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Tri ALLs -トライアル-  作者: 木偶 坊
第一章 それぞれの立ち位置:佐井本編
14/14

爆走



「説明を聞く余裕はなさそうですね、運びます」


カーティとの会話を思い出す。

確か、治療院という病院みたいな施設があったはずだ。


「治療院で合ってますか?」


俺は尋ねる。

荒い呼吸を続けるオークの男はブンブンと縦に首を振る。


よし。

そしてもう一つ、確認すべき事がある。


俺はグローブを外し、オークの男を手招きする。

そして近づいて来た彼が抱えている、オークの娘の首元に手を当てる。


熱い。


脈はあるが、酷い高熱だ。

しかし、冷たくなくて良かった。

体温があるということは、少なくともこの子は生きているということだからだ。


さて。


問題は、意識の無いこの子をバイクでどうやって運ぶか、だ。

俺は深呼吸を一つする。

こういった時には冷静になるのが一番だ。


俺はリュックサックを開き、手持ちの荷物を確認する。

中に入っていたのは免許証が入った財布と、水筒、タオルの三つだ。

ミニパイロンは全て河川敷公園に置いている。

今頃どうなっているかは知らない。



俺は少しの間考え、そして素早く行動に移る。



セローのエンジンを切り、鍵を引っこ抜く。

リュックサックからタオルを取り出し、セローの鍵を使って何とか縦半分に裂く。

そして二つになったタオルを結んで一本の帯にする。

次いでリュックサックの背負い紐の長さをブカブカに、丁度俺とリュックサックの間に子供が入る位まで長く伸ばす。


「ここに娘さんを」


俺は背中とブカブカのリュックに出来たスペースを指差し、オークの男を促す。

彼も俺がどうしたいのか理解したようで、そこへ子供を入れる。


リュックサックの背負い紐を調節し、タオルの帯で俺と子供、リュックサックをしっかりと固定する。

赤ちゃんを背負う時に使う、おんぶ紐のイメージだ。


これで振り落とされる心配は無くなった。


「必ず助けます!」


そうオークの男に告げ、俺はセローのエンジンを掛ける。

そしてアクセルを思いっきり捻る。

急な加速でセローの前輪が少し浮いたが、無理矢理体勢を立て直す。


「今フロントアップが出来ても嬉しくねえよ!!」


俺はそう吐き捨て、アクセルを戻しギアを上げる。

そして、戻したアクセルを再び限界まで開ける。

エンジンが唸る。

ヒュウヒュウと、ヘルメットが風を切る。


何時の間にか、スピードメーターは100の値を突破していた。

後ろに引っ張られるような風圧が、鬱陶しくて仕方が無かった。



――――――――



採掘街エミネット、商業地区。

とある通りで肉巻きの屋台を営んでいた店主は客引きをしながら忙しなく串焼きの串をクルクルと回していた。


肉巻きとは、練った小麦粉を薄い円盤状に伸ばして焼いた物でローストした肉をソースや野菜等と共に巻いて包んだファーストフードである。

単純な料理である為、発祥は何処かなどは定かではなく、各地で様々な呼び名がある。


その土地の名前がそのまま名前になったもの。

「渦を巻く」を意味する言葉を語源に、それが訛ったもの。

また、大昔の諸公がその料理を気に入り、自分の名前をその料理に付けた、といったものもある。


エミネットでは「肉巻き」と単純明快な名前で、肉はトカゲや鳥類の肉が用いられる。


そんな屋台の元へ、一人の亜人が近付いた。

やや小柄で、体毛に覆われた体躯に、角が生えた犬の様な頭部を持つ、コボルト族に分類される亜人だ。


彼は商業地区で雑貨屋を営んでおり、今日は店番を妻と子供に任せて商品の仕入れに出かけている最中であった。

粗方の用件が済み、満足のいく疲労感と共に中途半端な空腹感を覚えた彼は、匂いに惹かれてふらりと立ち寄った次第である。


小耳に挟んだ情報と共に。


「一つくれ」


そう言って彼は財布から紐で纏められた十枚の銅貨と、五枚の銅貨を取り出した。

店主は笑い、看板を指差す。


「おいおい、看板が読めないのか? 銅二十だ」


「知ってるぜ? 今日は半額以下で仕入れたんだろ? トカゲ肉」


コボルトがそう言うと、店主の表情が諦めの表情へと変わった。


「何だ、知ってたのか。お前も」


「どっかの馬鹿魔術師が大量にシメちまったみたいだな」


「ああ、そうだよ」


嘆くように呟き、店主は十五枚の銅貨を受け取る。

そして慣れた手つきで肉巻きを作り始めた。


「お前も……って事はなんだ、他にもいたんだな。それ知ってる奴」


「知ってるも何も、俺のとこに買いに来た奴全員そう言って値切ってきやがったよ。折角儲けるチャンスだと思ったのによ」


「ハハハ、世の中そう上手くはいかねえよ」


「全くだ……ほらよ」


「おう」


店主は出来上がった肉巻きを手渡す。

受け取ったコボルトは早速それに齧り付く。


「こんな小さな、十かそこらの歳した女の子まで知ってる始末だ」


左手を鳩尾辺りの高さまで上げながら、愚痴るように店主は先程の話を続ける。


「そうなのか?」


口の中の物を飲み込み、コボルトは少し驚いたように言った。

店主は身振り手振りを加えながら答える。


「ああ、角生やした亜人だ。ボロボロの着物に、こんな重そうな大荷物背負ってな? 馬に着ける鞄に、綺麗な兜もぶら下がってたから……ありゃ騎士様の小間使いに違いねえよ」


