鎧、考察する(2)
『少し遡るが妖狐が攻撃を仕掛けてきた時、俺が魔石を持っていることで、どうも俺を目標に定めていた節があるんだ。』
『どういうことだ?』
『この魔石同士が繋がっているんじゃないか、と言った方が解りやすいか?』
『師匠、この仔達は、覚えていないそうです。』
『まぁ暴走状態だったら、記憶にないかもな。そして、これは仮説に過ぎないが、もしこの魔石の一つをキキョウか、この事件の発端の人物が持っているとするとどうなると思う?』
『む!その人物がビルの動向を完全に掴んでいる?俺達の行動が筒抜け?』
『そうだ。だからといって、この魔石をそこら辺に捨て置け無い。俺が言いたいのは、なんだか誰かの手の平の上で踊らされているんじゃないか?と感じることだな。』
『ん〜、でもよ、どうしようもねぇだろ。そもそも、その鎧がキキョウ作なんだろ。』
『そうなんだよなぁ。つまり、だからこそ、ハイドやハイリンを巻き込んでしまってるんじゃないかと、申し訳ない気持ちがな。』
『あぁわかったわかった。気にしすぎだと思うぜ。仮にそうだとして、その誰かの思惑がどこにあろうが、ビルが、いや、俺達がその誰かの予想を上回ればいいんじゃねぇの?』
俺は、ハイドのその言葉に絶句した。
『、、、すごいな、ハイド。なんでそんなに簡単に言えるのか。仮にキキョウだったとして、そのキキョウは、二千年前からの伝説の人物だぞ。一般人からすりゃ神に近しい存在だ。それを上回る状況ってどんなだよ?』
『へん!俺に言わせりゃ、ビルのあの魔術は既に神がかってるぜ。勿論、エルトちゃんの弓もな。しかも二人とも超短期間で成長してるって言ってたじゃん?普通じゃねぇよ。ならよ、それをもっと加速させれば、キキョウだろうが何だろうが予想外な状況に慌てて、俺達の前に出てくんじゃねぇか?』
『な、なるほど。少し乱暴な意見だが、その真意は的を得ているかも知れんな。』
『ったくよぉ。もうちょっと言わしてもらうとだな。誰かに利用されているかも知んないなら、とことん利用されておいて、最後の最後で利用する側になれるよう考えとくことだな。あんたなら、それくらいできんだろ?』
『おぉ!言うじゃないか。全く、そのとおりだ。』
俺は、全身に衝撃が走り(そんな気がしただけ?)、目は無いが目からウロコが落ちる思いだった。
『兄さん、どうしたの?どっか、頭、打った?』
『ハイドさん、凄いです。』
『コラコラ、二人とも俺の評価、低すぎじゃね?』
『ははは。いつも酒〜って言ってる人とは思えないって、ことですよ。』
『ふむ。そうだな。キキョウ、いやその誰かが予想していないこと、つまり、不確定要素を取り入れていくか。まぁ、そもそもここに居る仲間が不確実な要素になるかも知れんな。俺一人だけだと行動パターンは読まれやすいが、皆が居ればその誰かの予期せぬことが起こるやも知れないか、、、いやぁ有難う、ハイド。何かスッキリしてきた。覚悟も出来たわ。まさか、ハイドに諭されるとは思っても見なかった。』
『おいおい、喧嘩売ってんのかよ。俺だって、ビルと出会ってから色々と学んでんじゃねぇか。』
『そうだな。人は成長するものな。すまんすまん。』
(もしかすると、このハイドという男、俺の予想を超えた何かを持っているのかも。)
『兄さん、調子に乗らない。いつも、ビルのお陰で〜って言ってるクセに。』
『な!違うって。いや、違わないけど、違うから〜。』
(、、、いや、何も持っていないか、、、)
「あのぉ、皆さん随分とお静かですが、お疲れですよね?申し訳ありません。もう少しだけお待ち下さい。」
俺達の様子を見に来たのだろう。
リーチェさんが扉を開けて、部屋を覗き込んでいた。
念話しかしていない俺達は、確かに会話もせずにただ座っているだけに見えたのだろう。
「あ、いや。疲れているってほどのもんじゃないっすよ。街に帰る馬車ん中で寝てたし。」
「まぁ、馬車で?乗り心地最悪なのに寝てしまうほどの疲労状態だったんですね。申し訳ありません。作業を急がせてきます。」
何か、随分勘違いをしてリーチェさんは、仕事に戻っていった。
「兄さ〜ん。言うにしても、もう少し誤解されにくい言い方、できないんですか?」
「、、、すまん、、、」
ハイリンの指摘で、ハイドは落ち込んでいる。
以前にも似たようなことがあったのだろうか。
あったんだろうなぁ。
