。
もう一度、鏡の前で確認して、息を小さく吸った。
そのまま、家を出た。
何度も歩いた道なのに、足元がおぼつかなかった。
すると、さきちゃんの声が聞こえた。
「あ、まいちゃん。おはよ~。LINE見た?」
その声で、足が止まった。
一瞬、言葉が出なかった。
「......おはよ」
スマホを見ると、さきちゃんから「今日も一緒に行こ~」と来ていた。
それに、一昨日と昨日も「何でも言ってね」と来ていた。
胸の奥が、じんわりと温かくなった。
「ごめん......見てなかった......」
少しだけ、声が小さくなった。
私の顔をじっと見てから、さきちゃんが言った。
「別にいいよ~。行こっか」
そのまま、さきちゃんと一緒に学校に向かった。
いつもは、さきちゃんから話しかけてくれるのに、何も言ってこなかった。
「......あのね、さきちゃん」
いつの間にか、足が止まっていた。
喉が、少し乾いた。
さきちゃんも足を止めて、私の顔を見ていた。
さきちゃんの目が、優しかった。
それだけで、少しだけ息がしやすくなった。
小さく深呼吸をして、口を開いた。
でも、すぐに言葉が出なかった。
「......このままじゃ、だめな気がして」
心臓の音が、早くなっていた。
「しゅんくんに――」
一瞬、声が出なくなった。
バッグを肩にかけなおした。
「......ちゃんと、伝えようと思う」
ゆっくり頷くと、さきちゃんが言った。
「......そっか」
それだけだったけど、さきちゃんは笑っていた。
気がつくと、肩の力が少しだけ抜けた。
でも、心臓はうるさいままだった。
学校に着くまで無言だったけど、不思議と落ち着いた。
教室の前でさきちゃんと別れて、教室の扉の前に立った。
扉に手を伸ばそうとして、一瞬止まった。
しゅんくんの声が、聞こえた気がした。
それだけで、胸の奥が強く鳴った。
静かに息を吐いて、手に力を込めた。
教室に入ると、自然としゅんくんを探していた。
今日も、楽しそうに三人で話していた。
しゅんくんの笑顔が眩しかった。
それだけで、少しだけ安心できた。
教室の入り口で立ち止まっていると、しゅんくんと目が合った。
その瞬間、心臓が強く跳ねた。
何か言わないとと口を開いたけど、うまく声が出なかった。
目を逸らしたいのに、逸らせなかった。
すると、しゅんくんが口を開いた。
「まいちゃん、おはよ!」
一瞬、何も言えなかった。
口から空気が漏れ出る音だけした。
「......おはよ」
やっと、それだけ言えた。
しゅんくんは、いつもみたいに笑っていた。
嬉しいのに、苦しかった。
しゅんくんから目を逸らして、私の机に向かった。
鈴木くんの、「お前、何かしたか?」って声が聞こえた気がした。
しゅんくんが、困ったように、少しだけ笑っていた気がした。




