第22話 プリクラと距離
鈴木くんと斎藤くんが格闘ゲームをしている横で、さきちゃんが口を開いた。
「さっき二人には聞いたんだけどさ、まいちゃんと谷口くんは、プリでどんなポーズやりたい?」
「あれ、あの合わせるやつやりたい!」
さきちゃんは少し考えてから言った。
「......猫とかハートの?」
「そう!それ!」
......しゅんくんと、ポーズ。
心臓の音が、少し早くなった。
しゅんくんの顔を見上げた。
......いいな。
でも、前はさきちゃんが隣だったし......
頭を振った。
......やっぱり、やりたいな。
「まいちゃんはある?」
さきちゃんを見ると、じっと見られていた。
......しゅんくんと、やりたいな。
でも、隣じゃないし......
「......みんなが好きなのでいいよ」
「そっか。りょ~かい」
さきちゃんに見透かされている気がして、少しだけ苦しかった。
対戦が終わると、さきちゃんが口を開いた。
「それじゃ~、プリ行こっか。ポーズは合わせるのにしよ~」
「......合わせるのってどんな?」
鈴木くんが、さきちゃんに目を向けた。
「んーとね。虫歯ポーズとかって聞いたことない?こんなの」
そう言って、さきちゃんは片手を頬にあてながら続けた。
「二人で合わせると、手で挟んでるみたいになるの」
「あ~。この前の片手バージョンか。理解」
「あとはハートと――」
ポーズを取りながら、「こんな感じ」と軽く合わせてみた。
確認が終わると、私たちはプリクラの機械に向かった。
プリクラの機械の前に着くと、鈴木くんが口を開いた。
「なー、今日は前と後ろ、グッチョで分けねえか?」
「いいね~」
すぐに、さきちゃんが答えた。
手を出す瞬間、さきちゃんが鈴木くんと斎藤くんを見た気がした。
私は、しゅんくんと同じ手を出していた。
「うん。それじゃ、まいちゃんと谷口くんが前で、私たちは後ろかな」
さきちゃんの声が、どこか遠くで聞こえた。
......しゅんくんの、隣?
さっきまで、いいなって思ってたのに......
プリクラの中に入る足が、少しだけ重かった。
椅子に座ると、しゅんくんが隣に座った。
......近い。
さきちゃんのときは、気にならないのに......
思わずしゅんくんから離れようとしたけど、隙間がなかった。
......匂い、大丈夫だよね。
それに、ちゃんと笑えるかな......
気づくと、プリクラの画面が切り替わった。
「それじゃ、虫歯ポーズからいくよ~」
さきちゃんの言葉に従って、みんなでポーズを取った。
すると、さきちゃんが画面越しに見ながら言った。
「まいちゃん、もうちょっと真ん中寄って~」
一瞬、身体が止まった。
「3・」
カウントダウンが始まった。
急いで、真ん中に寄った。
しゅんくんの匂いが、少し強くなった気がした。
さっきから、心臓うるさい......
......しゅんくんに、聞こえてないよね?
そっと、しゅんくんの顔を見上げようとした瞬間――
パシャッ
「次はハートね~」
さきちゃんの声に従って、ポーズを取った。
片手でハートの半分を作っていると、しゅんくんの手が近づいてきた。
指先まで、動かなくなった。
触れてないはずなのに、少し熱かった。
......大きい。
シャッター音が、鳴った。
「それじゃ~、次は――」
いつの間にか、落書きの時間になっていた。
画面には、違うところを見ている私が何枚も映っていた。
うまく、笑えてなかった。
いつの間にか、鼓動が落ち着いていた。
それなのに、胸が苦しかった。
消したい......
見て欲しくない......
そっとしゅんくんを見上げると、いつも通り、楽しそうに笑っていた。
なぜか、目を逸らしたくなった。
プリクラも、やっぱり同じだった。
気がつくと、ため息が出ていた。
「まいちゃん、どうかした?」
心臓が、強く跳ねた。
顔を上げると、少し心配そうな顔を、しゅんくんがしていた。
「......な、なんでもないよ」
すると、さきちゃんも話に混ざってきた。
「どうかした~?」
一瞬、私の手を見た気がした。
さきちゃんは小さく頷くと、続けた。
「谷口くん、今日のプリはどうだったかな?」
顔を見るのが怖くて、視線を落とした。
気がつくと、指を強く握っていた。
......私、変だったし。
きっと――
「楽しかった!」
思わず、しゅんくんの顔をじっと見た。
いつもの笑顔だった。
胸の奥が、少しだけほどけた。
「そっか。それじゃ~このプリ、どう思った?」
そう言って、さきちゃんがしゅんくんにプリクラを見せた。
とっさに足が動いたけど、さきちゃんに手で止められた。
しゅんくんが、じっと見た。
......そんな、見ないでよ。
さきちゃんを少し睨んでいると、しゅんくんが口を開いた。
「いいと思う!」
「だよね。かわいいよね?」
「うん!かわいい!」
心臓が、びくっとした。
......そんなはず、ないのに。
しゅんくんの顔が、キラキラして見えた。
胸の奥が、ぎゅっとした。
手の中のプリクラが、少しだけいいと思えた。




