鎧、帰還する(2)
「これをオイル漬けや燻製にして、食べる前に炙ったり、煮込み料理にとか使えそうなんですが、こんな大量な肉は俺達の手に余るというか、、、」
「はは、そういうことね。大量のオイルや調味料、調理する人件費が必要だろうからね。街の屋台ギルドにでも頼んでみよう。」
「ありがとうございます。あと、毛皮の買取も、、、」
「うーん、それも大量にあるのよね、、、そうだ、ハイド君?」
「え、は、はい。なんでしょう?」
「報酬の一部、金貨でなく冒険者ギルド所有のレアアイテムでも構わないかな?」
「いや、俺は金貨の方が、、、あ?いや。そうか。えと、それは、構いませんが、一体どんな物が有るんですか?と、ビルが聞いてきています。」
ハイドがアイテムに興味なさそうだったので、俺は慌てて念話を送ったのだった。
ハイドがそう聞き返すさまに少し満足したのか、バーニーさんはニヤっとした表情になる。
「そりゃいろんな物が一杯あるよ。魔術武器や防具は言うに及ばず、古い書籍に魔道具、これは、製法が分からなくなったものや私達には読めない文字で書かれていて歴史的価値が高いもの。あと、魔石や薬品の類があるかな。」
「えと、選ばせてもらえるんですか?」
「あぁ、自由に選んでほしい。一応、報奨金額と摺り合わせはするけどね。」
『ハイド。是非、欲しい。と伝えてくれ。』
『どうした、ビル?って聞かなくても解るぜ。目当ては武具か?魔石か?』
『正直言うと全部だけどな。特に薬品には興味がそそられる。』
『わかったわかった。』
ハイドがどや顔のバーニーさんに俺のワクワクした気持ちを伝えてくれる。
「バーニーさん、えらくビルが乗り気でして、お言葉に甘えていくつか頂きたい、だそうです。」
「はは、遠慮なく選んでほしい。」
『師匠、もの凄く嬉しそう、、、』
(なんで、わかる?まぁ隠しても仕方ないが、、、)
『レアなものをこの目で見れるのは、滅多にないチャンスだぞ。今は目もないけどな。既にある工夫された物、新たな知識に繋がる物。知識欲というのかそういった感情が湧き上がるんだ。学びに喜びを感じることができることこそ、俺の望みだしな。』
俺がそう主張している時、エルトは何かまたメモをとっている。
『あんたの気持ちは、わかったって。でも、俺は金貨の方がいいけどな。』
『すまんな。金貨が残るようにある程度の物品に抑えておくから。』
『いや、あんたの功績だから、気兼ねなく選んでいいぜ。それはそうと、少し休ませてもらっていいか?昨日から緊張と驚きでお腹いっぱいだわ。ふわぁ〜』
器用に念話であくびをするハイド。
緊張の糸が切れたのか、或いは、妖狐のボスとの戦いがよほど疲れたのか、、、
(あ、そういや、ハイドは骨が折れてたっけ。ハイリンの治癒魔術で治っているはずだけど、気力までは回復しないか。)
『そうだな、タンタ、御者を代わろう。お前も休んでいいぞ。』
揺れない馬車とはいえ、適度な小揺れと雨上がりの爽やかな風、小気味の良いカユマの足音。
昼寝するな、と言う方が無理がある、そんな馬車での帰還だ。
気づけば、エルトもハイリンも夢の中のようだ。
「バーニーさん、申し訳ないが俺も、、、」
「ハイド君?って、もう寝てる、、、」
呆れたバーニーさんとタンタだけが残された形だが、案外二人は意気が合うのか、タンタの旅の話をしている。
魔族領からここへ至るまでの苦労話だろうか?
