凡人の俺に幸福なんて起きるわけがない。
第1章の終わりです。
第2章へ続くと思います。
終わり方がどんな感じになるか、予想しながら、読んでいただけると、
嬉しいです。
1
俺、田中憐斗は、高校二年生である。つまり、16歳。
そして今、俺は、異世界にいる。
いや、確かに、この時点でかなりヤベェ奴、いわゆる、中二病または、厨二病だと思うだろう。
もちろん、俺だって、こんな奴が現実世界にいたら、かなりヤベェ奴だと思うさ。
しかし、これは事実。
誰も(?)が、空想し、憧れる、そんな異世界に、俺はいる。
あっ、誰もが、のところに、(?)つけてんのは、誰もかどうか、分からないからさ。え? そんなの言われなくても分かってる、だって? だろうね。
そして、俺は今、白いタキシードを身に付け、赤いカーペットの敷かれている壇上に立っている。
察しのいい人なら、分かるだろう。
そう、俺は、結婚式の真っ最中。
しかも、立っている場所は、傍観者席ではない。
俺は、新郎として、結婚式場にいる……!?
2
事は、数時間前に戻る。
発端は、シュバルテのこの発言。
「レント殿、カリーナ様と結婚してください」
え、いきなり? こんなの頭がお花畑になってる小説家のラブコメにもないと思うよ?
俺、結婚すんの? 異世界って、こんなに人を幸福させるの?
そしたら俺、マジで異世界に感謝過ぎる! 祈っちゃうわ!
異世界を空想し、憧れる人々よ、異世界サイコー!
すいません、皮肉過ぎた……調子乗ってました……。
つーか、調子乗ってる、っての、誰が言い始めたか知りたいわ。
今の世界はな~、リア充なだけで、調子乗んな! って言われるんだぞ。
あっ、別に俺は、リア充はじゃないですよ? むしろ遠い……。
まぁ、なんか結婚しろ、みたいな感じのこと、いや普通に、結婚してきださい、って言われた俺だけど、カリーナが、どうすんのかだよな。
「カリーナ様、どうですかな?」
うっわ~、シュバルテ、いきなり攻撃的。
強気やわ~。そんなこと言います?
つーか、カリーナ、すっげぇ震えてる。
そんなに嫌? 俺と結婚すんの?
嫌だな……。
なんか自分で考えてたら、すっげぇ悲しくなった……。
しかし、カリーナは、顔を紅くして、
「……そ、そんなの……良いわけ、ないじゃない! そりゃ……レントとなら……別にいいけど……」
やっぱ、そうくるよねー……。最後の方は、聞き取れなかったけど、拒否ってるのは確からしい……?
「なら、いいじゃありませんか」
エェェー!? 拒否ってんじゃないのー!? シュバルテの返答の意味!?
「で、でも、そんな急な理由を教えてくれないと……」
エェェー!? カリーナもマジな感じにー!?
もしかして、状況分かってないの、俺だけ?
「……分かりました……教えてましょう」
「もちろん、私の目を見てね?」
カリーナ、能力使う気満々だー!? ちょっと、お二人さん? 僕に分かるように説明して?
俺の心の声は、まったく届かず、
「承知しております」
あぁー、もういいや、先進めて。
俺は、理解することを諦めた。
「カリーナ様は、もちろん、王位継承の件は、知ってますよね?」
え、初耳。ダメですね。
例えるなら、スマホゲームの話してるところに、スマホ持ってない奴が混じる的な?
「えぇ、もちろん。確か、この国を脅している、魔王を倒せば、次期王ってやつよね。それに参加するには……」
RPG的なの、きたァァァァ! つーか、参加条件あんの?
その参加条件を思い出そうとしているカリーナの言葉を補ったのは、他でもない、シュバルテだ。
「貴族、または、その貴族の結婚相手ですよ」
おいおい、まさか……
「シュバルテ、あなた、まさか……」
カリーナも同じ考えに至ったようだ。
あ~あ、もう展開分かったよ。
「その通り。レント殿に魔王を倒してもらいたい」
はい、予想通り。
あ~だるい!
「え、でも、レントには……」
言いたいこと、分かります。
俺も言いたい。
ムリだろ!?
も~やだな~異世界らしさはこっち行っちゃダメだわ。俺は、とりあえず、望んでない!
「しかし、彼は、『真・覇王剣 リザリアーク』を抜けました。その剣は、勇者の物だ。しかも、選ばれし者にしか抜けない」
それは痛いところ。
なんで俺は抜けたんだろう? 謎やわ。親子だから? それならマジ迷惑。
「で、でも……」
カリーナは、まだ抵抗しようとしている。
これは、俺と結婚するのが嫌なのか、俺が戦うことが嫌なのか、どっちなんだ?
