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Tri ALLs -トライアル-  作者: 木偶 坊
第一章 それぞれの立ち位置:佐井本編
13/14

Let's enjoy off-road!!


採掘街エミネット、行政地区。

領主の城の前で一台のオフロードバイクが8の字の軌道を描いていた。

時速30キロに満たないゆっくりした速度ではあるものの、それを運転する佐井本は慣れた様子である。


そのすぐ近くでダニウスは魔法の剣を構えていた。

動き回るバイクに動揺してはいるが、未知の攻撃に対する回避と反撃に備え、剣先はしっかりと佐井本を捉えている。


その様子を魔術師ギルドの前に居た魔術師たちは魔法の杖を固く握りしめ、遠巻きに眺めていた。


彼らの世界にバイクは存在しない。

しかし乗り物であるという事は情報として知っていた。

だが、それは身元不明で見た事も無い格好をした持ち主の口から語られた事であり、当の本人は一向にその乗り物に乗る様子も無かった。

つまりは信用出来ない情報として彼の存在と同様に警戒していたのだ。


そしてそれに気付いた佐井本は、少なくとも剣を突き付けられない程度の信頼を得る為にバイクを走らせている。


やがて彼の周りに魔術師が集まる。

奇妙な音を出しながらすいすいと走るそれに興味本位で近づく者や、大した脅威ではないと高を括った者だ。


ひとたび人が集まれば、一人、また一人とその数は増えていく。


これだけの人数が居れば。

あれが暴れだしても数の利で何とかなるだろうと。

自分が被害に遭う確率は下がるはずだと。


そのような集団心理と元々持っていた好奇心に動かされ、佐井本の周囲にはちょっとした人だかりが形成された。


さらに、人だかりに惹かれて野次馬根性の強い貴族が何だ何だと集まってくる。

当然ながら彼らはこの雑踏に紛れた事情というものを一切知らない。

新手の大道芸であると勘違いしたのか、財布からコインを取り出す始末だ。


佐井本は暫く走らせていたバイクを停め、ヘルメットを脱ぐ。

すると何処からか拍手が起こった。

音の元は愉快そうに手を打っている貴族たちだ。

しかし周囲の魔術師が一切拍手をしていないことと、拍手を送られた佐井本が困惑の表情を見せたことに気付いたのか、すぐに拍手の音が小さく、疎らになっていき、やがてはぴたりと止まる。

