8. 万能感
この数日、僕はずっと戸惑っている。いや、正確に言えば、あえて戸惑おうとしている。物事が面白い方向に進み過ぎて、万能感が毛穴から漏れ出しそうな気がする。こういう時こそ調子に乗らないよう、一生懸命に悪い材料を探している。
自分の顔が鏡では普通に見えるのに、写真では老人に見える。これには象徴的な意味がある気がする。
医者の友人が他にいない。だから音無拓は僕に連絡をした。
話が進むうちに、RMTの詐欺にあった柿谷を利用して就職したと彼は告白した。精神的に壊れかけた原因が、他人を利用した報いであることにやっと気がついた。
告白のおかげで高校時代のことが腑に落ちた。彼が数学を教えてくれと頼んだのは、彼に抱いていた僕の好意を利用していたわけだ。僕を利用した報いはいつ訪れるのだろう? いじめて楽しんでいるうちに、その時が来るのだろうか。ワクワクする。
僕は悪い人間ではない。責任は果たすつもりでいる。無職になった彼に、住む場所とやることを提供しているし、もしこのまま社会復帰ができないなら、僕が食べさせていくくらいの覚悟もある。途中で放り出したりはしない。
東京の高層のオフィスビルで自分を失いかけていた音無を、僕はひょいと持ち上げて、北鎌倉の小さなベーカリーにそっと降ろした。そしてまさか、何年もの間彼の心に襞のように張り付いていた、RMTというものを開発した人間と接触することになった。
導いたのはすべて僕だ。
音無にとって、僕は、神に近い存在かもしれない。
音沙汰のない数日間、はやる気持ちを抑えるようと、僕は必死に戸惑っていた。
そして、ついにメッセージが届いた。「話したいことがある」
やったね、拓君。僕は自宅マンションの部屋で思わず手を叩いた。
「今からでもいいよ、ぜひ電話して」僕は返信をした。
「一つ確認したい」
「何?」
「絶対に口外しないと約束できる?」
「もちろん、医者には守秘義務がある、僕は医者だよ」
すぐに彼から着信があった。
電話に出ると、彼はすぐに今日の出来事を詳細に語り始めた。




