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第26話 泣きっ面

───ガチャ!! ギイイ……



「はああ……」


「あっ!! ルイさん!!」


「おお!! ルイじゃないか!? 心配したんだぞ!?」



 私は、例のデュラハーンをしばき倒すと、そのまま屋敷へ帰還した。


 屋敷を飛び出した後は気が動転していたので忘れていたけど、村の道路はろくに舗装されていないので小石があちこちに落ちている。


 外は暗くてよく見えないのもあって、落ちている小石をうっかり踏みつけて足の裏を怪我したら大変。だから私は足元に気を付けながらすり足で帰ってきた。もうクタクタよ……



「ルイさん!! 夕食はどうs……」


「明日食べるわ……ねえ寝室って、どの辺にある??」



 二人は私のことを気遣って、玄関で私が帰って来るのをわざわざ待ってくれていたのだろうか。一度着替えは済ませたようだけど。


 ルーくんはエプロンを脱いでいつもの恰好、カノンはローブを脱いでシャツ姿に────人間の貴族の自宅衣装のような恰好だわ。

 



「寝室ですか?? それなら、そこの階段を昇った先にあるあの廊下に何個かありますよ!!」



 ありがたいなと感じたけど、疲れがピークに達してそれどころではなかったので、ルーくんの申し出を被せ気味に断り、自室(になる予定の部屋)へとノロノロ向かうことにした。



「そう……ありがとう。私は疲れたから先に休むわ……」



 私はそう言いながら階段へと歩み寄る。


 そして目の前の階段を背筋が曲がった老婆のような足取りで……手すりに掴まりながら前のめりの姿勢で昇る。



(ああ……クッタクタ。一段一段が重いわ……)



 内心で文句を吐きながらも足を送り出し、ついに最後の一段───というタイミングでルーくんは何かを思い出したようにこちらを見上げて声を張った。



「あっ!! ルイさん!! 一番手前の部屋はオススm……」


「分かったわ。一番手前の部屋がおススメなのね。じゃあありがたくそこを使わせてもらうわ~御休みなさ~い……」



 私は振り返ることなく片手を上げてルーくんに適当に返事を返した。



(悪いけど、今は彼のお喋りには付き合えないわ)



 私は廊下に出る。



(一番手前の部屋は……これね)



そしてそのままドアの真鍮に手をかけて入室した。



───バタン!!



「……おススメしないので、他の部屋を使った方が……って、もう行ってしまいました……」


「うーん……よほど疲れているんだね」


「はい……でも、大丈夫でしょうか……」


「さっき話してくれたことか……流石にアイツもいきなり押しかけて来たりしないだろ。おバカなところはあるけど、やっていいこととダメなことの区別はできる子だから……」


「そうですねぇ……ただ、場合によっては……」


「ルーシー。考え過ぎるのは君の良くないところだ。今日は君だって、たくさん働いたんだから───もう肩の力を抜け。一緒に夕食を済ませよう」


「……はい。そうですね……!! いくらなんでも考え過ぎか!! 頭切り替えることにします!!」



~♪♫~♫♪♫~~♪♫~♫♪♫~



───サアアアア……



 時刻は真夜中を過ぎた。今は草木も眠る丑三つ時 

挿絵(By みてみん)


