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417 動揺する




「えっ、ええっ、えっ、ええっ、ええっ!?」

「ほむら様~、落ち着いて~~」

「だ、だって、え、お、俺の、え、俺のこん、婚約、えっ……」

「どーどー。安心してほむら様。あれあの人の虚言だから」

「え?」

「虚言じゃない!! 真実だ!!!」

「な~に言ってんの。とっっっっっっくの昔に破棄されたでしょうが」



 何? 何を話してるんだ? 何のことだ?

 この紫の王子様が俺の許嫁?

 ないないないないない! あり得ないだろ! 何がどうなってそうなってこうなってこここここ――――……



「だが婚約者だったのは本当だ! それにあの破棄も僕は全然納得なんてしてない! フレアだって破棄したくてした訳じゃないはずだきっと――――」

「ウヒヒヒッ、可哀想~~! それ全部王子サマの妄想だよね~~?」

「違う!! フレアだって少しは……ちょっとは……1%くらいは……残念に思っていたはず……多分……」

「ないないそれはない。フレア様はさっさとこんな男と婚約破棄して自由になりた~~いってず~っとそんな感じだったじゃん。残念でした~~王子サマ。いつまでも夢見てないでちゃんと現実見たら~~?」

「なんだとッ……!? そこまで言わなくてもいいだろう!!」

「私は本当のこと言っただけです~~」

「いい加減にしてくださいレイン殿! 不敬が過ぎます!」


 三人がわちゃわちゃ話してる。

 なんかよくわかんないけどよくわかんないけどよくわかんないんだけど……



 俺が婚約してたのは、ほんとっぽい……?



 いや、どうなんだ? わからんわからんわからん……頭がぐらぐらっとして考えられない。俺の名前出た? でもでもでも、もし万が一ほんとだとしたら……




 俺は、顔を真っ赤にして蓮さんに食ってかかっている紫の人を見つめた。




 この人が俺の……俺、の…………




「特別な、人…………?」




 本当に?




「ほむら……?」


 彼が濃紫色の目を俺に向けた。

 思わずドキっとした。


「こ、婚約者って……だってその、そう、言ったから……」

「ああそうだ!」

「事実を捻じ曲げるのはやめなよ。それ王子サマの願望でしょ」

「願望……」


 何で?

 何でそんなに俺と夫婦になりたいの?


「俺と結婚したって……何の得もないよ? 俺、孤児だし財産もないし身分だってすっごい低いしがさつだし見た目も変だし……なのになんで……」



 わかんない。


 改めて考えたらいいとこ見当たらねえ。家事は得意だけどこんな金持ってそうな人ならお手伝いさんを雇えばいい話だろ? 俺と夫婦になったとして、この人にいいことなんて一つもない。むしろ周りの奴らにバカにされるかもしれないぞ。こんなのと結婚してどうすんだって。



 なのになのになのに…………



「お、俺の……家族に、なってくれる、の………?」

「ああ喜んで!!!」



 返ってきたのは力強い肯定だった。

 迷いのない、真剣そのものって顔。冗談言ってるようには見えない。

 そんな顔でじっと見つめられて、俺はどうしていいかわからず視線を彷徨わせた。



「そ、それはつまりその……夫婦になって、一緒に暮らすってこと……? 一緒に、ご飯食べたり、畑耕したり、風呂沸かしたり……そ、そういう?」

「ああ。君が望むなら僕はいくらでも畑を耕すし風呂だっていくらでも沸かす!!」



 カーッと顔が熱くなった。

 も、もしかして悪い人じゃないのか? 良い人なのか?

 俺なんかと一緒に生きてくれるって、本気で……?



 蓮さんは「むりむり~」と紫の人の肩に手を置いた。

 紫の人が「何をする!」と声を荒げる。


「クソ不器用な王子サマに植物の相手はむりだよ〜。畑を枯らしてほむら様泣かせるだけだって」

「う、うるさい! やってみなければわからないだろう! 僕でも育てられる植物だって世の中探せば一種類くらい見つかるはずだ!」

「いやないね絶対ないね。水やりの要らない奴でも枯らすね王子サマは。お風呂だってまともに用意できないよ絶対。そんな簡単じゃないからねお風呂の準備は」



 ど、どど、どうしよう……

 許嫁……俺に許嫁が出来てしまった。

 先生……先生に相談しなきゃ! うわわわわ、ほんとに俺に家族ができるの? ほんとに? まるで夢みたいだ。夢でも見てるみたいだ。頬を抓った。夢じゃない。



「あの、えっと王子様……本気? 本気、なんだよな? 本気で……。い、いいの?だって俺なんてそんな……」

「そうだ、良いことを思いついた。そんなに不安なら誓約書を作ろう」

「へ?」


 王子様はにこっととても怖い顔になった。


「婚約したことを紙に書いておくんだ。そうすれば君も不安にならないだろう?」

「え? えっと、え……」

「ちょっと待ってくれ。僕が今作るから、君はそれにサインをしてくれればいい」

「さいん? えっと、その、俺……」


 王子様は紙を取り出して何かサラサラと書き始めた。

 誓約書? サイン? 急にテキパキ事務作業を始めた王子様が怖くて固まっていると――――


「ちょ~っと待ったあ!」


 蓮さんが王子様の書いていた紙を奪い、ビリビリ破り捨てた。


「何をするレイン!!」

「ヤバいこと始めちゃったから阻止しただけだよ。何? 誓約書? 何考えてんの? 取りあえずサインだけしてくれればいいとか、何その悪徳商法でありがちな口上。詐欺じゃん」