そして彼らは怪訝そうな顔で取り出したコインを財布の中に戻していった。


佐井本は魔術師たちへ謝罪の旨を告げ、深く頭を下げる。

ダニウスも警戒を一先ず解いたようで、剣を鞘に納める。

それから間も無く佐井本は何処かへと去って行った。


時間にして数分。

広大なエミネットの街からすれば、ほんの些細な騒動に過ぎなかった。

ピークを過ぎれば急速に熱が冷め、鳴りを潜める。

勘違いに気付き、何事も無かったかのように雑踏を後にする貴族たちと同じく。




しかし、高く聳える城の窓。

エミネットの領主がそこからじろりと見ていた事は、誰も知らない。



―――――――



やめて。


拍手やめて。


たかが8の字走行に拍手なんていらないから。

何だか恥ずかしくなってくるだろ。


俺だって本当は格好良くウィリーとか、アクセルターンとか、ジャックナイフとかやってみたいんだよ。

ただ、まだ免許取って二か月、技量が圧倒的に足りない。


それに、今は事が事だ。

派手な動きをして切られたくはない。


「…………」


バイクから降り、ダニウスの反応を待つ。

ダニウスは周囲の魔術師たちをちらりと見て、すっと剣を降ろす。


「あー、分かった。こいつは確かに乗り物だ。そういう事にしといてやる」


その言葉を聞いて、俺は胸を撫で下ろした。


「ただな、俺たち魔術師はこの街を守っていかなきゃならねえんだ。あまり目立つマネは止めてもらいてえな……ただでさえピリピリした状態だってのによ」


「それは分かってるつもりだ、俺とセローはこの街に危害を加えるつもりは無い。ただ、こんな風体だからどうしても目立ってしまう。そこは謝りたい」


俺は周囲の魔術師たちに向かって頭を深く下げ、謝罪する。


「皆さん、ご迷惑をお掛けいたしました!」


ダニウスは溜息をついて、剣を収める。


「…………行け。行政地区にはもう、その乗り物と恰好で入ってくるんじゃねーぞ」


「分かった、今すぐ出ていく」


俺は頷く。


「……因みに聞いておくが、これからどこ行くつもりだ?」


「鉱山の方だけど、駄目なのか?」


「坑道の中には入んなよ?」


「分かった」




―――――――――――――




行政地区を抜け、商業地区の中央道からバイクを走らせて街の外に出る。

中央道は道幅が広く、馬車の往来が目立ったが、バイクを走らせるだけの余裕があった。

車両が道の中央を往き、人が道の端を歩く、と分かれているのはどうやら異世界でも同じだったようだ。


そこから南にある鉱山に向かって走る。

鉱山へ向かうと言ったが、鉱山に用は無い。

用があるのは鉱山のすぐ近く。


「やっぱりあった」


採掘の際に必ず出る、価値にならない石や土を捨てる為の場所。

つまりズリ捨て場だ。


「へー、いい感じの場所じゃん」


俺は足元の砂利をジャリジャリと鳴らして呟く。

やや角ばった砂利の広場が辺り一面に広がっていた。

大きめの石はズリ捨て場の一角に纏められている。

上々だ。


「で、大地はここで何をするの?」


「分かってんだろ?」


バイクの練習だ。

周囲の視線に晒され、果ては魔術師たちに職務質問されてまでプロテクターを着続けた意味はそこにある。

異世界に行ってまでバイクの練習か、他にやることは無いのかと言われそうだが、言っておこう。


他にやることは無い!

異世界だからこそ、バイクの練習をするのだ!


道路交通法なんてものが存在しない自由な世界。

街を出れば、何処を向いてもオフロード。


此処は楽園か!?


好ましいことに今のセローは気合いで動いており、給油の必要は無い。

財布の事情や燃料タンクの残量を気にせずバンバン走り回れる。


此処は天国か!?


俺が住んでいた家は都市部に近く、オフロードと呼べるような場所はあの河川敷公園くらいしかなかった。

一番近くの林道でもちょっと遠出しないといけないレベルで、気軽に行けるようなものでは無かった。


これを好機と言わず何と呼ぶ?


「……嫌な予感しかしないんだけど」


「大丈夫、俺もだ」


「ちょっと!?」


「まあ、良い機会なんだし楽しもうぜ」


レッツエンジョイオフロード!


