閑話 チョコタルト
カフェを出ると、さっきより眩しく感じた。
「また明日~」
そう言って、さきちゃんは手を振った。
私も手を振って、家に向かった。
少しだけ、足が軽かった。
さっきの言葉が、何度も浮かんだ。
......しゅんくんと、一緒にいたい。
そう思うと、胸の奥がじんわりと温かくなった。
家に着いて、お菓子を作る準備をした。
この前、しゅんくんに「作ってくるね」と言ったチョコタルトだ。
あの時はなんとなくで提案したけど、今思うと......
少しだけ、くすぐったくなった。
いつもより、手が少しだけ丁寧になった。
何度もタルト生地を作ってるはずなのに、手の感覚が少し違った。
生地をまとめて、冷蔵庫で寝かせた。
たった30分なのに、妙に長く感じた。
冷蔵庫から取り出して、麺棒で生地を伸ばした。
崩れないように気を付けながら、1つずつ型に敷き込んだ。
底をフォークで軽く突いて、いくつか穴をあけた。
いつもは、ピケローラーがあれば楽なのにって思うのに。
今日は、このめんどくささが少しだけ嬉しかった。
底にクッキングシートを敷いて、重石をじゃらじゃらと置いた。
生地を、ゆっくりとオーブンに入れた。
焼いている間に、中身の準備を始めた。
温めた生クリームでチョコを混ぜていると、甘い匂いに包まれた。
そういえば――
しゅんくんが声をかけてくれたときは、チョコチップのカップケーキ食べてたな......
まだ1か月も経ってないはずなのに、少し前のことみたいに感じた。
そうしていると、オーブンのタイマーが鳴った。
オーブンからゆっくりと生地を取り出し、重石を外した。
......うん、ちゃんとできてそう。
あと、2つ......
そうして、タルト生地を3つ作った。
これくらいあれば、大丈夫かな。
さっき混ぜた中身をタルト生地に流し込んで、もう一度オーブンに入れた。
使った調理器具を洗いながら、嬉しそうに笑ってくれた顔を思い出した。
また、あの顔を見たいな......
甘くて、やわらかい匂いが広がっていた。
手を拭いて、オーブンの前に立った。
タイマーはまだなのに、待ち遠しかった。
しばらくして、焼き上がった。
ちゃんと焼けてる......よね。
ココアパウダーと粉砂糖を振りかけて、仕上げをした。
いつの間にか、3つのチョコタルトが並んでいた。
いつものように写真を撮って、さきちゃんに送った。
......しゅんくんにも、送ろうかな。
でも、急だし......
しゅんくんとのトークルームで、打ち込んでは消してを繰り返した。
「チョコタルト作ったよ 明日持っていくね」
気がつくと、これだけになっていた。
これで、いいよね......
少し考えてから、送信ボタンをちょっとだけ強く押した。
なんとなく、画面を見つめ続けた。
すると、既読が付いた。
私は反射的にトークルームを閉じた。
少しだけ、息が苦しくなった。
スマホが震えた。
そっと通知を見ると、スタンプが来ていた。
目をキラキラさせている、犬のスタンプが、なんだかかわいかった。
思わず息が漏れた。
......よかった。
くすぐったくて、なにかが満たされるような気がした。