みなが出された紅茶を飲み干した頃、リーチェさんが戻ってきた。
「皆さん、お待たせしました。とりあえず、クエスト完了の精算だけでも済ませますね。買い取った素材の精算は明日になります。ギルド職員総出で作業していますので、ご理解ください。」
「ギルドのみなさん、リーチェさんもあまりご無理なさらないよう。」
「いえいえ、ハイリンさん。それは違います。盲検者のみなさんが無理して無茶して命をかけてこなされた仕事です。ここでギルドがその功績に対して敬意をもってあたらないとバチが当たります。」
ふんす!と気合の入ったリーチェさん。
(いや、今、ここで気合を入れられてもなぁ。)
「さて、まずは個人精算です。ビルハインドさんの討伐数は42万5956匹ですので、金貨での報酬は10万6489枚です。が、ギルド長から許可が出ていますので、後ほどギルドの宝庫からレアアイテムを選んでいただいて相殺します。今は、この証明書をお持ちください。」
(金貨10万枚か。俺は、多分金持ちになったんだろうな。いまいちピンと来ないが。)
「次にハイドさんは、164匹分で金貨41枚。エルトさんは、これも凄いんですが、1140匹分、金貨285枚です。そして、クエスト達成は、二つありますね。妖狐討伐と現地異常状態調査。あとボス討伐ボーナスも入れて、パーティーへの報酬は金貨150枚です。先日、前金でお渡しした分とは別の報酬ですので、ご安心ください。」
「兄さん、あんまり見たこと無い報酬ですね。」
「お?おう。確かに今までで一番多いと思うぞ。これにまだ素材買い取ってもらった分がのってくるしな。とはいえ、ビルの報酬を聞いた後じゃぁ、なんだかなぁ。」
「ビルさんの魔術で討伐したことですし、みんな無事で街も無事で、さらに報酬を貰えるんですからいいじゃないですか。」
「そうなんだがな。俺達、ビルに色々借りがあるからよ。返せねぇじゃん?」
「あぁ、そういえば、そうでしたね。どのくらい支払えば良いんでしょうかね?っていうか、お金じゃないかもですね。」
「そうだろうなぁ。身体で払うしか、、、」
『ぶっ!冗談だろ?』
んなもん遠慮させてもらうぞ、というジェスチャーで返しておく。
『わはは、何を勘違いしているか分からんが、肉体労働でしか返せないという意味だぞ。』
『なんだ、、、紛らわしい表現なんか使うなよ、、、』
そんなやり取りの間、リーチェさんの説明が続いている。
「あ、皆さん。素材買い取りの別件ですが、ギルド長からの提案書がありまして、えーと。アガルタ・カーダ所有の妖狐の生肉を全て買い取り、ギルド手配の業者に処理を依頼する。ってあるんですケド?」
「あぁ、例の肉の話か。どこに持っていったらいいですか?」
『エルト。肉の調理方法、レシピは出来ているか?』
『あ、はい。こちらに。』
俺は、エルトからレシピを預かり、目を通し問題ないことを確認した。
そして、ルナール料理と書かれたそのレシピをリーチェさんに手渡す。
「リーチェさん。また、ビルが生肉を出すので、どこに出したら良いか指示してくれますか?」
「はい。わかりました。えと、ほぉ、このレシピ、すごいですね。この方法ならぱさついた肉でも美味しく頂けそうですね。えと、食料用倉庫へご案内しますね。」
俺は食べたことがないから分からないが、脂身の少ない妖狐のもも肉はぱさついているのだろう。
それをオイル漬けや塩漬けで旨味を閉じ込めて、それから調理するレシピだ。
ちなみにただのオイルや塩なだけでなく、様々な調味料を加えたりすれば味付けは抜群に良くなる、と書いてあった。
(それは、素材の味でなくない?)と思わなくもなかったが、、、
それにそのレシピにある調味料の素になるのは、草花素材なんだが人間に認知されている草花だろうか?
そんな心配をしながらもリーチェさんに案内されて、食料庫に着いた。
(ほぉ、この倉庫は凄いな。氷魔術で倉庫内を冷凍状態で保っているのか。)
リーチェさんが倉庫の扉を開けた途端、倉庫内からの冷気で周辺が霜で白くなった。
「こちらの倉庫で収まりますか?」
俺は、ジェスチャーでOKサインを出し、そして、妖狐の肉も全て出した。
(あ〜スッキリ。ん?ふと思ったがルナール料理?って、、、)
ルナールって狐っていう意味だけど、ルナ?月?月狐料理?
あの妖狐、もしかしたら、昔、エルフの村では、月狐とでも呼ばれていたのだろうか?