存分に楽しまずして何がオフ車乗りか。


ただ、転倒には気を付けておこう。

部品が壊れても替えなんて無いのだから。



「おめえ、ここで何やってる?」



突如、俺の後ろから低い声が聞こえた。


「あ……おぅ」


振り返り、動揺する。

そこに居たのは人間とは大きくかけ離れた外見をしていた生き物だった。


2メートルを超える巨体。

体毛と呼べるものが一切生えておらず。

おとがいが無く、耳が生えていない。

顔の真ん中に、二つ穴が開いただけの鼻。

太い手足と、腰の辺りから伸びる太い尾。

そして、その体中を覆う鱗。

二本足で歩くトカゲのような体躯。


言われなくてもそれが何の種族か分かる。

リザードマンだ。


「言え、何やってる?」


リザードマンはずいと近寄る。

その巨体と見た目も相まってか、かなりの威圧感だ。


彼が着ている服は簡素で、薄汚れていた。

後ろには大量の石が入った木製のトロッコのような台車。

恐らくは石を捨てに来た鉱山労働者なのだろう。


「バイクの練習を、これからやろうかなー、と」


「バイク? 魔法か?」


「いえ、こいつです」


俺はセローのタンクをポンポンと叩く。


「あんちゃんの乗ってる変なヤツか?」


「ええ、乗り物でして、上手く乗るにはそれなりの熟練が必要で……邪魔でしたら帰りますが」


「なるほどな……どれ、おれが見守ってやろう」


リザードマンはそう言ってその場にどっかりと座る。


「えぇ……」


「気にすんなあんちゃん、ここにはよく魔術師も魔法の練習をやりにやって来るからな」


「……どうする? やめとく?」


セローがひそひそと尋ねる。


「練習するといった手前、しない訳にはいかんだろ」


「はあ……転ばないでね?」


「善処する」


さて。

砂利道の走行は初となるが、どうしたものか。


取り敢えずいつもの練習通り8の字走行から始めようかと思い、ギアを一速へ入れる。

クラッチを離していくとゆっくりと車体が進み始め、ジャリジャリとタイヤが砂利を踏みしめる。

ご機嫌な滑り出しに気分を良くした俺はそのまま、頭の中でイメージした8の字のコースへと入っていく。




その時だった。




「あ」


曲がろうと車体を右に傾けた瞬間、後輪が滑った。

車体のバランスが崩れ、突然の事で対処に遅れた俺の身体は変に捻じれる。

そして右手は更にアクセルを捻る形になってしまった。

クラッチを切る間も無く、捻られたアクセルから駆動力が後輪に伝わる。

更に後輪が滑る。

更にバランスが崩れる。



結果。



「痛ったあぁああっ!!」


エンジンが唸り声をあげ、セローが叫び声をあげた。


「やっちまった!!」


俺も叫んだ。


「おいおい!大丈夫か!?」


リザードマンのおっさんも叫んだ。


「まさか開始三秒でこけるとは……」


砂利道は想像以上に滑りやすいという事実に驚愕する。


「善処するんじゃなかったの!? バカ!アホ!まぬけ!」


幸い俺の方に怪我は無かったが、セローはご立腹のようだ。

罵倒の嵐が飛んでくる。


「悪かったって……」


さて。

転倒してしまった以上、すべき事は一つだ。


引き起こし。

教習所でまず間違いなく皆やるであろう事だ。

やり方は、まずエンジンを切り、バイクを持って足の力で起こす。


以上。


言うは易し行うは難しとは正にこの事で、いざ引き起こしを行おうものなら想像の何倍もの重量が襲い掛かる。

数多のバイク乗り達も苦戦しているようで、インターネットで「バイク 引き起こし コツ」と検索するとコツの数々が出てくる出てくる。


前ブレーキをバンドで固定するとか、後輪に近い部分を持つとか、足を曲げきると力が出ない、クラウチングスタートの姿勢が一番良い、とか。

しかし、やがては皆一つの結論へと行きつく。


『そうだ 筋トレ、しよう。』


コツはあくまでコツであり、力のロスを減らすための物であると。

実際に引き起こすのは自分自身の力なのだと悟るのだ。


