鎧、帰還する(1)
『あー、えっと、ハイド、ハイリン。今後のことを相談もなしに、勝手に決めてバーニーさんに説明してしまって悪かった。』
『いや、別にいいぜ。そんなこと。ハイラックに行って、ビルの用事を済ませたあと、エルフの村に行くってことだよな?』
『あぁ、そうだ。別に大急ぎってわけでもないが、この国に起こっている異常を考えるとあまり悠長にもしてられない気がする。早めにエルフ達に伝えて情報を集めて対策を考えた方がいいと思うんだ。』
『ムハインド王国の南の異常は、この仔達だったから、もう問題ないよね。北、西、東、どこに向かうんです?』
『さっきもハイドに伝えてもらったように、王都から東に広がる森にあるエルフの村に行こう。』
『へぇ、そこら辺にあるような気がしてたが、、、あ、もしかしてエルトちゃんの出身って、そこかぁ。』
『はい。エルトッキュという村です。』
『あのぅ、エルト様?このタンタもついていっても宜しいでしょうか?』
俺とハイドは、OKサインを出す。
「たっちゃん、良かったですね。これからもよろしくお願いしますね。」
「ははぁ〜!いやぁ、願ったり叶ったりです!お前ら、喜べ!エルト様と一緒に旅に出るぞぉ!」
「にゃ〜!」
「にゃぉ〜!」
出た!猫10匹のラインダンス。
『あぁそれと師匠。たっちゃんにも魔力を練り込んだ服を仕立ててもいいでしょうか?私やハイリンみたいな服を。』
『ん?いいと思うぞ。』
『いや、わたくし目は、今のままで十分でありますが。』
『遠慮すること無いぞ。タンタとスライムのお陰で、依頼を達成できたようなもんだから。』
『そうですよ。私が念入りに仕立ててあげます。』
『は、はぁ〜!このタンタ。これに勝る喜びは無いでございます。ありがたきぃ幸せ〜!』
(十匹の猫は、服すら来ていないが、まぁそれはエルトに任せるか。)
「ず、ずいぶん賑やかだね。依頼達成の喜びは解るけど、、、」
天幕の入口にバーニーさんが戻ってきていた。
「あ、バーニーさん。いや、ちょっと違いますけど、まぁみんな喜んでいるのは事実ですね。」
「私も街に被害が出ずに事前に解決できて、踊りたい気持ちはあるよ。落ち着いたら街を上げて祭りでもするかな。予算は領主様持ちだけど。」
「はは、大きな祭りになるといいですね。」
「何を言っているかなぁ。その祭りの主役は貴方達じゃないの。アガルタ・カーダ、此処にあり!と、良い宣伝にもなるんじゃない?」
『アガルタ・カーダ?なんだ、それ?』
『あれ?言ってなかったっけ?俺達のパーティー名だぞ。』
『え?そういう名前がついていたのか、、、聞いてないって。』
『まぁ、あまりパーティー名なんて使うこと無いからね。』
『ハイリンの言う通りだが、ビルよ。ギルド証にも書いてあんだが?』
『あ、ホントだ。ちっちゃく有るわ。』
俺とエルトがギルド証を良く見たら、確かに記載してあった。
『ちなみに、理想郷を探す旅、という意味だよ。』
「ん?ギルド証が気になる?」
あんまり、俺達が無言でギルド証を見ているもんだからバーニーさんが怪訝な顔つきで確認してきた。
「あぁ、そうだ。貴方達の階級も上げなきゃね。ハイド君は、Cランクかな。他の方も一つか二つ、上がるはず。それとパーティー昇格試験さえ合格できれば、Cランクパーティーね。上位パーティーの仲間入りだぞ。貴方達の実力なら余裕じゃない?」
「いや、あのバーニーさん。俺達、一度ハイラックへ行きたいんです。昇格試験を受けるなら、その後ハイファーに戻ってきてからでいいですか?」
「そう?こちらも後始末や祭りの準備に時間がかかるから構わないけど、あまり待たせないでよね。おっと、そんな話は道々話ができるね。」
「はい、では、ハイファーの街に向かって出発しましょう。」
俺達は、バーニーさんを加えた大人数で猫馬車に乗り込み、ハイファーの街へと出発した。
ちなみにコシールさんは、バーニーさんの代わりに現場に残って指揮を執るらしい。
なんでも、経験のためだとか。
これから人の上に立つべき青年なりに、少しでも現場で経験を積みたいのだろう。
「護衛にサケガスキーもいるし、念の為カミィラも置いてきたから大丈夫でしょ。」
とは、そう変わりのない年頃なのに妙に貫禄のあるギルド長の言である。
