鎧、護符を創る
俺は、リーチェさんの手を取り、念話する。
「え!」
『失礼。』
「ええ?」
『驚かないでほしい。俺は、こうやって相手に触れることで意思を伝える、、、念話というんだが、それができるんだ。』
「そ、そうだったんですか!」
『ただし、相手が魔力特性を持っていることが条件なんだけど。リーチェさんは、やはり魔力特性をもっていたか。』
「あ、あの。やはり、とは?」
『あぁ、君のことは後にして、まずはバーニーさんのことに関して俺が感じたことを伝える。君のお姉さんは、魔剣士というのは知っているね。』
「はい。」
『普段はそうでもないんだろうけど、ここの最上階での彼女の状態は、精霊憑きといって半分精霊と同化している状態だと思う。』
「ええ!精霊憑き、、、えと、その、大丈夫なんでしょうか?」
『実害はないよ。多少人格が精霊に傾いているんだと思うけど。ここの最上階は、精霊の力場となっていて自然と結界のようなものがあると言えば解りやすいかな。』
「結界、、、なるほど。」
『その精霊の結界内だからだと思うよ。半分同化している状態というのは。』
まぁ、非常に珍しい状態だが魔族領にいる人魔族で、俺はそういう人物に会ったことがあった。
まさか、人間の中にも似たような人が居るとは思わなかったが、考えてみれば納得もする。
エルフの血をひいているんだし、あの若さで冒険者の長たる立場になれる実力を持っているのだから、相当強いんだろう。
光の精霊を自分のモノとしていたバーニーさん。
きっと、知らないうちにその精霊の力場も自分で作り出しているのだろう。
(その精霊と半分でも同化した状態だと、上位の精霊魔術を扱えるだろうしな。)
『もし、機会があったならだが、このギルドにエルフが来た時に診てもらえばいい。きっと正しい診断をしてくれるだろう。俺がエルフだったらもっと安心させることができるんだけどね。』
「いえ、そんな。十分ですよ。それにこんな人間の街にエルフなんて来ないでしょうし。」
(うん。今まではな。)
でも、エルトがもう来て街を楽しんでる。未来なんて誰にもわからない。
リーチェさんには申し訳ないけど、いま、エルトの正体を明かすわけにいかない。
(彼女は、まだ俺の保護下にあるしな。あの娘が一人前になって、とか?それこそ機会があればそういう紹介をするかも知れないが。)
『ま、機会があったならば、ということで。それで、君の事だけど、おそらく君の父上も魔術を多少は扱えるんだと推測するが?』
「ええ、確かに昔、冒険者をやってたくらいですから。ただ私は、父が魔術を使ったところを見たことは有りませんけどね。」
『そうか。でも多少なりとも特性があって、それが遺伝としてリーチェさんに受け継がれているんだろう。少し訓練すれば、君も魔術を使えるようになるかも。』
「あ、ありがとうございます。姉のこと、安心しましたし、納得もできました。あと、私の事まで教えて頂き、なんとお礼を言えば良いのか、、、」
『礼なんて要らない。ただ、この念話のことは内密にしておいてほしい。』
「はい。心得ています。」
『すまないね。』
「いえ、冒険者の方は、自分の秘密をなるべく公に出さない理由は知っていますし、私達職員もそういう教育を受けています。守秘義務って言うんですよね。」
『うん。あ、そうだ。俺がバーニーさんについて、あれこれ推察したことも内密でお願いする。』
「そ、そうですね。私も知らないフリをします。でも、なぜ姉さんは私にも言ってくれないんでしょうか?」
『うーん。多分だが、ありのままの自分を見てほしい、と思っているからじゃないかな? ああいう能力という「条件」なしで、ただの「家族の一員」として愛され、普通に接してほしいという願いからだと、、、いや、少し違うか。プライバシーを侵害するような質問でなんだが、君の母上はバーニーさんを快く思っていないのでは?』
リーチェさんは、明言を避けて少し困ったように僅かに微笑んだ。
その態度は俺の質問を肯定するものだ。
『ん、まぁ。自分の娘でない子なら仕方がないのかな。おそらくは、彼女はその母上に自分に対して気持ち悪がられているのを感じ取っているんだろうね。じゃぁ尚更だ。隠しているのは、君が君の母親と同じように自分を避けてほしくないからだろうね。仲の良い姉妹ならそういう気持ちでいてもおかしくはない。』
「そうでしたか、、、なるほど。いえ、本当にビルハインドさんには感謝しか無いです。」
『いやいや礼なんて要らない。ただ、もしバーニーさんに異変があったら相談してほしい。ここまで関わって、、、えと、君たちから見て赤の他人である俺が勝手な推測で、あれこれ君に話してしまったことに責任を感じたんで。』
「ふふ、ビルハインドさんは、お優しいですね。分かりました。姉さんに何か有りましたらご報告いたします。」
そんな感じで、リーチェさんは仕事に戻り、俺はみなの待つ部屋へと戻る。
心做しか、リーチェさんの足取りが軽くなっていた気がする。
ただ、俺は、そういう人魔族の傑物の結末を知っている。
今は、大丈夫だろう。
が、いずれ来る彼女への試練を彼女が無事に乗り越え、あの傑物と同じようにならないことを祈ることしかできない。
俺は、一つのしこりを残して、その場をあとにした。
「あ、師匠。お帰りなさい。」
「おぉ、ビル。思い通りのアイテムはあったか?」
『バッチリだ。』
『嬉しそうですけど、他に何かありました?』
(、、、エルトは鋭いな。表情もないのになんで、わかるんだ?)