「可哀想に、酷ぇことさせやがる」


「全くだ……あ」


二人は眉を顰めるが、突然店主が思い出したように呟いた。

コボルトは一体どうした、と言いたそうに店主を見る。


「いや待て、一人いたな。知らない奴」


「へえ、どんな奴だ?」


「何か……妙な格好でバイクとかいう妙な乗り物を押してたな。ワームから命辛々逃げ延びたってんで、一つサービスしてやったのを覚えてる」


「気前良いじゃねえか」


コボルトは茶化すように言うと、店主は三つの眼でじろりと彼を見る。


「あん時はまだ儲かるって思ってたんだよ、五月蠅ぇな」


そこで、コボルトはふと思い出す。


妙な格好で妙な物を押しながら街を歩いている人間がいる。


俺は見ただの、見てないだの、道行く先々でそんな話題で盛り上がっていたのを彼は目にした。

二十数年前の戦争で使われていた精密魔法兵器、ゴーレムを所持しているとか、領主の城の前で騒ぎを起こして捕まったとか、眉唾物の話まで出てくる始末だ。


実際にこの目で見ていないので、彼の中では「所詮は噂」の域を出なかった。

その人間の存在も、本当に居るのかどうか疑わしいまでもある。


しかし店主の話を聞く限り、その噂に近い者は居るのだろう。

コボルトは尋ねる。


「……なあ。もしかするとそいつ、行政地区で騒ぎ起こしたとかいう奴じゃねえか?」


「多分そうだな。だが、悪い奴じゃねえと思うぞ?」


「悪い奴じゃないって、ならそいつは何だって言うんだ?」


「ありゃ相当の田舎者だな。金の使い方もよく分かってなさそうな口ぶりだったしよ」


店主はにやりと笑う。


「ハハハ、どんなド田舎だよ!」


コボルトは笑う。


孰れにせよ、碌な奴じゃないのは確かだ。

近付かないに越した事は無い。


彼はそう結論付け、残りの肉巻きを口の中へ放り込んだ。




その時である。




彼の両耳がピクリと動いた。

聞いたこともない奇妙な音が聞こえてきたからだ。


ビー、ビー、という単調な音。

楽器から出る音の様にも聞こえたが、管楽器、弦楽器、ましてや打楽器の音でもない。


その音は次第に大きくなっていき、その音に混じってさらに奇妙な音が聞こえてきた。

ガガガ、ともグググ、とも聞こえる、動物の唸り声にも似た音だ。


「何だ? この音?」


店主にもその音が聞こえたようで、二人して頭に疑問符を浮かべている。


そんな彼らの視界に光が入った。

道の真ん中、大きな光の両端で、小さな光が点滅していた。


音と光の方角は一致した。

南から、遠く、この道の先から。


音と光の、その正体に、皆目見当もつかなかった。

ただ一つ、「それ」は物凄い速さでこちらに向かっている事を除いて、だが。


嫌な予感がする。

そう感じたコボルトはまだ十分に咀嚼されきっていない口の中の物を一気に飲み込み、叫ぶ。


「おい! 何かこっちへ来るぞ! 端に逃げろ!」


謎の物体が近づいている事に気付くのが先か、彼の言葉に気付かされるのが先かは定かではない。

しかし、道行く人々は次々と道の端へと避難していった。


その間にも奇妙な音は大きくなっていき――



――そして。



「うおぉおおぉおぉおおぉお!!」