「それにしても、この馬車、凄いね。こんなに乗っているのに、馬一頭で引いて行けるなんて、、、しかも全然揺れないし、音もしない。まるで飛んでいるよう、、、」
「まるでではなく、まさに浮いているんですよ。」
「俺様のスライムのお陰だぞ。」
「なんと、獣人の君は、スライムを使役しているのか。しかもこんな使い方、、、貴方達パーティーは、ほんっとうに異常だな。良い意味でそう感じるよ。」
「異常といえば、ビルのあの落とし穴だけどな。」
「おっとそう、報告に関係なく、そのあたりもう少し詳しく聞かせてくれない?」
ハイドが先程軽く話したところを今度は詳しくバーニーさんに説明した。
「そう、あの大きめの妖狐の個体は、火壁を突破できたのか。だからこその落とし穴なわけね。」
「奴らの想定外の規模の罠ですからね。」
「でしょうね。ところで、あの大きな穴と残った砦は、あのままなのかな?」
(あ、いけね。元に戻さないとダメかなぁ。)
「えーと、ビルが言うには、あれらを元に戻す魔力が残っていないそうです。」
「さもありなん。じゃぁ、地図を書き換えなきゃね。」
そう言って、さっき机に広げていた地図を一度広げて折りたたみ、自分たちの居た場所に✕印のつけたところに、何やらペンで書き込んでいる。
覗き込んだハイドが書き込んだ内容を口にする。
「ビル湖?ビル砦?」
「仮称だけどね。このまま定着しそうな気がするよね。」
『ちょ、マジか!安直すぎん?他に何かないんか?妖湖とか、水狐湖とか、、、』
「ビル、照れるなって。しかも、その代案の名前も安直だと思うけどな。」
ハイドのツッコミももっともな気がした。
どうも俺には、ネーミングセンスが無いような気がするな。
「あはは、照れることはないって。おそらく歴史に名が残るだろうし、この二つが事実だとの証明だしね。」
(小っ恥ずかしいというか、なんていうか。ビルっていう通称名だからマシ?的な、、、)
『あ、そうだ。それはともかく、ハイドに一つ相談が有ったんだ。』
『ん?』
『今回のこの妖狐討伐で、大量に毛皮ともも肉が俺の次元収納に有るんだが、これは、ギルドに買い取ってもらえるのか?』
『普通ならそれでいいと思うが、タンタ、どうする?お前なら何か他に伝手があるんじゃないか?』
『ん〜、毛皮はギルドで良いんじゃないか?ただ、置いとけるなら買い取ってもらうのは先の方が良いと思うぞ。』
『ん?なぜだ?』
『この南の妖狐、ほぼ全滅なんだろ?だったら、今後希少価値が高まるよな。入手不可と話が広まった時、ギルドじゃなく毛皮問屋や武具工房にもの凄く高く売れるぜ。特に大物の奴は、売るのがもったいないくらいだ。』
『なるほど。じゃぁ、リーダークラスの毛皮と普通のは半分ほど、置いとくか。』
『どのくらいの数があるんですか?』
『全部で2000匹分、それ以上ありそうだな。で、もも肉はどうしようか?』
『肉は、あのエルト様がお作りになった調理法を街で流行らせる、というのはどうだ?』
『あぁいいかもな。』
『えーと、そのもも肉でなくてもいいんですが。他にもオイル漬けにして、寝かせておくだけでも旨味は出ます。それを焼いてもいいですし、煮込みにしてもいいですね。燻製にしたあとに香草でくるんで少し火で炙るのも良いですよ。それを外側から薄くスライスして、野菜と一緒に食べるのも、、、』
すらすらと調理法を口にするエルト。
どんなけ肉料理が好きなんだよ、、、
『さすがエルト様。であれば、それをハイファーの街での祭りの際に広めてはどうでしょう?』
『いいんじゃないか?もも肉とレシピを渡して、祭りに使うのは任せるって、バーニーさんに説明してくれるか?』
『わかった。』
ハイドがメモにいろんな情報を書き込んでいるバーニーさんに声をかける。
「あの、バーニーさん?」
「なにかな?」
「今回、俺達が討伐した妖狐の内、解体が済んで人が食べても大丈夫なもも肉と毛皮が大量に有るんですよ。それを提供するんで、街の祭りってのに使ってほしいんです。」
「え?いいの?大量って、どのくらい有るの?」
「タンタが一生懸命加工してくれた骨付きもも肉が6000本ってとこだそうです。俺達だけでは消費できるもんでもないんで。」
(四足の妖狐だからな、1500匹✕4で6000だな。万単位を討伐したけど、全部燃やしちゃったからなぁ。)
「す、すごいね。じゃぁ、ギルドで買い取るよ。」




