2話 公爵邸での生活
結婚から3ヶ月、公爵家での生活はまさに天国と言う他ない。美味しい食事にふかふかベッド、今まで苦労していただけに身にしみる。痩せてガリガリだった体もすっかり健康体だ。懸念していた使用人達との仲も良好で大変過ごしやすい。なんでも、あまりに旦那様が女性に興味を示さないのでいつ男性に走ってしまうかヒヤヒヤしていたとの事。執事長のルイスなんて号泣していた。この様子をみるに契約の事は話してないらしい。
コンコンコンッ
「奥様起きてらっしゃいますか?」
「はーい、起きてます。」
ガチャッ
今起こしに来てくれたのはメイサ。旦那様が私に付けてくれたとっても優秀な侍女です。
ちなみに旦那様とは結婚式以来会っていません。職場に籠りきりでとても忙しいんだとか。
支度を終え、朝食を食べながら今日の予定を考える。天気もいいし庭園で刺繍でもしようかな。
「それにしても奥様がいらしてこのお屋敷は随分変わりましたね〜」
「そうそう!あの恐ろしかった公爵邸をこんなに暖かみのある空間に変えちゃうなんて流石奥様!」
きゃっきゃっとお喋りしながら刺繍をしていると、メイド達がそう言ってきた。
確かに屋敷に来た当初は、禍々しいインテリアが多く飾ってあり、お世辞にも過ごしやすい空間とは言えなかった。今は、倉庫で埃を被っていた先代様が使っていたインテリアを中心としたとても暖かみのある屋敷に仕立てあげている。あの時も屋敷の皆は泣いていたわね。それにしてもあの恐ろしく趣味の悪いインテリアはもしかしてマリウス様が購入したのだろうか。そんな失礼なことを考えていた矢先にたまたま仕事から帰ってきた旦那様とばったり鉢合った。
「おはようございます旦那様。今お帰りですか?」
旦那様はチラッとこちらを見ると少し驚いた顔をして
「…っ」
無言で屋敷の中に入っていった。
「3ヶ月ぶりだというのに何ですかあの態度!抱擁一つできないなんて情けない!」
「こんな健気な奥様のことを放って仕事仕事などと!今まで我慢していましたがもうダメです!私メイド長(元マリウスの乳母)に言ってきます!」
その様子を見ていたメイド達は怒り狂っていた。女性に興味がない屋敷の主がやっと結婚したと思ったら仕事仕事で帰りもせず新婚の妻を放置しているのだ。おまけにあの冷たい態度。メイド達が怒るのも無理はない。
「私は気にしてないから大丈夫よ。旦那様はこういう人だって知ってるもの。皆とお喋りするのが楽しいから寂しくもないしね!」一応フォローを入れておく。
そんな夫婦関係が破綻していると言ってもいい状況にいるロベルタのいじらしい言葉にメイド達は目を潤ませ、やはりマリウスにはこの方しかいないと強く思った。
「「お゛く゛さ゛ま゛〜なんてお優しい!私達は奥様の味方ですぅ〜!」」
(マリウスside)
挨拶してきた妻を見て、結婚していた事を思い出した。忙しくてそれ所では無かったので彼女の存在を完全に忘れていた。久しぶりに見た彼女は、栄養のある食事をとっているおかげなのか見違えるほど綺麗になっており、ラベンダー色の柔らかい髪を風に靡かせ、吸い込まれそうなサファイアの瞳は日の光を浴びてきらきらと輝いていた。その類を見ない美しさを持つ彼女に見つめられ声を掛けられたマリウスは思考回路が停止し、思わず無視して屋敷に入ってしまった。申し訳ない。外見で結婚相手を決めたわけではないが、流石に美しくなり過ぎじゃないか?自室へ向かいながらそんな事を考えていると「旦那様」
顔は笑っているのに目が笑ってないルイスが現れた。
…これは完全にブチ切れているな。
「旦那様」
「…なんだ」
「仕事も結構ですが、そろそろ奥様とお過ごしになられてはいかがですか?」
「そんな時間はない」
「…なんですって?歳で耳が聞こえなくなったのでしょうか?もう一度おっしゃってくださいますか?」
「………検討する((ボソッ…」
「ああ!お可哀想な奥様!こんな冷血公爵に嫁いできたばかりに新婚そうそう放っておかれて…なんてお労しいんでしょう。この爺、悲しみで持病の癪が!ゴホゴホっあーゴホゴホっ」
「わかった!時間をとる!」
「それはようございました。あんなに素晴らしい奥様を悲しませるなんて言語道断ですぞ。気づきましたか?奥様が来られてからこの屋敷も随分と雰囲気華やかになられました。」
「おい、持病の癪とやらはどうした」
ジットリと睨みつけるもルイスは何処吹く風だ。この飄々とした執事は父親の代から仕えていることもありどうも強く出ることができない。
ルイスに言われなくても気づいていた。両親が亡くなってからどこか鬱蒼としていたこの屋敷がこんなにも活気を取り戻しているのだ。
……これだけ賑やかな家に帰って来たのはいつぶりだろうか。両親の面影を見た気がした。
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