もし、後者なら、マジ嬉しい。前者なら、魂抜けるほど落ち込む……。
「しかし、カリーナ様。私は、根拠もなく彼にお願いしているのではないのですよ」
「え……」
おいおい、シュバルテがなんか、確信的なこと言いそう。
怖い、マジ怖い。
「私は……未来を視ることができます」
はい、きた~新特殊能力。
ヤバい、ヤバい。これ、なんかヤバい。
「もちろん、多少の条件は有りますが、私は、レント殿が私達の希望の星になることが分かっていました。だからこそ、私は、彼がいるという、場所を自分の未来を視て、確認しました。そして、その場所に、彼はいました。それからは簡単。彼の未来を視て、彼のこれからなすことの最善の未来が分かりました。それが、この結果です」
おい! 強すぎだろ……それ。未来予知ってやつだな。これはダメだ。予知は、回避方法がない。これは、基本的なこと。てことは、やはり俺は……
俺の脳内思考がフル回転している状況から、通常運転に戻したのが、カリーナだ。
「そんなの、当たらないかもしれないでしょう?」
確かにそうだが……
「カリーナ様。彼が王になれば、彼は最初に差別をすべて無くす。それも、あなたのために。結婚したあなたが、誰よりも大切だから……。彼は今もあなたが一番大事な人だ。もちろん、未来でも」
シュバルテの言葉は、カリーナに刺さっただろうか。
ここで俺は、少しだけ空いた間を使い、自己主張した。
「シュバルテの言うことは正しい。正直、魔王なんてどうでもいい。でも、カリーナが救われるなら、俺は魔王だって倒す。それだけ、君のことが好きだ。大好きだ。シュバルテに先言われたけど、もう一度言う……」
一瞬、すべての時間が止まる。すべての音が消えた。
俺は、自分の意志で伝える。
ほんのすこしの時間だったかもしれない。
それでも俺は、彼女に救われた。
なら、俺は、この言葉とともに、彼女を救う。
「俺と、結婚してくれ」
16歳にして、プロポーズ。
付き合ってもいない、長い時間を過ごしたわけでもない。
それでも俺は、彼女が、カリーナが好きだ。
彼女の答えは……
「はい……よろこんで」
その答えを聞いて、俺は、ほっとしたような、気恥ずかしいような、そんな気持ちになった。
誤魔化すように、俺は、満面の笑みで彼女の顔を見た。
涙の浮かぶ顔には、紅い瞳。差別の対象。
俺は、この世界を変える。
いや、変えてみせる。
彼女のその笑顔を守るために……。
この時、俺には、本当の青春の風が吹いたような気がした……。
3
そして、今に至る。
結婚式は、あの事件の1日後に行われた。
式場の中には、たくさんの関係者、及び傍観者がいた。
カリーナの母親は、カリーナと別居という形を取っていたようだが、結婚式には来ていた。
当たり前だな、そんなの。
だけど、この世界には、俺の家族は、いない……。
それでも、嬉しい。屋敷の中で見知った人達のお祝い、カリーナと掴む幸せ。
俺には、これで十分だ。
本当に、良かったんだよな……。
俺は、深く考えてしまう。その答えは、まだ出ないと、確信しながら……。その答えは、これから出す。これから、長い異世界生活で。
「新婦の入場です」
おっと、もうか。
俺は、引き締めていた顔の筋肉をほぐす。
つーか、さっきから、全然ボケてない! これじゃ、ただの感動物語。最終回じゃねぇかよ。いや、雰囲気がドラマの最終回。まだ、終わらねぇぞ。というより、今からスタート。
俺は、表情筋をほぐして、少し微笑む。
カリーナのドレス姿は、ヤベェ。女神降臨だわ。
カリーナは、俺の隣まできていた。
牧師さんらしき人の話を軽く無視していたが、この言葉が始まる。
「……誓いますか?」
最初の部分、聞いてねェー!
まぁ、いいや。
「誓います」
カリーナは、答え、俺の方を向く。
俺も、
「誓います」
と言い、カリーナの方を向く。
透明な宝石のついた、指輪をはめ、ついに、
「誓いのキスを」
俺は、カリーナにそっと、顔を近づけ、カリーナもそれに合わせる。
二人の唇が重なる。
柔らかい触感とともに、って生々しいわ! オホン!
初めてのキスは、幸せの味がした。
しかし、幸せが続いたのもここまで。
俺が蒼白い光に包まれた。
俺は、瞬時に理解する。
現実世界に還るのだと……。
その場にいた人々の顔が驚きに変わる。
「……故郷からのお呼び出しだ」
俺は、爽やかな笑顔をしたつもりだ。
しかし、それでも、不安な顔をするカリーナに、
「必ず、戻る」
そう伝え、俺は、異世界から帰還する。
そして、俺の幸福は、そこで終わる。
第1章が終わりました~。
これから、どうなるのでしょう?
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