鎧、歓待される
「では、ハイドさんは、晴れてCランクです。そして、ハイリンさんもCランク。エルトさんとビルハインドさんは、Eランクまで各々昇格です。お二人はEランクですけど、いくつかクエストをこなすだけで、すぐにDランクになれる状態です。あと、パーティーランクは、実戦試験が必要なので、明日以降となりますが、試験の準備が出来ましたらお呼びしますね。」
「リーチェさん。色々と手続きは有り難いんだけど、そのパーティー昇格試験は、少し先にしたいんだ。」
「えと、構いませんが、なぜでしょうか?」
「バーニーさんにも言ってあるんだが、明日にもハイラックへ向かうつもりでね。所用をこなして、また戻ってくるんで、そん時に受けたいと思っている。」
「わかりました。では、皆さんの個人での昇格手続きと報酬の精算をしてまいりますね。ここでゆっくりしててください。」
リーチェさんが部屋から出ていく。
リーチェさんと入れ違いで、別の女性職員がワゴンで何かを運んできた。
「失礼します。これは、ギルド長からのサービスだそうです。」
「この香りは!」
運ばれて来たのは、何か飲み物だろうか。
その女性職員が慣れた手つきで、カップに琥珀色の湯を流し込む。
「紅茶!」
ハイリンが色めき立って、注がれたカップから出る香りを嗅ぐ仕草をしている。
その紅茶に温かいミルクが注がれると、カップの中でなだらかな渦が巻き、またたく間に優しい木漏れ日を溶かしたような乳白色へと変わっていった。
「ミルクティーですね!」
「へぇ、こんな待遇、初めてだぜ。」
「精算に少しお時間がかかりますので、このミルクティーでしばしお寛ぎ下さいな。」
「あぁ、有難う。ナリーシャさん。」
「あら、名前を覚えてくださっているんですか?光栄です。」
「ははは、親の名前を忘れても、一度会った女性の名前は忘れませんよ。特に貴方のような魅力的な方のお名前はね。」
「まぁ、お上手ですね。」
「もう、兄さんったら、、、」
とか言いつつハイリンは、ミルクティーに視線が釘付けだ。
「ああ、そうだ。紅茶受けもありますので、どうぞ。」
そう言ってナリーシャさんがワゴンの下段から大きめの皿にこんもりと積まれたクッキーを取り出し、テーブル中央に置く。
「わぁ、クッキーまで!なんだか貴族にでもなった気分ですね。」
「はは、ハイリンは貴族の作法を知っているのか?」
「知らないですけどね。本で見聞きしただけです。こういうのは貴族の嗜みだとか。」
そして、各々カップを手に取り、ミルクティーを一口飲む。
俺は、飲めないので、手も出せないが。
(エルトとタンタは、大丈夫かな?おっかなびっくりで、そぉっと飲んでいるが、、、)
「あったかーい、、、」
ハイリンの感嘆の声があがる。
『師匠!これ、何です?香りと飲んだときの味が一致しない、不思議な?』
『エルフの村では作らないのかな?茶木という種類の低木の新葉を摘んで少し乾燥させて、揉んで発酵させて、また乾燥させて、熱湯で戻した飲み物だ。』
『茶木?発酵?』
『まぁ、詳しくは、後でな。』
エルトは、紅茶に興味津々な様子で、早々にミルクティーを飲み干し、ミルクを入れない状態の紅茶も味わっていた。
そして、タンタの方はというと。
「あちち、俺様猫舌なんで、もうちょい冷めてから飲もうかな。」
(やっぱりか。)
俺の想像していた通りの二人の反応だった。
と、みながゆったりしたティータイムを過ごしていたら、急にバタバタと足音が聞こえ、この部屋の扉がバタンと開け放たれた。
「なんだ!びっくりした。リーチェさん?」
「ちょ、リーチェさん、色々マナー違反ですよ、、、ノックも無しに、、、」
ナリーシャさんがたしなめているが、聞いちゃいない。
「す、すいません。先程、ギルド証を受け取って、ビルハインドさんのギルド証を精密鑑定にかけたんです。それで、驚いちゃって。あ、いや、じゃなくて、、、」
(えらく慌てているが、一体何があったのだろう?)
