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絶望的な恋の救世主は着ぐるみの『中の人』  作者: かたたな


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9/10

中の人、やるよ!


「私は一足先に失礼します。お疲れ様でした。」

「これからもよろしくにゃぁ〜」


 手を振る可愛いタチネコにゃんを屋上に残し、「やお君」を抱えて足取りも軽く階段を下りる。マッサージのおかげで、あんなに重かった足が羽が生えたように軽い。


 よし、鉄は熱いうちに打て、だ。


 タチネコにゃん……もとい、着ぐるみの中の「彼」が着替え終えるのを待たず、私はそのままの勢いでマーケティング部へと向かった。


 マーケティング部のフロアに足を踏み入れると、そこは我がコンプライアンス部とは打って変わって、華やかで、シワのないピシッとした衣服の社員たち。


 最新のトレンドを追い、芸能人とも関わる機会もあり、時には宣伝の為にメディアへも顔を出す。製品のCMやSNS戦略など…世間に「魅力」を伝える部署。……その華やかさの裏側に、どれほどの不条理が隠れていることか。


「失礼いたします。コンプライアンス部の富士吉です」


 私の声に、数人の社員がビクッと肩を揺らした。おやおや、心当たりでもあるのかしら?

デスクの奥、タチネコにゃんの生みの親であり、今回「やおい君」という爆弾を投下した張本人であるマーケティング担当者である部長の元へ歩み寄る。


「富士吉さん? コンプラ部が何の用でしょう。……って、それ、やおい君の着ぐるみじゃないか」

「ええ。誰も引き受け手がいないとお困りでしたでしょう? 私、富士吉 美得瑠が、この『やおい君』の中の人を担当させていただくことになりました」

「えっ!? 本当か!? いやあ、助かるよ! 美人が中に入るなんて、なんかもったいない気もするけど……頭が取れた時を考えると適任かも知れないね。夢を壊さない」


 やおい君に夢を抱く人がいるのか?

 そこはイケメンの方が夢を壊さないと思うけれど…多分…その辺は何も分かっていないのだろう。


 担当者が安堵の表情を浮かべた、その瞬間。

私は口角を上げ、意識的に「お嫁に行けない顔」……不審者を震え上がらせる、あの微笑を浮かべた。


「……ところで」

「……え?」

「何故…『やおい君』というお名前に?」


 そう聞くと、あっはっはー!と笑うように話してくれる部長。


「いやね!その子は男の子らしく青い服を着せて『あおい君』にするつもりだったんだ。そうしたら申請を出した子の記入ミスで『やおい君』で出してしまってね。それで通ってしまったからまあいいかと」


 誰だよ記入ミスしたヤツ!!


 申請通したヤツ!!


 この世界に何かしらの力が働いているとしか思えない。実際…この世界にはBLとかいう用語を聞かない。恋愛に性別なんて関係ない!の世界だから。恋愛漫画だって、あらゆる組み合わせで発売されている。


 ここは、そういう世界だと思うしかない。


「着ぐるみをやるとなった今、仕事の調整などお話出来れば…と思いまして。勿論既に業務を任されたタチネコにゃん担当者も調整はされているのですよね?」

「調節…そんなの仕事の合間に…休み時間にでも軽くさ」

「仕事の合間に?…休み時間に?聞き捨てなりませんね」


 私がやお君の着ぐるみをデスクに置き、更に言及する。


「仕事の調整もせず、他の社員より多くの仕事を任せている。個別の評価には加算されていますか?それらが無いのであれば…過重労働となる可能性もあります。」

「大げさな…」


 担当者の顔から、さあっと血の気が引いていくのがわかる。


「実は…他にも心配している点がありまして…。社内で強引に飲みに誘うといった行為を目撃しました。マーケティング部のキラキラしたイメージの裏で、特定の社員に精神的・肉体的負担が集中していないか……非常に心配しております。気の緩みであれば引き締める必要があります。」


 あくまでも「見かけたから心配なんです」という話し方で進める。


「この前、営業部の環境改善調査も終わったばかりです。次はマーケティング部にしようか…と丁度話し合っていたんです。せっかくですから、私が中の人を務めるついでに今期の『定期労働環境調査』もいたしましょう。やお君に慣れると共に、このまま軽くお話を出来る機会を頂ければと思います」

「それは構わないけれど…」

「許可を下さりありがとうございます。あくまでも、定期的な社員の職場環境の調査ですから。」

「わ、分かった…。はぁ…」


 とても面倒だと言いたげな表情だ。他の何もない社員も私達の動きを「面倒だ」と思うことだろう。それぞれの仕事があるのだから。


 でも、これでいい。


 これは業務であり、健全な職場環境を守るための正当な調査なのだ。


 何か問題あってからではダメなんだ。


 人の心は、小さな積み重ねでも壊れていってしまうのだから。


 それに、こうして私達「コンプライアンス部が目を光らせているぞ?」と定期的に示さなければ、どうしても気が緩んでしまう。相談の機会を作り、相談できる人たちがいると示すのも私達の役目。


 面倒くさそうに頭をかく部長を尻目に、それだけ伝える。私はアンケートのメール作成と各社員の面接スケジュールを相談するために自分の部署へ戻っていった。


 

◇ ◇ ◇

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