『あ、いや、なんでもない。まぁそれらはいずれお披露目するとして、宿に行こうか。ここでの残りの用事は、買い取り素材の代金受取と俺の精算だけだし。』
『よし。じゃぁ宿を確保した後は、宴会といこう、、、いや、やっぱやめとくか。』
『どうした?いつものハイドらしくないな。』
『いや、どうせ食事や酒を飲むっていっても、お前は不参加なんだろ?』
『あぁ、俺に遠慮しているのか。すまんな、こんなナリじゃ飲み食いできない、、、ん?』
『どうした?』
『いや、さっきギルドの宝物庫から魔石をいくつかもらったんだが、、、すまん、みんな急いで宿に行こう。もしかしたら、、、』
『なんだなんだ、ちゃんと説明しろって〜。』
「ちょ、待ってくださーい。」
「にゃぁ〜。」
俺達は、バタバタとギルドから出て宿に向かった。
そうして、戻ってきました、二日ぶりのアムール。
ハイドがチェックインをして、俺達は二階の中部屋を確保した。
『すまん。ちょっと思いついたことがあってな。ギルドでなく宿で試したいんだ。』
『またなんか、思いついたのか?結構なことだけどよ。』
アムールの二階。
一番奥の悪趣味な大部屋”サキュバスの間”の手前にある”エキドナの間”。
(ネーミングセンスがアレだよなぁ。そういう店だからだけど。)
全員が部屋に入り、視線が俺に集まる。
『さて、始めるか。エルト、もう一度、姿見の護符を見せてくれ。』
『はい。師匠。何が始まるんですか?』
護符を取ったエルトは、エルフ、、、いやハイエルフか?に戻り、タンタは勿論、皆がエルトに釘付けになった。
『やっぱ、綺麗。』
『ふふ、ハイリン、有難う。』
『エ、エルト様ぁ〜』
今にも尊死しそうなタンタ。
『はい、たっちゃん。こっちにどうぞ。』
エルトがタンタを隣に座らせる。
『にゃぱぁ〜。ゴロゴロ。』
『あ、こら。すりつくなんてズル、、、いや失礼だろう!は・な・れ・ろぉ!』
ハイリンがタンタを引っ張っているが、力はタンタの方が上のようだ。
そんなちょっとした騒ぎを余所に、俺はエルトの姿見の護符に集中する。
(この姿見の護符についている小さな石は、宝珠ではなく魔石だったのか。以前、この護符を見せてもらった時には気が付かなかったが、、、)
しかし、ギルドの宝物庫から頂いたいくつかの魔石の中に似たものがあった。
(何の魔物の魔石かまでは分からないが、同じものなら、、、)
そして、板札の方には、よくわからない術式が掛けられていると思ったが、今なら分かる。
(これは、魔力遮断の術式か。)
俺は、見よう見真似で天樹の板と小さな魔石を組み合わせ、少し大きいが姿見の護符と同じものを作り上げた。
『エルト。これ返すわ。そして、同じ効果を持つ護符ができたぞ。』
『す、すごいです。いにしえの護符まで作れるなんて。』




