鎧、報酬を貰う
などと思いにふけっていると、リーチェさんが一礼をしてきた。
「有難うございます。肉の分の代金も支払うようギルド長に言われていますので、明日、毛皮の代金に上乗せしておきますね。」
俺は、また、OKサインを出して了承の意を伝える。
(無料で渡すっていう話だったんだがな。タダより怖いものはないと言うし、何かしらの取引なら値をつけて記録しないとダメなんだろうな。さて、ここでの残りの用事は、と。)
「では、ビルハインドさん。次にギルドの宝物庫にご案内します。」
(キター!これが楽しみだったんだよ。)
案内される宝物庫は、ギルドの建物の上層階にあるようで、リーチェさんについて階段を上っていく。
(それにしても、石造りの建物なのにこの高さは?あぁ、土魔術で補強しているのか?ん〜空間魔術で石の重量を軽くしている?なるほど、勉強になるなぁ。)
などと、キョロキョロしているとリーチェさんが怪訝な顔で聞いてくる。
「どうか、されましたか?あ、喋れないんでしたね。」
俺は、ジェスチャーで石造りの建物について、説明してみた。
「あぁ、こんな高い建物は初めてでした?」
(よくわかったな。)
俺は、リーチェさんの勘の良さに驚きつつ、頷き返した。
尚も上へ上へと上がるリーチェさんからは、息切れが聞こえてきていた。
(何階まで、あるんだよ!俺は疲れないけど。)
「ハァハァ。さて、最上階ですよ。ふぅ〜。こちらです。」
一息ついたリーチェさんは、こちらを振り返り笑顔で通路の奥へと手を差し伸べている。
その先に、豪奢な扉が一つ。
そして、その扉の前に赤い髪の女性が立っていた。
「やぁ、来たね。」
今は、あの美しいミスリルの鎧も脱ぎ、ギルド長としての服装に身を包んでいるバーニーさんが扉の前で微笑んでいる。
女性であるにも関わらず男装の礼服だが、なぜかよく似合っている。
彼女の愛嬌のある笑みは、少しも損なわれること無く俺に向けられている。
「リーチェ、有難う。ここから先は任せてくれていいよ。」
「はい、ギルド長。では、私はこれで失礼します。」
一礼をして、リーチェさんは上ってきた階段を降りていく。
(途中から足が速くなっていった気がするが、、、ま、そんなことより、いよいよだな。)
「ここの宝物庫には、私と同席でないと入れない規律がありまして、まぁともかく、この中から好きな物を選んで構いませんよ。」
口調が丁寧となり、ギルドの外との雰囲気も弱冠変わっているバーニーさんが鍵を開け、扉をゆっくりと開け放つ。
扉の先に広がっていたのは、床一面に敷き詰められた真紅の絨毯と、壁際を埋め尽くす巨大な書架や棚、そして部屋の中央から奥に佇むガラス張りのケースがいくつもあった。
明り取り用のいくつかの小さな窓から差し込む夕日が、部屋の隅に潜む影を浮き上がらせている。
人影はなく、ただ静寂だけが支配するその空間は、まるで時間が止まってしまったかのようだった。
「部屋に明かりをつけますね。ちょっと待ってください。」
バーニーさんが部屋へと入った左側の壁に何やら魔力を流しているのがわかった。
すると、部屋のあちこちにあった明かりのついていないトーチから、眩ばゆい白い光が部屋中を照らし出す。
(こ、これは!感じたこと無い白さの光だな。)
その部屋中を照らすトーチの光は、太陽のような力強いものでもなく、かといって、月の明るさのように儚いものでもなかった。
ただただ、優しい雰囲気を纏わせている、そんな気がする白い光だった。
その白さは、例えるならキョウカが現れる俺の意識内のような白さだ。
俺がそんな風に感じてトーチを見ている姿に疑問を感じたのか、バーニーさんが問いかけてくる。
「このトーチの光が気になるんですか?」
俺は素直に頷く。
(なんとも不思議な光だ。)
「これは、ウィルオーウィスプ。光の精霊の力によるものですよ。」
(!!)
俺は驚き、バーニーさんに向き直る。
(このヒト、精霊を扱えるのか!)
「まぁ、驚くのは無理もないですかね。私は、精霊魔術も使える魔剣士なので。自分で言うのも何ですけどね、結構強いですよ。」
(ほう、魔剣士か。どうりで。)
「というか、ビルハインド殿も私と同じタイプですよね。ううん、魔術の方に重きを置いている魔導騎士、といったところでしょうか?そうそう、この部屋のトーチは魔道具でしてね、ここに魔力を流し込むとトーチに宿っている精霊がこうやって反応してくれるんですよ。しかも警備も担ってくれているんですよ。この部屋に盗人が忍び込んだ場合、光を完全に奪ってこの部屋に閉じ込めておくことができる、そんな精霊達です。」
(なるほど、そういう仕組なのか。というか、バーニーさんは、エルフの血でもひいているのかな?)
