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接触Ⅰ⑧

 とは言え今度に関しても、やはり全てが滞りなくうまくいったわけではない。

 確かに日頃の「鍛錬」が実を結び、「上昇」の動き自体には先の場合よりもよほど目覚ましい熟練度合いが見て取れた。初めの内こそ、飽きもせずHの連中の妨害工作を仕掛けてきたせいで、「管」にしがみつき続けることに難儀することもあったが、この私に同じ策が何度も通用するだなどとは決して思うな。試行錯誤を繰り返しているうちに手足からにじみ出てきた血液が、ちょうどよい滑り止めの役割を果たしたのだろう、ほどなくして要領よく上っていくことが可能となった。

 だからここでの「停滞」の要因は私自身、具体的には、オオタニの挙動にこそ求められなければならない。

 もちろん、奴の存在が私にとって障害となることは、もとより織り込み済みである。「名探偵」のようにあまりに突出して能力が高すぎる者にとって、構造上、他者は軒並み「足手まとい」にしかなり得ない。さらにオオタニは「助手」である以前にそもそも「スパイ」なのであるからして、どれだけ表面的に繕っていようとも、私の目論見を阻むことこそが奴の至上命題であるという点には決して揺らがない。

 だからこそ「存在」自体が私の「障害」となるわけだが、その「障害」のなり方という点で、奴のここでの「挙動」は、事前の想定を遥かに凌駕していた。と言うのも地上で待機しているはずのオオタニは、まさしく「不意打ち」のようなタイミングで、ベン・E・キングの「STAND BY ME」を繰り返し熱唱し、そのたびごとに私の動きを止めてくれたからだ。

「名探偵」の分際で非常に申し訳ないのだが、正直言って、これには恐れ入った。非常に恐れ入らされた。ごく普通に生まれ、生活し、年を取り、やがて死を迎える者のうちの果たして何人が、生きている間に同様の「熱唱」をお天道様の下で(その時は時間帯としては夜だったが)披露する機会に恵まれるのだろうか……? いずれにせよ、その「挙動」が極限までバグったものである点については、異論の余地など寸分たりともあり得はしないだろう。

 もしかしてもしかすると、奴としては私の指示、すなわち「そこで誰か来ないか見張ってろ」に忠実に従っている風を装っているつもりでいたのかもしれない。つまり極めて好意的に受け取れば、「見張って」いる中で、誰かが近づいてきた時に、こちらに向けてわざわざ合図を送ってくれていた、という解釈が成り立つわけだ。だがそれにしても、全く予想のつかない不規則なタイミングで、互いの間に横たわる距離を物ともしないほどの大声で、「うぇんざないっ! はずかむっ! どぅるるーるーるーるー(←ここだけ鼻歌、たぶん歌詞がわかってない)♪」などと来られたとあっては、こちらとしてもたじろがないというわけにはいかない。……いや、というか、むしろ逆効果だろ? 明らかに逆に目立ってるだろ? 「助手」とか「見張り」とか、そういう役柄以前に、まず人間として間違ってるだろ? いや、それか間違ってるのは、この私の方なのか……?

 とは言え、不信感を抱いていることを気取られるわけにはいかない私としては、残念ながら「素知らぬ振り」を決め込む以外に選択肢がなく、結局「熱唱」が始まるたびに上昇を断念して静止し、代わりに「ジージジジジジー、ジジジ、ジジッ、ジジジッ」とか何とか言って、蝉の物真似をすることを余儀なくされた。「名探偵」としては大変屈辱的な仕打ちではあるが、「名探偵」であるからこそ、私は「任務」遂行のため、手段を選ぶわけにはいかない。


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