第27話 第六感
なんと、私の寝込みを襲おうとしたヤツの正体は───湖で遭遇したデュラハーン!!
「ちょっと!? あんた!! なによ!? しつこいじゃないの!? なんで私のあとを追いかけて来たのよ!?」
窓辺に右手を置き、左手に持って上段に構えている杖の先をあいつが立っている方向へ向け牽制しながら私は声を張り上げた。今日は何度も叫んだからそろそろ顎が限界だけど、今は非常事態なので我慢。
ただ、あいつから返事は予想外のものだった。
「ああん!? 何言ってんだおめえ!? だからそこはオイラの家だっ言ってんだろ!?」
「はああ!?」
さっきは、寝ぼけていたからアイツが何を言っているかなんて気にしていなかった。
ただ頭が少しずつ鮮明になってきたので、アイツの言っていることが少しずつ気になり始めて来たんだけど───アイツ……ここが自分の家って言ってたわよね……??
真相を聞き出そうと私は二の句を継ごうとした。しかし、
「何回言えば分かんだよ!? おめえ!! バカなのか!? おめえ魔法使いの癖にバカなのか!? ああん!?」
───プチン!!
私の中で何かが切れた音がした───
「はあああ!!!!!!!!!!!!! あんたにバカって言われる筋合いないわよ!? このおバカ!?」
「おおおい!? おめえ今オイラのことバカって言ったよな!? おめえガキの時に母ちゃんから『人のことバカって言うやつがバカだって教えられなかったんかよ!?』」
「うるさいわねえええ!!!!!!!!!!! あんたが先に私のこと『バカ』って言ったんでしょ!?」
「ああん!? んなこといちいち覚えちゃいねえよ!?」
「あんた3秒前に自分で言ったことも覚えていないの!?」
魔法が効かない物理攻撃も届かないというこの状況では、もはや口で戦うしかない!! 私はここ最近回復に向かっていた顎の痛みがぶり返し始めていることなど意に介することなく、ソイツに罵声を乱射した!! 一度勢いに乗るともはや誰にも止められない!!
「どおした!? ルイ!? 何かあったのか??」
「その声は……カノン!?」
背後の扉越しに聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。その声を聴いた瞬間───緊張と怒りで強張っていた顔の筋肉が弛緩する。
「ルイさん!?……もしかして、やっぱりアイツが……」
カノンの声が聞こえて来たのと同じ方向から、続いて聞こえて来たのは───ルーくんの声!!
(グッドタイミング!! 2人とも抜けてるところがあって、ちょっと不安だけど、『いざという時に頼りになる系男子』だって私の第六感が告げているわ!! よおおし!!)
ルーくんが最後に、呟いた「アイツが……」という一言が少し気になったけど、今はそれどころじゃない!!
「いいわ!! 入って来て頂戴!! 悔しいけど、こいつバカのくせに超強いから手伝ってちょうだい」
私はそう叫ぶと、背を向けたままノールックで部屋のドアをアンロック!! 解錠魔法なんて保育園の時から使えたんだから!! これくらい朝飯前よっ!!
すると────
「分かった!!」
カノンは二つ返事でそう答え、ドアを勢いよく開放!! ルーくんとともに部屋の中へと雪崩れ込んできた!! そして、
「 かつてのライバル同士が共闘か……こういう展開───僕は結構好きだよ!! まさか自分が実行する日が来るなんてね……って……?? あれ……!?」
私の隣に立つと横目で私の顔を見ながら微笑。ただ、シャツの袖を捲りながら窓の下にいる真夜中の襲来者の姿をその真紅の瞳がとらえた瞬間───彼は拍子抜けしたように目を丸くして固まった。
一方のルーくんは……
「ああ……あたって欲しくない推理が当たってしまった……」
「やっぱりか……」といった様子で額に手を当ててため息をつきながらそうこぼした。こういう緊急事態に一番慌てそうな癖にドアの向こう側にいる時からカノンより落ち着いている雰囲気だったのが少し引っかかっていたのだけど、彼はこの事態を予測していたのかしら……??
「……えっ?? どういうこと??」
超賢い私ですら、理解が追い付かない状況。私はすっかり面食らってしまい、戦闘中だというのに、相手に一度背を向けて2人の顔を交互に見つめる。
さらに、
「おお!? 大将とルーシーじゃんかよ!?」
「……はあ!?」
もう一度、振り返って窓から身を乗り出し、外にいるデュラハーンの様子を確認する。するとそいつは、とても嬉しそうに声を弾ませていた。
「 久しぶりだなあ!! って!? おめえらなんでその女と一緒にいるんだ!?」
(えっ……?? 待って……まさかの知り合いパターン??)
ここで、窓の前で茫然としている私が邪魔だったのか、いつの間にか翼を用いて浮遊をし始めていたルーくんが私の頭上から窓の外に向かって叫んだ。
「『ネロ』!! とりあえず正面玄関の鍵を開けて来るから……ってそれだと道に迷っちゃうかもしれないな……いいよ!! 私がそっちまで行くから!! ちょっと待ってて!!」
ルーくんは一度天井から私の隣に着地───「ルイさん、隣すみません」と小さく呟くと、そのまま窓辺に右足をかけて飛翔した。
ちなみにこの時、ルーくんの尻尾の先っちょが私の口元に「ペチン!!」と小さく当たったのだけど、本人は気が付いていないみたい。そのまま夜空を滑空し始めた。
何が何だかといった感じでまだ頭が混乱している私は、その背中をぼーっと眺める。
「……」
恐らくこれが彼の本来の姿なのだろう。月明りを浴びて彼の漆黒の翼を広げているその後ろ姿に、少しだけゾワリとした。
そして数秒で『ネロ』と呼ばれたデュラハーンの目の前に軽やかに着地。
「まさか……こんなところで本当に再会するなんて……私って予知能力でもあるのかなあ」
「ああん!? なんかよく分かんねえけど、ルーシーと一緒にいるってんならあの姉ちゃんは敵じゃねえってことだよな!!」
「そう……だね……!! とりあえず中に入ろ」
物凄くどうでもいいことだけど、私はルーくんがタメ口で話すところを初めて見た。その後、2人は仲睦まじそうに談笑しながら正面玄関の方へと歩いて行った。