 「スヤスヤ……」



 私───ルイは既に夢の中にいた。どんな夢を見ていたかは、はっきりと思い出せない。少なくとも覚えていることは、



「……ジョセフ……私───この世界で一番幸せな女よ。愛しているわ」



 私がかつて婚約していた男性───ジョセフにプロポーズされた場面であったこと。


 夢の中って不思議よね。現実の世界とは違って、目の前の景色の焦点がなかなか合わなくて、しゃべり声とかも聞き取りにくい。


 しかも、場所や状況もころころ変わって支離滅裂。


 帝国が運営している睡眠研究所で働いている知り合い曰く、夢を見るのは脳が短期記憶を長期記憶に変換するためらしいわ。


 現実の世界で、印象に残った出来事が何度も夢に出てくるのはそのためなんだそうよ。大事な情報として長期記憶にしっかり深く刻むために。


 だから私は、その夢を見たんだと思う。


 少なくともあの時点では、世界で一番愛していたヒト。


 今は別々の路だけど───あの時、あの場所で、私たちのリエゾンは最高潮に達していたことだけは事実だから。


 彼が結局のところ、私を心の底から愛していたかどうかは分からない。だけど、そんなことよりも大切なことがある。


 私は心の底から誰かを愛することができる女だったということだ。


 だから彼を愛していた時の自分を───私は否定しない。


 もしそれを否定したら───誰かを再び、心の底から愛せなくなると確信しているから。


 私の心はそれを知っている。だから夢というこの世で最も温かい氷の中に───大切な瞬間が、その形を失わないように閉じ込めるの。


 未来が明るい光に溢れているからと言って過去を忘れちゃだめ。


 だって自分が歩んできた過去の軌跡の先に未来の軌跡は伸びているのだから。


 どんな未来もいずれは過去になる。


 私は───過去も未来も両方とも大切にする女よ。


 そして過去と未来を繋ぐのは───現在《いま》


 いま……この瞬間だ。


 現状がどれだけ辛くても───くじけちゃダメよ……私。


 だってあなたは……!!


 帝国最強の大魔道s……



「ああん!? なんだああお前? オイラの部屋になんで勝手に入ってんだよ??」


「うわあああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 夢を見ている間の眠りはレム睡眠と呼ばれており、意識が覚醒しやすい状態でもあると聞いたことがあるわ。


 そんな時に、私は───急に窓際から大声で誰かに話しかけられたもんだから、それはもうびっくり!!


 急いでかけ布団代わりに体にかけていたローブを引っぺがし、ベッドから飛び降りた。


 そして……


「でやああああ!!!!!!!!!!!」


「ぬあああああ!!!!!!!!!!!!!!!」



 私はローブを引っぺがした際に、瞬時に抜き取った杖を構えて、さっきデュラハーンと対峙した時に用いた《光》魔法(弱光)で応戦!!


 この部屋に入室した時点で、とろけるような睡魔に襲われていた私は窓の施錠確認だけ済ませて、ベッドに横になろうとした。


 ただ、どういう訳か分からないけど、この窓は鍵が壊れていた。


 もっとも結界魔法でセキュリティを施せば問題ないと思った私は、いっそのこと涼しい夜風を部屋に取り込もうと考えて窓を全開にしていたんだけど……



(私の結界魔法が破られた??)



 眠くて眠くて仕方なかったので、術式の構造が脆弱だったのかもしれない。


 それでも、私の結界魔法は超超……超強力!!!


 魔導士部隊に所属していた時は、この魔法で帝王様がへそくりを隠すのを手伝ったこともあるくらいなんだから!!


 雑魚なんて触れただけで骨も残らないはず……なのに、そいつは、窓辺に平然と佇んでいたのよ!? ありえないわ!! しかも……



「おおい!? なんだてめえ!? 人ん家に勝手に上がり込んで、おまけにオイラのこと突き落としやがってよ!! オイラじゃなかったら死んでんぞ!?」



 私の魔法をもろに喰らった挙句、二階の窓から墜落して尻もちを着いたばかりだというのに、そいつはガナリ散らしている。



「ったくよおお!! 今日はついてねえぜ!! さっきは変な姉ちゃんに、いきなり石とか花火ぶつけられて、水ん中に蹴飛ばされるわ、じじいに怒鳴られるわでよ!! あれだな……これって、『泣きっ面に……ロクだかナナ』ってやつだよな!? ったくぅ……」



 今日は、本当に不思議な日だわ……さっき遭遇したデュラハーンだって、数年に一度現れるかどうかくらいの強敵だったのに───って、あれ?? この声どこかで聞いたことあるような……??



(まさかまさかまさか……)



 私は、怖いもの見たさで、恐る恐る窓から身を乗り出して外の様子を確認した。すると……



「ああん!? 出てきやがったな!! どんな面してやがるか見てやらああ……?? なんだ?? えらくベッピンな姉ちゃんだなあ……髪の毛がすっげえ青くて綺麗だな。胸もでけえしって……あれ?? おめえ……!!」



 なんとそこにいたのは───さっき私が遭遇したデュラハーンだった。



「……」


「……」



 お互い顔を見合わせたまま(あいつは顔がないけど)、しばし沈黙───そして、



「「なんで、あんた(おめえ)そんなところにいるの(んだ)よおおおおおお!!!!!!!!????????」」



 私達は、全く同じタイミングで大絶叫した。 





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