誰かが、何かが。

叫びながら、大きな音を出しながら、通り過ぎて行った。


「……何だあいつ!?」


コボルトは驚愕する。


「あいつだ! 妙な奴ってのは!」


店主は大声を上げる。


「ああ、あれが……大丈夫なのかあれ!? 暴れ馬に乗ってるみたいになってたぞ!?」


妙な奴、妙な乗り物。

コボルトは全てを理解した。

だが、あれは明らかに暴走しているではないか。


彼は店主に尋ねる。

店主は空を見上げながら答えた。


「あれが暴れ馬かどうかは知らねえが――」


視線の先、快晴の青空。


しかしそこには幾つもの赤い光の球が、街の彼方此方から上がっていた。


「――大丈夫じゃねえのは確かだな」


光魔法『光球ライトボール

様々な色の光の球を打ち出す魔法で、魔術師の連絡手段として多く用いられる。


赤色の光は、警邏及び任務の際、魔術師が異常事態を知らせる為に使われるものであった。




――――――――




爆走。


今の俺に最も相応しい言葉とは、これだろう。

自分の存在を知らせるためにライトはハイビームに、ハザードランプを着け、クラクションを鳴らしながら大声で街の中を駆け抜けて行く。


「どけどけどけどけえええええ!!!」


狙い通り、道行く人々や馬車は道路の端へと避難している。

俺は道のど真ん中を真っ直ぐ進み、商業地区へと入っていく。


中央道から商業地区に入ると石畳の質が全く違う事に気付かされた。

メインストリートとそうでない道の違いなのだろうか、商業地区の方が凹凸が多い。


ガタガタと、車体が暴れる。

しかし、ゆっくり進むことなど出来るわけがない。


アクセルを捻る右手をぐっと握りしめる。



「うおぉおおぉおぉおおぉお!!」



城門へと続く道は若干曲がっている。

ゆっくりと歩いて回った景色が、早送りで送られていくように現れては過ぎていく。


トカゲ巻の屋台が現れ、過ぎ去る。


カットフルーツの屋台が現れ、過ぎ去る。


そして、行政地区への入り口である城門が視界に入った時。




突如として、赤茶色の壁が出来上がった。




「うわ!?」


俺は慌ててブレーキを掛ける。


セローの後輪がロックし、石畳に黒い帯が刻まれる。

制動距離が延び、赤茶色の壁を約五メートル目前に控えて、バイクは漸く停止した。


「…………」


驚きの余り言葉を失い、その壁を見上げる。

壁の高さは約三メートル、材質は土。

信じられない事だが、その壁は地面が驚異的な速さで隆起して出来た物だという事を理解した。

間違いない、これは魔法の力だ。


そしてその確信を裏付けるように、目の前には三人の魔術師がいた。

シャーリャと、カーティと、ダニウスだ。

剣を抜いていたダニウスを先頭に、他の二人は彼の後ろで控えていた。


信じられない現象は更に続く。


杖を真っ直ぐ上に向けたシャーリャ。

その杖の先から青い光の球が発射された。


鬼気迫る表情で剣を構えるダニウス。

彼の剣がバチバチと弾ける紫電で覆われた。


「サイモトダイチ!! 何のつもりでやってきた!!」


ダニウスは電気を纏った剣を構え、明らかな殺意を向けながら、ずかずかとこちらへと近づいていく。