そうして、俺達の馬車は日暮れ前にハイファーの街に戻ってきた。
門の外に広がる麦畑は、西日を浴びてまるで黄金の海のようだ。
風が吹き抜けるたびに、さらさらと乾いた音を立てて波打っている。
街道の脇に佇む古びた風車は、長い影を地面に落としながら、ゆっくりと、しかし確実にその羽根を回していた。
俺は、この風景が失われずに済んで良かったと心底思った。
ハイファーの門は、バーニーさんの顔パスですぐに通過して、そのまま冒険者ギルドに向かう。
「あら、お姉、、、ギルド長。随分お早いお帰りで。何かありましたか?」
ギルド前で掃除をしていたリーチェさんに出迎えられた。
「あぁ、リーチェ。先ずは、妖狐の脅威は無くなったよ。安心していいよ。」
「まぁ、それは良い報告ですね。でも、こんな短時間で?」
「はは、そうだよ。早期解決、早期帰還。全て、ハイド君のパーティーのお陰でね。他のパーティーに後処理を任せて、ハイド君の馬車に便乗して帰ってきたんだ。後処理の方は、三日以上かかるだろうけど。」
「そうでしたか。皆さん、お疲れ様でした。無事のお戻り、本当に良かったです。って、ビルハインドさん、そんなに黒かったでしたっけ?」
リーチェさんが素に戻って驚いている。
「いや、こいつ、戦いの時に白い塗装が剥がれただけですよ。心配いりませんよ。」
ハイドが代弁してくれた。
「そ、そうでしたか。他の皆さんもお怪我はありませんか?」
「リーチェ。挨拶は、そのくらいに。冒険者に怪我はつきもんけど、ヒーラーが居るんだから大丈夫だって。」
「それもそうですね。でも、心配は心配ですから。」
とか、言いながら、バーニーさんを先頭にギルドの建物に入っていく。
「えと、姉さん?この猫さん達?とこのフワモコな生物?ギルド内に入れて良いんですか?」
完全に素になるリーチェさんを余所にバーニーさんが許可をくれる。
「はは、二足歩行とはいえ10匹の猫は問題ないよね。と、その二匹は例の妖狐なんだってさ。どちらも害がないらしい。入れてもいいよ。ああ、あとアガルタ・カーダのクエスト精算などの手続きを頼むね。個人のランクアップの処理も。私は、急いで調査報告を王都の本部に送らないとならないから、後を頼むね。」
「は、はい。わかりました。皆さん、こちらへいらしてください。」
ギルド内は、シンっとして静まり返っていた。
それもそのはず、ほとんど人が居ないのだ。
(あぁ、そうか。ここにたむろってた連中が、妖狐討伐の応援に来てくれた冒険者だったのかな。)
「あと、それとビルハインド殿のギルド証は精密鑑定が必要だから、その対処も。それでは、アガルタ・カーダの皆さん。ギルド長として改めてお礼を言います。街を救ってくださり、有難うございます。報酬を楽しみにしてほしい。直ぐに用意させますから。」
「ええ、楽しみです。こちらこそ有難うございます。」
「その礼には及ばないよ。貴方たちの働きの成果、対価だからね。」
そう言って、バーニーギルド長は、手をヒラヒラさせてギルドの奥へと入っていった。
俺達は、リーチェさんに付いていき、応接室のような部屋へと案内された。
「えと、では、皆さんのギルド証をお預かりします。」
「はい。」
俺達四人がギルド証を差し出した。が。
「あら?貴方は?」
(あ、タンタは登録してないのか。)
「あぁ、この獣人は、途中で仲間になったんです。ギルドに登録する暇がなくて、、、」
「そうですか。では、どうされますか?今後もパーティーの一員として登録しますか?今までの成果はカウントされませんけど。」
「そうだな。登録だけでもしておくか。」
不安なのか、タンタはリーチェさんとエルトを交互に見つめている。
リーチェさんは、みなのギルド証をチェックしながらも、新規メンバー登録の用紙をタンタに差し出してきた。
「大丈夫ですよ。タンタさん?でしたか?ハイドさんが保証人なら何も問題ありませんよ。」
「えと、たっちゃん。この紙に名前を書けばいいだけだから。」
エルトが優しくタンタの登録手続きを手伝ってくれているので、そっちは任せよう。
「あと、その仔達は使役されている、という状態でしょうか?」
猫10匹と妖狐2匹に手を向けるリーチェさんに、ハイドが答える。
「まぁそんなもんです。メンバーカウントには入れませんよ。」
「ビーストテイマーって珍しいですね。」
リーチェさんは、にこやかな笑顔をタンタに向ける。
タンタが少し照れる仕草をしている。
(そういえば、タンタって、オス?メス?外観からは良くわからない。)
ハイリンの一件があるから、俺は、性別を聞きたいが、あからさまだと返って相手が傷つくかも知れない、そんな臆病さが出てしまっていた。