俺の浮かべたその疑問をどうやって察知したのか、バーニーさんは答えてくれる。
「気になりますか?実は私の母はハーフエルフでしてね。あぁ、最初から話すとですね。我が父は貴族でありながら、冒険者を目指し旅の途中で母と知り合って恋に落ちた、っていう、まぁありきたりな話です。で、そんな母から受け継いだ血と、父から受け継いだ剣士としての能力が合わさって生まれてきたのが私です。ちなみにリーチェとは腹違いの姉妹です。」
俺は、首をかしげる動作で、疑問を表現した。
「腹違いはなぜ?って疑問にお持ちですか?実は母は、父と私を置いて、冒険者に戻って旅へと出て行きました。知ってます?エルフって、あまり自分の子供に執着しないそうなんですよ。ハーフエルフたる母もそんな感じなのでしょう。考え方が人間の母親とは大きく違うそうです。父との間に何が有ったかは知らないですけどね。まぁそんなわけで、私も冒険者になって母との再会を夢見たんですが、いつのまにかギルド長なんて者になっていました。あ、すいません。私の話なんかどうでも良かったですね。」
俺は、そんなことはない、とジェスチャーで返す。
(人に歴史ありだよな。)
そんな俺の仕草で少し安心したのか、自分の愚痴を漏らすバーニーさんが居た。
「結局、母には会えず、父と何が有ったのかを問うことも叶いませんでしたけどね。」
(うーん、エルフが子供に執着がないかもだが、エルフの子供の方は親に対して甘えたがっているぞ。)
俺は、天樹様のことを語る寂しそうなエルミの顔を思い出す。
そして、エルトが自分の両親が死んだことを俺に告げ、しょげている姿も同時に思い出していた。
つまり、バーニーさんは、余程母親に会いたいのだろう。
「すいません。私の話より報酬ですね。この部屋に有るもの、お好きなものを持っていってください。」
俺は、気持ちを切り替えたバーニーさんに合わせるように、部屋にある様々なアイテムを物色し始めた。
(さてと、何をどれだけ持っていっていいのか分からないが、、、どんな物があるのかは見なければな。まずは品定めからっと。)
部屋の中央にあるガラスケース内には、魔術が付与された武具が置かれている。
壁際の書架には、よくわからない書物が陳列されていた。
同じように棚には、様々な魔道具が所狭しと置かれている。
ガラス扉がついている棚には、小さいながらも魔石や薬品のような瓶も並べてあった。
(うーん、悩むなぁ。全部ってのはダメだろうしなぁ。どれを選ぼうか。)
結局、俺が選んだのは、今後のことを考えてハルバードという大きな斧武器と中型の丸い金属盾だ。
もちろん、ただの武具ではないことは確かだ。
魔力を帯びているのがその証拠だ。
ただし、見ただけ、持っただけではどんな魔術が仕込まれているのかは分からない。
(しかし、、、これらを装備した俺は、ほんとにどこかの国の騎士に見えるな。)
他には、形や色がばらばらな五つの魔石を選んだ。
あと、気になる書籍が二冊。
表紙にかかれている文字からして読めないが、おそらく魔術書なのだろう。
(そのうち、読めるかも知れないから楽しみの一つとしてもらっておこう。)と決めた。
薬品を二本、魔道具を三つばかり選んだ。
「まだ、持っていっていいですよ。」
バーニーさんは、メモに一つ一つの価値を換算しながら、そう促してくる。
(じゃぁ遠慮なく、、、お?これは!?)
俺は、魔道具の棚に無造作に置かれていた剣の柄、持ち手部分のみの状態のアイテムを手に取った。
(なんだかわからないが、良いものを見つけた。)
そのアイテムをバーニーさんに見せて、許可を貰う。
「おぉっと。いいですよ。中々良いものをお選びなられますね。」
(これで、満足だ。)
俺は、選んだ品々を次元収納に収めつつ、バーニーさんに礼をしてその部屋から出た。
「良い品々でしょう?こんなとこで保管されているより、貴方たちに使ってもらった方がこのコ達も喜びますよ。」
(このコ達?)
バーニーさんのその物言いに少し疑問を感じたが、理由を聞くこともできないので、あらためてバーニーさんに礼をする。
「礼なんて必要ありませんから。さて、私はもう少し事務処理がありますので、自室に戻りますね。貴方がたも今日はゆっくりお休みになってください。」
そうして、濃密な宝物庫の時間は終わりを告げ、俺は仲間たちが待つ部屋へと戻る。
途中、下の階まで降り立った時にリーチェさんが話しかけてきた。
「ビルハインドさん。姉さん、どんな感じでした?恐ろしくなかったですか?」
(何を言っているのか、、、なんか雰囲気が違うのは分かったが、それをどう伝えようか?)
「ええと、普段は気さくな感じなんですが、あの最上階に居る姉さんは、なんだか姉さんじゃないみたいで、少し怖い感じがするんですよ。」
俺は、少し頷きつつ、その理由が分かった気がした。
しかし、伝える手段がない。
いや、有ったな。