そうでなければ助っ人か、ロードサービスか、だ。



とは言え低排気量かつ軽量なオフロードバイクであるセローはコツとか無くとも割と何とかなる。

……前に一度、実体験(トラウマ)があるので言えるセリフだ。


何はともあれ、引き起こしを始める。

エンジンを切り、セローの取っ手とフレームを掴む。

そして足に力を籠め、車体を起こす。


「――ふっ!……あれ?」


……のだが。

砂利で足が滑り中々踏ん張れない。


「んー、よい……しょっ!?」


今度こそと地面をしっかりと踏みしめ、再度引き起こしを試みる。

ぐっ、と力を込めた直後、突如セローの重量が消え失せた。


「あんちゃん、怪我はねえか?」


どうやらリザードマンが助けに来てくれたようだ。

130kgのセローをリザードマンは小脇に抱えて持ち上げていた。


……とんでもない筋力だ、羨ましい。


「あ、はい。ありがとうございます」


「しかし、練習が要るってのは本当なんだな」


持ち上げたセローを地面へ降ろして、何やら感心したようにリザードマンは呟いた。


「え、ええ」


「大地、ハンドルの右辺りがジンジンするんだけど」


不機嫌な調子でセローは喋る。

見ると、こけた拍子で付いたであろう擦り傷がハンドルガードに付いていた。

因みに以前セローを倒した時は左側だったので、これでバランスが取れたと言えよう。


全く持って嬉しくないが。


「……あーあ、ハンドルガードに傷いってら」


「バカ!アホ!へたくそ!」


再度俺に罵倒の嵐が襲い掛かる。

先程より切れ味が鋭く、心に突き刺さった。

特に最後の言葉。


「ぐっ」と思わず声が漏れる。


「バイクに言われて何よりも心にくる悪口って「へたくそ」なんだな……」


「へたくそ!ずっこけライダー!恰好だけオフローダー!」


「やめて分かってるから!もう言わなくていいから!俺が悪かったから!」


言葉のナイフが鋭さを増して突き刺さる。

俺は平謝りに謝るしかなかった。


「ははは、尻に敷かれてるねえあんちゃん!」


リザードマンが笑った。



―――――



よし。

気を取り直してリベンジだ。

セローに跨り、ギアをニュートラルに入れてエンジンを掛け直す。

そして、何故自分がこけてしまったのかを考える。

結果、一つ思い当たる節があった。


オフロードを走る上で大事な事その一。

ニーグリップは忘れろ。


教習所では誰しもが口を酸っぱくして言われたであろうニーグリップ。

だが、それはあくまでもオンロードを走る上でのテクニックに過ぎないのだ。

オフロードでは急に後輪が滑ったり、ガタガタと車体が暴れたりする場面が多い。

ニーグリップでバイクとライダーを固定してしまうと、そんなバイクの挙動がダイレクトにライダーに伝わる。

当然制御がし辛くなり、こけやすくもなる。


教習所でのやり方がまだ抜けきっておらず、曲がる時に俺は自然とニーグリップをしていたようだ。


「……確かオフロードではリーンアウトで曲がるんだったな」


俺は以前ネットで調べたことを思い出す。


オフロードでのコーナーの基本。

コーナーに差し掛かると先ずアクセルを戻す。

そしてハンドルは切らずにリーンアウトの姿勢でイン側の足を前に出し、車体だけを傾ける。

徐々にアクセルを開けて行き、ハンドルを切るのはコーナーの最後。


何度か心の中で復唱し、気合いを入れ直すようにギアペダルを踏み付け、一速に入れる。


「よし、発進!」


クラッチを離し、バイクを走らせる。

イメージしているのは楕円状のコースだ。

車体をバンクさせ、コーナーに入ると後輪が滑る。


「うお、滑る滑る!」


しかしリーンアウトの姿勢は滑ってもリカバリーが効く。

滑りながらもシート上の姿勢を変えてバランスを取る。

バランスが崩れたら伸ばした足を地面に着けて安定させる。


こけそうで怖い!

怖いけど!


「ハハッ!楽しいなこれ!」


何よりも楽しい!


