閑話 ココアとチョコチップのパウンドケーキ
心臓が、うるさかった。
しゅんくんに想いを打ち明けた。
すると、しゅんくんは困った顔をした。
「気持ちは嬉しいけど、ごめん。俺にはもう好きな人が――」
脚に、力が入らなかった。
しゅんくんは、まだ何か言っていたけど、よくわからなかった。
床の冷たさが、やけに残った。
――
息が詰まって、目が覚めた。
汗が気持ち悪かった。
いつの間にか、眠っていたみたいだった。
......夢、だったんだ。
小さく、息が漏れた。
しゅんくんに好きな人ができたら......
考えただけで、指先が冷たくなった。
それでも、考えるのをやめられなかった。
「しゅんくんと、一緒にいたいな......」
思わず、声が出ていた。
嫌だって言われたら......
唇を、強く噛んでいた。
......言わなければ、このまま。
ふと、しゅんくんがクッキーをもらって、喜んでいる顔を思い出した。
一瞬、息が止まった。
胸の奥が、締めつけられた。
もう考えたくなくて、冷蔵庫の中をぼんやり見ていた。
......これなら、パウンドケーキを作れるかな。
手が、少し重かった。
身体が、勝手に材料を量っていた。
ふと、前も作ったことを思い出した。
まいって、呼んでほしかったな。
「まいちゃん」って言うしゅんくんの声を思い出して、胸の奥が少しだけ温かくなった。
このままでも、いいのかな......
でも、次の瞬間――
しゅんくんが、どこか遠くに行っちゃう気がした。
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
ココアの香りに、包まれていた。
生地が、ゆっくり茶色に変わっていった。
チョコチップが、少しだけ見えていた。
......言わないと、いなくなっちゃうのかな。
生地を混ぜていると、少しだけ、落ち着いた気がした。
何もしないで、いなくなっちゃうくらいなら......
気づくと、生地ができあがった。
でも、少しだけ物足りない気がした。
冷蔵庫を、そっと開けた。
今度使おうと思っていた、オレンジピールを見つけた。
手が、自然と伸びた。
もう、手は震えていなかった。
オレンジピールを細かく切って、生地に練り込んだ。
ほんの少し、オレンジの匂いがした。
生地を型に流し込んで、オーブンに入れた。
......ちゃんと、焼けてほしいな。
心臓の音が、少しだけうるさかった。




