表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望的な恋の救世主は着ぐるみの『中の人』  作者: かたたな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

失恋からの出会い。


 漫画の世界なだけあって一般モブもそこそこイケメン。悪者も居ない癒し系漫画だったから世界は平和そのもの。


 みんな個性豊かで、性格の良いイケメンや住人達。それなのに手の届かないこの状況は天国なのか地獄なのかと言われたら地獄なのかも知れない。


 人間関係良好ならやっぱり天国?


 天国と地獄が隣り合わせなのが世の中というものか…。



 「チョコあげる。」

 「ありがとうございます。仕事に集中してさっさと終わらせます。残業すると上司が煩いですし。」

 「それが良いよ。」



 ただひたすらデスクで仕事に向き合い、時間が過ぎていく。

 それから暫くは、嫌な事を忘れる為に没頭したからか、残業せずに業務が終わるかもしれない希望が見えてきた。もし終われば、先輩と飲みに行って愚痴大会開催決定だ!!と自身を鼓舞する。そうやって少しだけ気持ちが前向きになった所で資料室にいた同僚二人がデスクに戻って来ていた。


 あぁ、チラリと見えてしまった。扉が開く瞬間まで手を繋いでいたの見えてましたからね!!



 「君達、二人揃って何処へ行っていたんだ。会議時間変更になって急ぎの資料もあるから探してたんだよ。」



 さっき資料室でイチャイチャしていた二人が何食わぬ顔で席に戻ろうとして上司に捕まったようだ。イチャイチャしてました、なんて言えないよね…。


 フッと浅く息を吐くと席を立ち、申し訳無いという表情を作ってからその上司へ声をかける。



 「二人は先ほど資料室で過去の資料を探していたみたいですよ。今回の会議には過去のデータが特に参考になりますから。探しているのを知っていたら私が呼びに行けたのですが気がつかず申し訳ありません。」

 「そうなのか、あそこは電波悪いから仕方ないね。富士吉君は気にしないで、急遽時間を変えてくる先方が悪いんだからね。」


 二人揃って資料で~なんて本人が話してもサボってたんじゃないか?と思われ兼ねない。こういうのは第三者が言うと信憑性が増すものだ。

 そして彼らをアシストすると共に「知ってるんだからな?」という無言の圧をかける。

 気まずそうに私に視線を向けるとペコリと頭を下げる二人。


「助けるんだ?」

「いいえ…『私は知ってるからな!下手に気な気遣いするなよ!』って言いたかったんです」


 助けた訳じゃない。

 私は君らの関係知ってるんだから余計な気を使ってくるなよ!!って思った。この後、良い雰囲気だったヤツに「ごめん、やっぱり付き合えない…」とか少しでも言われたら腹が立つし、砕かれた私の恋愛ハートが痛むから。



 …


 …あぁ…そっか。慣れてると思ってたけど。


 …私、傷付いてるのか。



 傷付いた心を自覚して再び泣きたくなる衝動がやってくる。



 ぼんやりモニターを見た時、トントンと肩を叩かれて先輩の方を向くと可愛いハンカチを握らされた。


 「少し外の空気吸ってきたら?定時には帰るけど、それまで特別に仕事手伝うからさ。この調査結果を分かりやすく纏めれば良いんでしょ?」


 その言葉に涙腺が一気に崩壊寸前まで来た。震える声で「ありがとうございます。」と小さく言葉を絞り出すと長い階段を上り会社の屋上へフラフラと向う。トイレに籠もれば迷惑だし、う◯こだと思われたら嫌だから。


 下手に人けの無い部屋に行けば野生のBLに出会って傷心の心をえぐられるかもだし。屋上ならね…野外だから。この漫画に似た世界に、そんな上級者はいないと信じてる。


 今の時間なら、みんな基本的に仕事をしているからね。人が居ないはず…そう思っていた。



 ガチャ…ギィ。



 少し重い扉に手を掛けた瞬間、失恋の悲しみが頬を伝い流れ始める。

 優しい人だけど、つい最近までトキメキは無かった、それでも良い雰囲気だったからこそ恋人が出来るのではないかという期待が膨らんで…期待してしまった。だからこそ、叶わなかった事への悲しみがより深い。


「お付き合いもしてないのにね…嫌だな…。こんなに泣くなんて。」


 回りに人が居ないからもう大丈夫…と、思って涙を拭った。なのに扉の向こうから軽快な音楽が聞こえた。



 ~♪~~♪~♪


 さぁ!体操が始まるにゃぁ~♪まずは手を上に~♪


 ~♪~~♪~♪



 音楽に合わせて幼稚なダンスを踊る着ぐるみが視界に飛び込んできた。


 呆気に取られていて、扉に手を添える事を忘れてしまっていた。その扉は風によって大きな音を立てて閉じられてしまう。


 バタン!!



 「わ、びっくり。申し訳ないにゃぁ~!今、屋上貸し切り許可貰ってるにゃぁ…」



 扉の音に気がついた着ぐるみの彼は、一旦体操を止めて話しかけてきた。確か…最近できた会社のPRマスコット『タチネコにゃん』頭に猫を乗せた白くて丸っこい三頭身くらいのキャラクター。


 男性社員が裏声で頑張って話している努力が伝わる声をしているけれど、その声はなんだか可愛い。

 子供が描きやすい丸い体と短い手足が何処にでも居そうな見た目で『いつか何処からか訴えられないか?』と心配になる程…既視感があり個性の無い見た目。


 「そうでしたか…すみません。練習お疲れ様です。」


 ははっ、と無理に笑うと、来た道を戻ろうと彼に背を向けた。


 「泣いてるのかにゃぁ?何かあったにゃぁ?」


 キャラを壊さないまま、だけど彼から話しかけられた事に驚いた。

 泣き顔は見られたくなかったのだけれどバレてしまったし、急には止められない涙が落ち着くまで、ここに居させて貰えないかと聞くだけ聞いてみよう。他に行き場が思いつかないから。そう思って『タチネコにゃん』に向き直ると、私より先に彼から言葉が続いた。


 「さぁ!一緒に踊りながらなら何があったか話してみるといいにゃぁ。」


 …踊りながらなのか。


 短い手をパタパタさせて体操の動きを諭すタチネコにゃん。


 「この踊りを踊ると、全てがどうでも良くなってくるにゃぁ~!」


 踊った結果、元気になるような表現じゃない。だけど気分転換にはとても良さそう。体操で気分が良くなるかも知れないと一緒に踊ってみる事にした。


 泣き顔のままオフィスに戻れないし、このまま居て良いのならお言葉に甘えたい。


 「少しだけ宜しくお願いします。」


 タチネコにゃんが、掛け忘れたという『屋上貸し切り、只今練習中』の札をドアノブに掛けた後、私達は二人で動画を見ながら体操の練習を始めたのだった。



◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