プロが見たら鼻で笑われるレベルだろうが、まるでオフロードバイクを身体全身使って意のままに操っているような感覚だ。

まさに人馬一体。

セローはカモシカをモチーフとしているらしいので、この場合は人鹿一体と言うべきか。


「……すっごいヒヤヒヤする」


セローが声を漏らした。

気持ちは一体にはならないらしい。



――――――――――



右回り、左回りで楕円のコースを走り、その後8の字を走る。

後輪が何度も滑ったが、その度に姿勢を取り直す。

段々調子が出てきたので、徐々にスピードも上げていった。


因みにその間リザードマンは地面に寝っ転がり、鼻糞をほじりながら俺の練習を見ていた。


「何だか調子が出てきたな、このままアクセルターンの練習もやってみようか」


ふと、思い立った俺はバイクを停めて呟いた。


「調子に乗ってるって言うのよ、そういうの。痛い思いをするのは私なんだから止めてよね」


「……初心者でも簡単にできるアクセルターンってのがあるんだよ、やるのは初めてだけど」


アクセルターン。


片足を軸にバイクの後輪を滑らせてグルグル回転する技だ。

特撮のバイクアクションでは、見た目の派手さもあってかウィリーと同様によく用いられる。


やり方は思いの外簡単だ。

ターンする方向にハンドルをロックするまで切り、車体を思いっきりバンクさせ、アクセルを大胆に捻れば良い。


しかし、いざやろうとすると、とにかく不安定になるのだ。

バンクさせた分だけ軸足に掛かる重量は増し、不安定になる。

だからと言ってバンク角が不足するとバイクは不安定な挙動をするようになる。

アクセルを十分に開けないと後輪が滑らず不安定に。

後輪を滑らせることでさらに不安定に。

つまりアクセルターンをやろうとする者は片足で不安定な車体を支えねばならず、常に転倒してしまう恐怖が襲い掛かる。

初心者には少しハードルが高い。


では初心者でもできるアクセルターンとは一体何なのか。

答えは明白。


片足が怖い?

それなら両足着いちゃえばいいじゃん、と。


バイクから降り、押して歩く姿勢からアクセルターンに入れば良いのだ。

シートに腰を密着させ、両足と腰を使ってしっかりと支える事で、安定感は抜群に増す。

多少不格好に見えるが本質的には変わらない。

片足アクセルターンに必要なアクセルワークとバンク角のコツを掴むには持ってこいの練習だ。


俺はセローから降り、暴走しないように何時でもブレーキとクラッチを握れるようにして、車体をしっかりと傾ける。

そしてアクセルを大胆に。


「捻るっ!」


エンジンが唸り、パッとクラッチを離すと発生した余りあるトルクによって後輪は砂利を撒き散らしながら滑る。

滑り続ける車体は俺の身体を軸に180度回転し、少々歪んだ半円の轍を刻む。


「うお、すげえ」


リザードマンは驚いた様子で、鼻糞をほじる手を止めて感嘆の声を上げた。


「出来た出来た!やってみるもんだな!」


少々車体に引っ張られはしたが、立派なアクセルターンだ。

俺は燥ぐ。


「そういえば。なあ、あんちゃん!」


リザードマンがむくりと起き上がり、思い出したように口を開く。


「何ですか?」


俺は会話を聞きやすくする為にエンジンを切り、ヘルメットを脱いだ。


「ウチの同僚が行きがけに変なモン見たって騒いでたが、それってもしかしてあんちゃんの事か?」


鉱山労働者の同僚。

行きがけ。


エミネットに向かう時にすれ違ったオーク族の男を思い出す。

もしかするとその人の事か?


俺は尋ねる。


「その同僚の方ってオーク族ですか?」


「ああ、そうだ」


「……多分俺ですね」


俺がそう言うと、リザードマンは突然腹を抱えて大声で笑い出す。


「ハハハハハ!!こりゃ傑作だ!!」


「な、何ですか?」


「いやなに、同僚が真っ青な顔して「あれは魔王の使いに違いない!」とか言ってたもんでよ。それがどうだ、人間の小僧じゃねえか!」


「魔王とかいるんですか!?」


まさか、俺がこの世界に召喚された理由は魔王を倒すために!?

バイクに乗った勇者としてこの世界を救うために!?


「いたな、二十年くらい前に。もう処刑されて死んじまったが……そうか、あんちゃんは戦争を知らない世代か。時が経つのは早いもんだな」


リザードマンはしみじみと語った。


「ああ、そう」


どうやら世界は平和みたいだ。

良かった良かった。


そう思ったところで、ふと思い出す。

行政地区に入る時、シャーリャが「交通規制がかかっている」と言っていた。

城の前でダニウスも「ただでさえピリピリした状況」と言っていた。


何か良くない事でもあったのだろうか?

だとすると、平和という訳でもないのかもしれない。


そう考え、エミネットの方へ目を向ける。


……その途中、目に入った。

未だ石が詰まったままのトロッコを。

そう言えばこのリザードマンは仕事の途中だったのでは?


