第23話 家庭科とクッキー
「それで、昨日のプリは~?」
登校中、さきちゃんに言われて、スマホケースの裏を見せた。
「ふ~ん。やっぱり裏向きなんだ」
「......だって」
思わずさきちゃんから目を逸らしていると、さきちゃんが言った。
「仲いいんだし、気にすることないと思うけどね~」
ニヤニヤしているのが、視界の端に入った。
居心地が悪くて、つい視線を彷徨わせた。
「......それより、今日調理実習あるからお昼ちょっと遅くなるかも」
自分でもわかるくらい、早口だった。
「あ、そうなんだ。クッキー?」
ほっと、息が漏れた。
「うん。さきちゃんのクラスは、この前やってたよね?」
「うん。余ったらお昼にちょ~だい。あ、それとも谷口くんにあげる?」
一瞬、歩くのがぎこちなくなった。
「......同じの作るし、別に」
自分で言ったのに、胸の奥が少しだけ痛んだ。
気持ちを伝えるのは、まだ難しそうだった。
ボウルに砂糖を入れると、ほのかに甘い匂いがした。
家庭科室が、どこか騒がしかった。
いつもと違う調理器具で、落ち着かなかった。
材料を混ぜていると、しゅんくんの声が、ふと耳に入った。
気がつくと、しゅんくんの方を見ていた。
しゅんくんが、楽しそうに話しながらやっていた。
......違う班なんだし、仕方ないよね。
それでも、気持ちは消えてくれなかった。
しばらくすると、家庭科室がクッキーの匂いで包まれていた。
班の子たちが、余ったクッキーを誰に渡すという話をしていた。
その話を聞きながらも、しゅんくんの方から、目を逸らせなかった。
「佐々木さんは誰に渡すの?」
視線を戻すと、班の子が私を見ていた。
「......友達かな」
しゅんくんも友達なのに、それが少しだけもどかしかった。
話をしている間に、オーブンのタイマーが鳴った。
オーブンから取り出しながら、お昼休みのことを考えていた。
今日はお弁当の後、みんなでクッキーかな......
胸の奥が、じんわりと温かかった。
片づけをしていると、チャイムが鳴り響いた。
「片付けが終わった班から、教室戻っていいですよ」
家庭科室に、先生の声が響いた。
片付けが一段落して、また、しゅんくんの方を見ていた。
しゅんくんたちも、ちょうど終わったみたいだった。
声をかけようと足を踏み出した瞬間、しゅんくんに話しかける子が、先にいた。
「あ、しゅんくん。お菓子好きでしょ?これ、あげるね~」
「ありがとう!めっちゃうれしい!」
一瞬、息が詰まった。
しゅんくんが、遠く感じた。
もう見たくなくて、教室に向かった。
さっきのしゅんくんの顔が、頭から離れなかった。
教室に戻ると、さきちゃんが先にいた。
「あ、まいちゃん。どうかした?」
「......なんでもないよ」
さきちゃんから目を逸らしながら答えた。
しゅんくんがお菓子を貰っていただけなのに。
「......そっか。お昼にしよっか」
さきちゃんの目が、優しかった。
机を準備していると、しゅんくんたちも来た。
ふと、さっきのことを思い出して、うまく顔を上げられなかった。
気づけば、しゅんくんたちと席を囲んで、お弁当を食べ始めていた。
ごはんの味が、少し薄く感じた。
しゅんくんたちと何を話したのか、ほとんど覚えていなかった。
気づけば、みんなお弁当を食べ終わっていた。
すると、しゅんくんがクッキーを取り出した。
さっきの光景が、頭に浮かんだ。
胸の奥が、また痛くなった。
ふと、食べて欲しくないと、思ってしまった。
―なんで、そんなこと。
こう思ってしまう私が、嫌だった。
そうしている間にも、しゅんくんがクッキーを口に運んでいた。
見たくないのに、目を逸らせなかった。
しゅんくんが口を動かすたびに、いつもの笑顔になっていた。
いつの間にか、歯を食いしばっていた。
......誰でも、いいのかな。
しゅんくんが、いなくなっちゃうような気がした。
一緒に、いたいだけなのに......