「急患だ!!!」


信じられない光景に一々困惑する暇は無かった。


俺は身を捩り、背中の子供が見えるようにしながら、声を張り上げる。

俺の背中から伸びる、どす黒い子供の手足が視界に入ったようで、ダニウスはぎょっとする。

シャーリャとカーティはお互いに顔を見合わせ、頷き、こちらへと近づく。


俺は続けた。


「まだ生きている! 頼む! ここを通せ!」


「……瘴気中毒か」


ダニウスの剣から紫電が消える。

剣を下ろし、開いている片手で子供の手首を握る。


「……あぁ」


そして、そう呟く。


「子供……ちょっとやばいわよこれ」


シャーリャの顔色がさあ、と青くなっていく。


「……道塞いじゃったよ」


カーティが気まずそうに呟く。


「…………」



沈黙。



「この土壁消せないのか!?」


沈黙に耐えかねて、俺は尋ねる。

魔法なら、自在に消えたり出したり出来るのではないのか、と。


「……持続魔法なんだよ。日没まで消えない」


「どうすんのよダニウス!? 早くしないとこの子……」


シャーリャの顔には焦りと後悔の色が滲み出ていた。

ダニウスはカーティを見る。


「カーティ、お前の魔法で吹き飛ばせないか?」


「……ごめん、無理」


カーティは俯いて答える。


俺ははっと思い出す。

確か、行政地区へと繋がる入り口はまだあった筈だ。

ダニウスに問う。


「なあ、入り口は確か他にもあるんだったよな? 交通規制で通れないだけで」


「領主の判断で規制が掛かったんだ、たとえ一時的でも解除には領主の許可が要る。そうでなくとも…………」


ダニウスはちらりと女の子を見て、そこで言葉に詰まる。


「…………いや、どちらにしろ時間が掛かる」


何やら答えをはぐらかされた様な感じがしたが、追及する時間は無い。


「歩いて運ぶしか……師匠に連絡を……いや、もう時間が…………あぁ、くそ……何でいつもこんな……」


ダニウスは頭を掻き毟りながらブツブツと呟く。

そして俺に向き直り、心底申し訳無さそうな顔で言う。


「……サイモトダイチ、済まねえがそいつは」

「諦めないぞ、俺は」


ダニウスの言葉を遮る。

そこから先の言葉は聞きたくなかった。



目の前の壁を見る。


そして気が付く。

その壁が、山なりになっている事に。

かなり傾斜のある山のようになってはいるものの、垂直の壁という訳では無かった。


そうだ。


壁なんかじゃない。

こんなのは斜面だ。

たかが三mちょっとの急斜面。


ならば。

すべき事は一つだ。


俺はバイクをUターンさせ、赤茶色の山から距離を取る。

そしてある程度離れた所で、再びUターンをする。


「前傾姿勢……フロント加重……」


スタンディングの姿勢になり、俺は呟く。


「大地、行くの?」


セローが問う。


「当然だ!」


俺は答える。


こんなもの、苦難(trial)でも、何でも無い。

ただのバイク(motor)横切る坂(cross hill)に過ぎない。



それならば!



オフロードバイクが!!



その程度乗り越えないでどうする!!!