「まぁまぁ落ち着いて。はい、深呼吸。」
ナリーシャさんがリーチェさんの背中をポンポンと軽く叩いて、深呼吸を促す。
「これが、落ち着いていられますか!すぅ〜はぁ〜。」
と言いつつ、吸って吐いてを二度繰り返すリーチェさん。
(あ、深呼吸はするんだ。)
少し落ち着いたリーチェさん。
なおも興奮気味で俺に話しかけてくる。
「ビルハインドさん。あなた、一体どのくらいの妖狐を討伐したんですか!どうやったらこんな訳のわからない数値を出せるんですか!」
俺は、首を振ってわからないのジェスチャーしかできない。
「確かに、アレだけの数だったからなぁ。予想で20万って言ってたよな?」
リーチェさんは、呆れたように首を振り、正しい数値を俺達に伝える。
「42万です。」
「!!」
「な!」
「すげぇ、、、」
「正確には、42万5956匹です。どうやったら、こんな数値が出るんですか!」
『ギルド証のカウント能力、すげぇ!』
『ビル、そこかよ、、、』
「ということは、金貨10万6489枚!」
『計算はや!』
計算が早かったハイリンの言葉が続く。
「あと、処理済みの妖狐の毛皮を1000枚ほど、買い取ってほしいんですけど。」
「妖狐の肉も引き取ってもらわんとな。」
ハイドの追撃の言葉に、リーチェさんは頭を抱えてうずくまってしまった。
(さすが姉妹だ。バーニーさんと同じ反応、、、)
「わ、わかりました。では、その素材は、倉庫の方に出してもらえますか?ご案内します。あ、ナリーシャさん。手の空いてる他の職員を一番倉庫に集めてきてほしいんだけど。」
「ええ、わかりました。では、私は、これで失礼しますね。」
ナリーシャさんは、ワゴンを置いて、足早に退出していく。
「、、、すげぇ、ッパねぇ、、、」
部屋を出たナリーシャさんのやや粗暴な独り言が小さく聞こえた。
俺は俺で、リーチェさんに案内されながら、部屋を出る。
部屋のすぐ近くにあったギルドの勝手口?から隣の倉庫へと案内され、そこに出すよう指示された。
その倉庫は、持ち込まれた魔獣を解体する場所のようで、他にも毛皮や骨といった素材が集められていており、解体用の道具も部屋の隅に綺麗に並べられていた。
俺の出した妖狐の毛皮1000匹分、、、いや、それ以上有りそうだぞ?
(これでも半分なんだが。残りの半分は時期を見て売ればいいって、タンタが言ってたからな。)
山のように積まれたそれを見たナリーシャさんが感嘆の声を上げる。
「これはまた、凄く綺麗な状態の毛皮ですね。直ぐにでも販売できそうなほど。高値がつきますよ。ただ、これだけの数ですから、チェックに時間がかかりそうですねぇ、、、今夜は徹夜かぁ、、、」
ぼそっと聞こえた最後の独り言に、俺は気の毒に思ったが言葉も掛けようもないので、リーチェさんと毛皮の山を置いてみんなの居る部屋に戻る。
「ははは、あんなリーチェさん、初めて見たわ。」
「さすがに42万は、凄いですからねぇ。生き残った妖狐が一万匹としても、98%をビルさんが退治した計算ですね。」
「相変わらず、ハイリンのその計算の早さはなんなんだよ。解りやすいけど。」
俺が部屋に戻って来た時は、二人してそんな話をしていた。
(まぁ、あの大群は脅威だったからな。とはいえ、、、)
『みんな揃っているから丁度いい。精算に時間もかかっているようだし、恒例の反省会といこうか。』
『え〜!反省会だ〜?』
『ハイド。今回も結果だけを見れば、みんな無事で見事にクエスト達成しているが、運が良かっただけという側面もある。下手すりゃ俺達全滅してたからな。』
『わかったよ。ただよ、ビルが居たから助かった。妖狐討伐に対する俺の見込みが甘かったとこは反省すべきだが。そうじゃないのか?』
みんな、大きく頷いているが、そうではないんだ。
『違うんだ。みんなが居たから策は成功した。そもそもバーニーさんが来てくれなかったらやばかったじゃないか。そのバーニーさん達、冒険者を湿地帯まで引っ張り出したのはハイドだし。えーと、そうだな。順を追って話そうか。』




