閑話 日常
三時間目開始のチャイムが、どこか遠くで聞こえた。
しゅんくんの嬉しそうな顔が、頭から離れなかった。
タルトを食べてくれたときから、よく覚えていなかった。
......変なこと、言ってないよね。
なんとなく、しゅんくんの背中を見ていた。
いつもと同じ、だよね......
ふと、しゅんくんの手元が目に入った。
犬のボールペンが見えた。
あれ......
雑貨屋のことが、よぎった。
あのとき、気に入ったって、言ってたな......
「......おそろいだ」
思わず、口に出ていた。
気がつくと、ペンを強く握っていた。
......聞こえてない、よね。
心臓がうるさかった。
周りをこっそり見渡した。
ほっと、息が漏れた。
視線を戻すと、そのボールペンを見ているだけで、胸の奥がきゅーっとした。
落ち着かないのに、少しだけ嬉しかった。
放課後のチャイムが鳴った。
連休明けだからか、教室がいつもより騒がしくなった。
帰る準備をしていると、ポケットの中でスマホが震えた。
画面を見ると、さきちゃんからだった。
「昇降口にいるね~」
「わかった」って言ってる猫のスタンプを送った。
バッグを持つと、しゅんくんたちの方に目を向けた。
......前って、どう「また明日」って言ってたっけ。
思い出そうとしたけど、うまく言えてなかった気がする。
しゅんくんたちに近づくにつれて、少しずつ息が苦しくなった。
頭の中で、「いつも通り、いつも通り」と唱えながら声をかけた。
「......ま、また明日」
気がつくと、バッグを強く握っていた。
しゅんくんたちの顔を見ないといけないのに......
目を合わせるのが、難しかった。
「あ、まいちゃん。また明日!」
その声で、肩の力が抜けた。
いつもと変わらないのに、それだけで嬉しかった。
私は小さく手を振って、教室を出た。
足取りが、少しだけ軽かった。
昇降口に着くと、さきちゃんと目が合った。
「お待たせ......」
まだ、胸が落ち着かなかった。
さきちゃんは、私の顔をじっと見て、ニコニコしていた。
校門を出てしばらく歩いていると、さきちゃんが口を開いた。
「何かいいことあった~?」
ドキッとした。
さきちゃんの目が、「正直に吐け」と言っていた。
......どうせ、バレてるし。
小さく息を吸って、答えた。
「......しゅんくんも、犬のボールペン買ってたみたいで」
なんだか落ち着かなかった。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
「そっか~。うん、うん。よかったね」
さきちゃんはニコニコしていた。
胸のあたりが、くすぐったかった。
すると、さきちゃんが手を打って言った。
「そうだ。明日のゲームセンターで、またプリ撮る?」
なんとなく、スマホカバーを撫でた。
......また、撮りたいな。
気がつくと、頷いていた。
「なら、次は谷口くんの隣で撮る?」
さきちゃんの口が、ニヤニヤしていた。
しゅんくんの隣......
少し想像しただけで、鼓動が早くなった。
「別に、いいし......」
「そっか~。まだ、早いかな?」
少しだけ睨んだのに、さきちゃんは楽しそうにクスクス笑っていた。
なんだか、ちょっとだけ悔しかった。