俺は思いっ切りアクセルを捻る。


「まさか……!?」


「おい、待て!」


カーティの声と、ダニウスの制止する声が聞こえた。

しかし止まることは出来ない。

そのまま目の前の赤茶色の坂に向かって突っ込む。




「やらいでかぁああぁあああ!!!」




グンッ、と両腕と両足に衝撃が来た。

重力が背中を引っ張る。


俺は歯を食い縛り、前傾姿勢を維持する。

やがて赤茶色の坂が途切れ、再び俺の視界に城門の入り口が入る。





そしてバイクは、空を駆けた。





一時の浮遊感が、俺の内臓を持ち上げる。

宙に放たれた俺達は、放物線の軌道を走る。

俺達は城門の中に、吸い込まれるように入っていった。


そして前後の車輪は、本来走るべき地面に早く戻りたいと言わんばかりに、勢い良く同時に着地した。

ギシッ、とサスペンションが軋む。


「っふ!」


セローは肺の中の空気が一気に押し出されたような声を出す。

サスペンションが吸収し切れなかった衝撃が、俺を襲った。


「お゛う゛ッ!?」


衝撃で膝がガクンと折れ、タンクで股間を強打する。

思わず蛙が潰れたような声が出てしまった。

男性特有の、あの吐き気を催す痛みが下腹部から湧きあがる。


「大丈夫!?」


「股間が……」


痛みに耐えながら、俺はアクセルを捻った。




―――――――




行政地区は幸いなことに人の往来が殆ど無く、石畳もなだらかなものであった為、治療院には直ぐに辿り着いた。


治療院は五、六階建ての高さの立派な建物だったが、じっくりと見ている余裕は無い。

エンジンを切ることも、ヘルメットを脱ぐ事も忘れてセローから飛び降り、治療院の中へと向かう。

入り口である大きな両開きのドアは解放されていた。


「すいませーん!! 急患でーす!!」


俺は治療院の中に入り、大声を上げる。

治療院の中は想像していたよりも質素で、上の階に繋がる中央の階段の他に、端で並べて敷かれているゴザのような物以外、これといった設備は見当たらなかった。


ゴザの上はオークの男やリザードマンの男と同じような格好をした、つまりは鉱山労働者が多くを占め、その傍で彼らの治療に当たっているであろう神官風の格好をした人達がちらほらと居た。


突然現れた妙な格好の男に、周囲の患者達は色めき立つ。

騒ぎを聞き付けた神官風の男が一人近寄り、俺の姿を見て目を丸くした。


「何の騒ぎ……何だお前!?」


「急患です!」


俺は背負っている女の子を神官風の男に見せる。

彼はその子を見るなり顔を顰めた。


「瘴気中毒……子供か……」


そして近づき、右手を彼女の首元に当てた後、親指と人差し指で瞼を開く。

すると彼の表情は驚いた表情に変わった。


「……! よく間に合ったな、すぐに治療に当たろう。早くその子をこちらへ」


「は、はい!」


俺は急いで背中の子供を彼に引き渡す。


「ありがとうございます!!」


「礼はこの子が助かってからだ」


頭を下げて礼を言う俺に、神官風の男はそう返した。

そして彼はその子を抱え、近くに居た数人の神官風の人達と共に速足で何処かへと向かって行った。


「…………」


何処となく手持無沙汰になったので、取り敢えずヘルメットを脱ごうと顎紐に手を伸ばす。

しかし中々緩まない顎紐に、俺は気付いた。

手が震えていることに。

息も荒く、心臓の鼓動が頭の中で響いている。


無理も無い。

こんな無茶をやったのは生まれて初めてだからだ。


生まれて初めてバイクで時速100km以上の世界を味わった。


生まれて初めてバイクで街の中を爆走した。


生まれて初めてバイクで空を飛んだ。




そして何より。

生まれて初めて、誰かの命を救った。




自分の中で沸々と、途轍も無い達成感と高揚感が湧き上がっていた。

多分俺の脳内は今、ドーパミンとかアドレナリンみたいな脳内物質がドバドバ出ているのだろう。


自分の中で溢れた興奮は心の内に留まることを知らず、俺の腕を天高くまで突き動かした。

それでも収まりが付かなかったのか、残りは声となって飛び出した。



「いぃよっしゃああぁあぁあぁ!!!」



俺は叫んだ。



※分からない人の為に一応解説を


・ジャンプ


モトクロス等でジャンプをした際、着地姿勢は後輪から、直ぐに前輪となるような姿勢が理想的(着地地点が平面の場合。下り斜面は逆)。

両輪着地はバイクだけでなく、ライダーにも強い衝撃が来るため避けるべきである。

両輪着地は例えるなら、プールの飛び込みで腹打ちするようなもの。

なお、セローのサスペンションは何度も飛んだり跳ねたりするのに耐えられるものでは無い為、本格的なモトクロスコースの走行は出来ない。


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