「そういえば、お仕事は大丈夫ですか?」


「サボりだ」


「仕事しろ!」


平然とサボっていると言うリザードマンに、思わず敬語も忘れて俺はツッコむ。


「強いて言うならこうしていることが今の仕事だな、うん」


「俺の練習を見ていることが、ですか?」


「ああ、素性も知れぬ怪しい奴がここでおかしなことをしないように見張っているんだ。何か起こってからでは遅いからな、現場判断だ」


先程まで寝っ転がって鼻糞をほじっていた奴のセリフとは思えない言葉が飛び出す。

間違いない、こいつはサボり魔だ。


此処では魔術師がよく魔法の練習に訪れると言っていた。

その度に見張りと言ってサボっていたのではないのだろうか?


「そうですか、それじゃそろそろ帰ります。お手を煩わせたようですいません。」


「……陽が沈むまでここにいてくれてもいいんだぜ?」


「…………」


よし、今すぐ帰ろう。

それが彼の為でもある。



――――――



ズリ捨て場を後にした俺は、商業地区に向かってバイクを走らせていた。

目的地は宿屋だ。

日没にはまだ時間はあったが、部屋でラナフィを待つことにしよう。


「ん?」


ふと、俺の視界にどこか見覚えのある妙な人影が入った。

俺はそれに何の気も無しに近付く。


灰色の肌。

二メートル位の巨体に、丸太のような手足。

耳が尖り、頭髪の生えていない頭部。


今朝すれ違い、リザードマンとの会話に出てきたオーク族の男だ。

街に向かって走っているようだが、奇妙な走り方だ。

腕を振っていない。

腕を組みながら走っているようにも見えた。


変な走り方だな、と思いながら俺は彼を抜き去る。



そして。



「…………え?」


ミラーに映ったオークを見て、困惑する。






泣いていた。

奇怪な顔を、ぐしゃぐしゃに歪ませて、大粒の涙と鼻汁を流しながら彼は走っていた。


彼の大きな両腕には、黒い塊が抱えられていた。






余りに奇妙な光景に、俺は思わずバイクを停める。


「あの!」


そして後ろから走ってくるオークに、声を掛ける。


「何か、あったんですか?」


全力で走り続けたのか、オークはヒューヒューとした呼吸の合間から掠れる様な声を出した。


「…………めが」


「……むす……めが!」


娘が。

そう言った。



まさかと思い、彼が抱えている黒い塊を注視し――



「!?」



――そして驚愕する。







黒い塊は、人の形をしていた。

大きさから、四、五歳程の小さな子供。


肌が異常な程どす黒い色に染まり、力無く、ぐったりとしていた。

その子の様子と彼の様子を併せて、かなり深刻な状態に陥っていると気付くのに時間は掛からなかった。




※分からない人の為に一応解説を


・ウィリー


前輪を浮かせたままバランスを取って走行する技術。

前輪を浮かせることを「フロントアップ」と言う。


・ジャックナイフ


ブレーキを使って後輪を浮かせる技術。

応用技としてジャックナイフの状態から身体を捻り、車体の向きを変える「ジャックナイフターン」というものがある。


・転倒


言わずと知れた転倒。フルバンク停車、外装慣らし、ガシャーニングとも。

買ったばかりのGSX1000R、希少なZ1、高価なNRなどを倒してしまうと目も当てられない。

因みに佐井本のトラウマは車庫入れの際、縁石に引っかかって倒してしまった事である。


・ニーグリップ


バイクのタンクをしっかりと膝で挟み、バイクとライダーを固定すること。

低速走行の要。


・リーン○○


バイクは曲がる際、車体が傾く。

バイクの傾きに対して

ライダーも同じ角度に傾くのが「リーンウィズ」

ライダーがイン側に傾くのが「リーンイン」

ライダーがアウト側に傾くのが「リーンアウト」

それぞれ特性があるので使い分けられると便利。


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