第17話 コーヒーカップとジェットコースター
観覧車から降りるころには、さきちゃんはいつもの表情になっていた。
なぜか、それにほっとした。
少し待っていると、しゅんくんたちも観覧車から降りてきた。
それに気づいたさきちゃんが、口を開いた。
「次どこ行く?まいちゃん、どこ行きたい?」
「......え、えっと......コーヒーカップ、とかかな」
「うん。いいじゃん。みんなはどう?」
さきちゃんは、私に一瞬目を合わせると、しゅんくんたちに目を向けた。
すると、しゅんくんがすぐに答えた。
「いいね!久しぶりだな~」
「お前はいっつも、激しいのばっかだもんな」
鈴木くんがツッコミを入れていた。
「それじゃ、コーヒーカップ行こっか」
そう言って、さきちゃんが歩き始めた。
それに続いて、しゅんくんたちも歩き出した。
まだ乗っていないのに、少しだけ嬉しかった。
なんで、こんなに温かいんだろう......
なんとなく胸に手を当ててみたけど、よくわからなかった。
コーヒーカップに乗る列に並んでいると、鈴木くんが口を開いた。
「今回はどう別れる?さっきと同じでいいか?」
少しだけ、嫌だなって思った。
でも、さきちゃんと乗りたくないわけじゃないのに。
なんでこんなこと思っちゃうんだろう......
答えを探しているうちに、さきちゃんが口を開いた。
「うーん、どうしようかな~」
そう言って、さきちゃんは私の目を見た。
「まいちゃんは、どうしたい?」
観覧車のときと同じ目だった。
優しい目のはずなのに、少しだけ怖かった。
「......どっちでも」
なんとなくカーディガンの袖を握りしめながら答えた。
「そっか。それじゃ、さっきと同じにしよっか」
なんだか、見透かされてるみたいで、落ち着かなかった。
しばらく待っていると、順番が来た。
「それじゃ、乗ろっか」
さっきのさきちゃんの目が気になって、どう反応すればいいかわからなかった。
声が出せないでいると、さきちゃんは私の手を引いた。
そのまま、コーヒーカップに乗った。
コーヒーカップが動き出しても、さきちゃんは私をじっと見たまま、何も言わなかった。
少し離れたところから、しゅんくんたちの楽しそうな声が聞こえた。
目を向けると、勢いよく回っていた。
「谷口くんたち、楽しそうだね」
さきちゃんの言葉に、私は小さく頷いた。
「まいちゃんは楽しい?」
「......つまらなくは、ないけど」
どうしてそう思うのか、自分でもよくわからなかった。
「ふーん。どうしたらもっと楽しくなるんだろうね」
近くのコーヒーカップに目を向けると、視界の端でさきちゃんがニコニコしていた。
コーヒーカップから降りると、鈴木くんと斎藤くんは、ふらふらしていた。
「谷、お前なぁ......」
「楽しかったな!」
「こいつ...」
鈴木くんは少し怖い目でしゅんくんを睨んでいたけど、
しゅんくんはケロッとしていて、なんだか面白かった。
しゅんくんたちの言い合いが一段落すると、さきちゃんが口を開いた。
「次はジェットコースター行く?谷口くん、行きたがってたでしょ?」
「やった!行こう!」
しゅんくんがすぐに答えた。
尻尾があったらいっぱい振ってそうだった。
あんまり得意じゃないのに......
さきちゃんに視線を送ったけど、一瞬目が合ったけど、すぐに逸らされた気がした。
なんで、ジェットコースターなんだろう......
ジェットコースターの列に並ぶと、さきちゃんが鈴木くんと斎藤くんに声をかけた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?まいちゃんと谷口くんは2人で話してて」
そう言って、3人で小声で話し始めた。
こっそり聞こうとしたけど、しゅんくんが話しかけてきた。
「違ったらごめんだけど、まいちゃんジェットコースター嫌い?」
一瞬だけドキッとした。
「......ちょっとだけ。でも乗れなくはないよ?」
よくわからないけど、少しだけ嬉しかった気がした。
「無理そうなら言ってね?」
「あ、ありがとう......」
しゅんくんの目を見続けるのが、なんだか恥ずかしくて目を逸らした。
やっぱり、優しいな......
不安なのに、胸の奥が温かかった。
しばらく、しゅんくんと好きなアトラクションの話をしていると、順番が来た。
荷物を置いていると、ふと思い出したことを聞いた。
「順番、どうするの?」
さきちゃんたちの方を見ると、さきちゃんと鈴木くん、斎藤くんはもう乗っていた。
「まいちゃんは、谷口くんと乗りなよ」
さきちゃんが、軽い調子で言った。
しゅんくんはそのまま座ると、手招きをした。
「まいちゃん、おいで!」
さきちゃんに視線を送ったけど、ニコニコするだけだった。
少し迷ってから、しゅんくんの隣に座った。
安全バーが下りて、アナウンスが始まった。
心臓がうるさくて、やっぱりこの時間は苦手だな......
でも、今日はなんだか違う気がした。
アナウンスが終わると、ジェットコースターが揺れ始めた。
心臓がずっとうるさくて、近くにあった布をぎゅっと掴んだ。
触り心地が、なんだかほんの少し違う気がしたけど、すぐに揺れに意識が引っ張られた。
頂上に来ると、この先を考えて、思わず手に力が入った。
一瞬止まって、そのまま一気に落ちた。
景色が一気に変わって、風が顔に当たる感覚に、声が出そうになった。
でも、なんとなく声を出したくなくて、唇を噛んだ。
後ろから、さきちゃんたちの楽しそうな声が聞こえた気がした。
気づくと、ジェットコースターが終わっていて、そのまま降りた。
まだ身体が揺れてる気がして、感覚が上手く戻らなかった。
ぼーっとしていると、さきちゃんがニヤニヤしながら私の手の方をじっと見ていた。
視線を追うと、しゅんくんの服を掴んでいた。
「......あ、ご、ごめん」
すぐに手を放して、しゅんくんに頭を下げた。
心臓がうるさくて、どうしていいかわからなかった。
しゅんくんの服の裾に、さっきの跡が残っていた。