「口約束で済ませたらうやむやになる。彼女も乗り気のようだし、今のうちに書類さえ作成しておけば後はこちらのものだ……!」

「うっわ最低。軽蔑するわ~~」


 な、何だ? 何が起きてるんだ?

 俺だけついていけないんだけど。


「いい? そんなの同意の内に入らないからね? 記憶のない間に誓約書作っちゃうとかさ、それ女の子に睡眠薬飲ませて部屋に連れ込むのと同じことだからね?」

「ちッ違う!!! 僕はそんな不埒なことはしない!!!!!」

「いや似たようなもんでしょ。記憶ないうちに婚約の誓約書書かせるとか最低~。大体君が好きなのはほむら様じゃなくてフレア様じゃん」

「ぐぅ……。そこまで言うなら何とかして今すぐ思い出してもら――――」

「だめだめ、むりやり思い出させるのはお勧めしないよ~? 記憶ってのはただでさえ繊細なんだから。下手したら記憶がグチャグチャに混ざり合っちゃうか変わっちゃうか、どちらにせよ元のフレア様には永遠に戻れなくなるよ」

「そ、それはだめだ……」


 紫の人はすごく怯えた表情になった。

 何の話をしてるか俺にはさっぱりわからない。


「酷いよねえ、そんな繊細な状態のほむら様に、婚約の誓約書なんてねえ。ね、最低だね王子サマ。わかったらもっぺん土下座して許しを請えば?」

「うッ……」

「まあそもそも記憶が戻ったとして、フレア様が王子サマを選ぶとはとてもとても思えないけどね~!」

「ううッ……!」


 紫の人は胸を押さえて苦しそうに呻いた。

 よくわかんないけど、すごく追い詰められているみたいだ。


「レイン殿! これ以上殿下を虐めるのはおやめください!」と橙色の人。

「そ、そうだエイト、お前はどう思う? 誓約書を作るのはそんなに悪いことか!?」

「悪いです」

「え」

「今回ばかりはちょっと……。レイン殿の言い方は悪いですが言っていることは間違っていないかと思います。そういうことはきちんとフレア様とお話しなさいませんと」

「お前まで……」

「暴走する主人を止めるのも臣下の役割です。それに殿下は後々自己嫌悪に陥って面倒なことになりそうですし」

「…………言うようになったな本当に」

「良い騎士サマを持ったねえ王子サマ」

「ああ、全くだ。全く………………全くもってお前たちの言う通りだ。僕はどうかしていた……確かに、どうかしていた。怖がらせたのに、また余計酷いことを…………」



 紫の人はシュン、と肩を落として項垂れてしまった。

 何かよくわからないけど皆から責められて落ち込んでいるみたいだ。

 どうしたんだ? 何が起こってるんだ?

 紫の人が何かよくないことをしようとして、皆が叱ってる……て感じ?


 何か可哀想。でも本当に状況が飲み込めない。

 結局この人は俺のことどう思ってるんだろう? わからない。

 好きなのか? 嫌いなのか? だめだ、考えようとしたら頭が熱くなって爆発しそう。



 頭の中ぐるぐるしてると、紫の人がふと顔を上げて「ほむら……? 大丈夫か!? 顔が赤いぞ!?」と俺に近づいてきた。


 ……この人、俺より背が高い。顔、綺麗だ。濃紫の目も、髪も。

 よく見ると優しそうな気もする。この人が? この人が本当に俺のこと――――――…………



 紫の人がそっと俺に手を伸ばした。不安そうに俺を見つめている。

 その手が俺の額に触れそうになった、瞬間……





「うひゃああああああああああああ!!!」

「ッ!?」




 ドゴッ





「殿下!?」

「うわー、いったそう~」



 どうしようどうしようやっちまった……!!

 背負い投げてしまった。それはそれは思いきり。自分でもなんでこんなことしちまったかわからない。勝手に体が動いて気づいたらこれ。


 紫の人は「ぐう……」と床に伸びている。

 必死で謝った。熱い。目が回りそうだし本当に爆発しそうだ。



「お、俺、俺俺俺……俺!! 頭冷やしてくる!!!」

「あ」

「ほむら様!?」



 俺は堪らなくなって部屋を飛び出した。

 しばらく無我夢中で廊下を走って、蓮さんの子供たちに挨拶して、それから角を曲がって曲がって階段を上がって下がって下がって上がって…………――――




「おいこんなとこで走るんじゃねえ!! 危ねえだろ!!!」




 突然怒鳴られた。

 俺が辿り着いたのは、厨房だった。

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