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絶望的な恋の救世主は着ぐるみの『中の人』  作者: かたたな


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3/7

タチネコにゃんはイケメン。


 タチネコにゃん体操を踊っていると、妙に体の緊張が抜けていく。


 ふにゃふにゃ~と体が解れて気持ちいい動き。


 本当にさっき悩んでた事もどうでも良くなってくる緩い体操だった。動きも子供受けを狙ってかなかなか奇抜で人前では踊りたくない振り付けをしている。


 だけど目の前に居るのはタチネコにゃんの着ぐるみを着た誰かで顔も知らない。失恋したばかりの私はヤケクソで真面目に踊ったのだけど凄く楽しかった。


 「ふふふっ、可笑しいですね。この振り付け考えた人天才ですか。」


 ゆるゆる~っと体を動かしながら前を見ると同じくゆるゆる~っと体を動かすタチネコにゃんはとても可愛い。


 「ボクは体が丸いから大した動きできないにゃん。けど、これを真面目に踊る富士吉さんは噂と違って案外真面目な人にゃぁ~。」

 「噂?私の噂なんてあるんですか?」


 白くて丸いタチネコにゃんの動きは元からぎこちないのだけど私の質問で更に動きを固くした。


 「え~、気になる?聞くにゃぁ~?」

 「何か噂があるって知ったらそりゃあ気になります。失恋して自暴自棄になってますし、後で耳にして落ち込むよりは、落ち込みついでに今聞いとこう!って気分なんです。」


 ちょうど体操が終わり音楽を止めた所でタチネコにゃんがコチラを見た。ポカポカに暖まった体を伸ばして夜空を見上げると思いの外気持ちが良い。


 夜風が優しくて慰めてくれている気がする。


 「富士吉(ふじよし) 美得留(びえる)さんは美人で有名にゃ~。だけど隣に立つ男性がすぐに変わるから遊び人なんじゃないかって話があるにゃ~。」

 「噂の癖に結構そのまんまの私が知れ渡ってますね!!だけど私は毎回本気ですから、毎回フラれてるだけですから!!」

 「悲しい事実を知ったにゃぁ~。」


 タチネコにゃんが自分で用意したらしい荷物や飲み物の置かれる所へ行くとポテンッと座って背中のファスナーがジジジッと開く音がした。


 見てはいけない気がして背中を向けて遠くの夜景を見た。


 「どうしたら恋人が出来るんでしょう。誰かと愛を育み結婚したいです。」

 「…性格に難ありにゃぁ~?」


 タチネコにゃんは、鋭利な言葉で刺してくる。


 「心えぐってきますね。確かに気がついてないだけで私の性格が悪いって言う可能性も大いにありますよね。」


 今まで相手に好きな人が現れて取られるとばかり考えていたけど、結局私に魅力がないから取られる訳で…。


 自分自身に難があると考えると更にずしりと体が重くなった気がする。


 考えていると、後ろからクピクピと飲み物を飲む音が聞こえた。


 私も喉が乾いたな…。


 タチネコにゃんに背を向けたまま、彼の中身を見ないように自販機へ歩く。自販機の前へたどり着くと、ポケットにあった130円を取り出した。


「コレなら何かしら買えるよね?」


 運よく持っていたお金に感謝してから、自販機にお金を入れて、130と表示されるのを確認した。なのに…どのボタンも光らない。少し考えて値段をそれぞれ確認すると140円からの飲み物しか無い事に気がついた。ワナワナと震えてくる。


 電子カードもデスクに置いてきてしまった…


 くそぅ…


 「君も私を見捨てるんですね…。10円くらい失恋割引して下さいよ~自販機さんよぉ。そもそも…会社の自販機ならもっと安く売るべきでしょう!!会社まで冷たい…世の中…冷え切っているんです…」


 人肌恋しさに両手を広げて自販機を抱きしめた。更にしくしく泣いた。もう私のHPは0です。自販機のほんのり温かい…その温もりに癒しを求めた。


「飲み物はくれなくても…君の温かさを少し分けてくれませんか。」

「酔っぱらいみたいにゃぁ~」


 そんな私の後ろから声がしたかと思うとカチャンと小銭が自販機へ入った音がした。

 自販機の投入金額を確認すると140円の文字。その瞬間、いくつかのボタンが光った。


 ハッとして後ろを向けばファスナーのしっかり閉まったタチネコにゃん。


 自販機とタチネコにゃんを交互に見てから、何て聞けばいいか困っていると。「10円の失恋割引にゃ~」と短い手を上げて言う。


 「タチネコにゃん~~~。ありがとうございます!!見た目可愛いのに心がイケメン過ぎます!!」

 「照れるにゃぁ~。」

 

 タチネコにゃんの短くて丸い手を両手で握ると軽く上下に動かす。こんな事がサラッと出来るのだから、中の人は大層おモテになるだろう。


 中の人はきっと、とても素敵な男性なのだろう。


◇ ◇ ◇



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