飲めないコーヒー
私が結婚しなければ…
推しカプの結婚イベントが見れない…だと?
その後。
必死で笑顔を作りながらも何を話して別れたのか覚えていない。
かろうじて覚えているのは、弟達の優しい気遣いの言葉…。
「姉さんは、いつも自分を後回しにして俺達のことばかりだからさ…。心配なんだ。世話焼きなのは姉さんの良いところだけど。コレを機会に姉さん自身の幸せを考えて欲しいんだ」
推しである弟が、私の肩を優しく叩き、弟彼氏も深く頷いた。
「そうですよ。お姉さんはいつも俺たちの相談に乗ってくれたり、守ってくれたり…応援してくれたり……。彼氏も作らずに、ずっと俺たちの心配をしてくれてるじゃないですか」
「そうそう。姉さん、昔から一度集中すると周りが見えなくなるからさ。今は仕事と僕らのことで頭がいっぱいなんだろうけど、もっと自分の幸せも欲張っていいんだよ」
二人の瞳には、独り身で弟思いの姉を不憫に思い、支えようとする純粋な善意が宿っている。
(違うの、貴方の姉は「彼氏を作らない」んじゃないの「作れない」の!男に取られ振られ続けてるの! 欲張ってないんじゃなくて、欲張った結果がこれなの!)
心の中で叫ぶ。
思わず声が出そうになったけれど、グッと飲み込んだ。
自分の姉が振られ続けてモテないなんて…。こんなに慕ってくれる2人に言いにくい。
………
気がつけば、会社の近くのコーヒーショップでコーヒーを買い、更に気がつけば飲めないブラックコーヒーを眺めながら、また会社の前まで来ていた。
残業に厳しい会社だからそんなに人が居ないだろうと思い、入り口近くにある植え込みの脇に座る。
私が結婚しないと推し二人の結婚イベントが見れない…。
そんなバカな。
推し二人の幸せを願って行動してきた。なのに、そんな私が二人の幸せな結婚の壁となるなんて。
片手で顔を覆い、コーヒーを持つてが震えた。
「富士吉さん。」
…
「富士吉さん、具合悪いですか?」
肩をトントンと優しく叩かれ声を掛けられてやっと人の気配に気がつきパッと顔を上げるとマーケティング部の受屋君が居た。彼は男性に好かれやすいらしく、人間関係をメインに調整するの提案書を作っている。
「あぁ、ごめんなさい。少し…考え事。」
受屋君か…
私の表情を伺う様に目線を合わせてしゃがむ彼。そんな仕草に優しさが滲み出ている。少し癖のある髪は軽くセットされていて大人の男性ではあるけれど、分類としては可愛い系?のお顔を大人びて見せる。
更にこちらの表情を伺う為に覗き込む仕草は、自然な可愛さを兼ね備えている…。まるでタチネコにゃんみたい。
…こんなイケメンで癒し系の彼を見ても『ときめく』どころかタチネコにゃんが浮かぶなんて。
…
ん?
「受屋君、何かトラブル??」
彼が話しかけてくるなんて、仕事で何かあったのだろうか?と心配になった。一瞬で仕事モードに切り替わる。
そんな私に少しだけ驚いた顔をする受屋君。彼とは面談で少しフランクに話せる程度には仲良くなった。
「あっちの店に買い物へ行った帰りで、たまたま通りかかっただけです。会社のことは富士吉さんのお陰で、しつこい誘いも無くなりましたし、気まずくもなっていません。それより今心配なのは富士吉さんの方ですよ。何か…悩んでいるように見えました。」
私を心配して声をかけてくれたのか。受屋君は優しいな。優しくて大人の男性なのに可愛い甘さがある。
ギラギラした感じじゃなくて落ち着いていてフワフワと掴み所がない。
前に同僚からしつこく誘われているみたいだったけど…誘いたくなるよな~こんな可愛いのがいたら、と頷ける部分もある。しつこいのは勿論良くないけれど。
「早く結婚したいなって思ったらね。少し気持ちが暗くなって…」
色々濁しながら、当たり障りのない話題にした。会社で問題が起こったのでは!?って勘違いさせてしまったら心配させてしまうから。そう返せば「そんなことか」と安心してくれるかと思っていたけれど、彼の反応は軽く流すものではなかった。
「結婚についての悩みですか、それは深刻ですね」
年上の結婚の悩みなんて「どうでもいいこと」をこうして聞く姿勢を見せる彼に、私は少し戸惑ってしまった。
この子…いい子過ぎるな。
◇ ◇ ◇
今日はもう1話、19時頃投稿できたらと思います。手動なので数分ズレます。




