タチネコにゃんは設定を守る。
感謝の気持ちで溢れながら、冷たい飲み物を買う事が出来た。
急いで開封し、飲み物に口をつけると、喉を通過するシュワシュワの甘さが喉を潤し、気持ちを満たしてくれる。飲み物に対しても感謝の気持ちが体を駆け巡る。
「くぅ~美味しい!!」
「いい飲みっぷりにぁ~」
また一口クピクピと飲むと、忠告しなければならない事を思い出した。
「ああ、そうだ。貴方に恋人は居ますか?」
「ナンパにゃぁ?」
「ふふっ、ナンパしたいのは山々ですが、違いますよ。少し忠告したい事がありまして。」
「ボクの恋人は皆の笑顔にゃぁ~。」
「とぼけますねぇ」
設定がしっかりしているマスコットキャラクターの反応だ。
顔は見えないけれど話はしっかり聞いてくれるし、キャラ作りや練習もしっかりする真面目な人だと思う。
「……でも…あれですね。笑顔が恋人なら、笑えば私も、タチネコにゃんの恋人になれるんですね。」
無理に笑顔を作り、丸くて白い大きな体をナデナデすると撫でやすい様にただじっとしていてくれる。
毛並みはふわふわで案外さわり心地が良い。
「無理に笑う必要は無いにゃぁ~。自然に笑えるようになったら、いつでも心の恋人になるにゃぁ~。」
可愛い見た目をして、なかなか小悪魔なタチネコにゃん。
「そうですか、楽しみですね。ですが…忠告です。さっきドキッとしちゃったので、タチネコにゃんにもイケメンが現れて迫られるかもしれません。」
「何の話にゃあ?」
「昔からドキッ!と、ときめいちゃうと相手にイケメンとの恋愛イベント起こるんですよ。それで失恋続きなんです。私は。多分…恋愛は絶望的。生涯独身まっしぐらなんです」
「イケメンとの恋愛イベントにゃぁ~?ボク、男の子だけど相手はイケメンにゃぁ~?」
男の子だよ?って疑問に思うと言う事は中の人は女性が好きなのだろうか、それとも設定?
だけどもそう思っていられるのも今のうちだ。私は、自販機で10円をスマートに入れてくれた彼に…タチネコにゃんにドキッとしてしまった。きっと彼にもイケメンが迫ってくるだろう。
注意してもらう為に、悲しみに浸りながらも先輩にBLの呪いとまで言われている現状を話した。
「話せば長いのですが…」
「簡潔に頼むにぁ〜」
「では、簡潔に。実は…」
タチネコにゃんは着ぐるみだからその話を聞いてるのか聞いてないのか表情から伺えない。けれど、話し終えるまで一緒に座って相槌をうってくれる。
そうして簡潔に呪いのような話しを彼にした。着ぐるみなのに、心なしか可哀想な人を見る目を向けてきた。
「凄く可哀想な人に出会って衝撃を受けているにゃぁ~。だけど想い人側からしたら良縁の神様にゃぁ~。富士吉さんに見向きもしない程の出会いがあるなんて、夢があるにゃぁ~」
「婚活中の私には夢も希望もありませんけれどね。」
はぁ~、とため息をついてから時計を見る。
時間を確認してから缶に残ったジュースを一気に飲み干すと程よい疲労感のある体でスッと立ちあがる。
「一度戻って10円返しに来ても良いですか?」
「この後は、タチネコにゃんワールドに帰るにゃぁ~。10円は失恋割引にゃぁ~。だけど明日も同じ時間に許可貰ってるから気が向いたら一緒に体操して行くと良いにゃぁ~。」
「良いんですか?」
「せっかくだし良いにゃぁ~。富士吉さんはボクの仮の姿を覗こうとしないから。」
中の人を『仮の姿』と呼んでいるのか。気になると言えば気になるけども裏声でにゃぁにゃぁ話し、変な体操踊らされているのだから、きっとバレたくないだろう。
見たいけどさ。
とても見たいけどさ。
とりあえず長居すると上司が何か言ってきそうなのでオフィスに戻りますか。
ポンポンとスカートの埃を払ってから、運動部並みの声量と気迫で「ありがとうございました!」とお礼を言ってから屋上を後にした。
来た時とは違い、軽い足取りで今度はエレベーターを使う。
少しだけ元気出たなぁ。ほんの少し。
先輩の手伝いもあって大した残業も無く、仕事を終える事が出来た。先輩にはいつか、一杯奢らせて貰おう。
失恋の痛みは残るけど、ただ泣いて終わる日にはならずに済んだ。
この日から、私はタチネコにゃんに癒される為に変な体操を共に踊る日々が始まった。
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