鎧、報告する(1)
「えと、バーニーさん?」
「いやいや。あ〜サケガスキー君。ここは、コシールの言う通りだと思うよ。」
「バーニーギルド長。あっしが悪いんですかい?」
「そうは言っていないよ。まぁ、このあと、彼らからの事情を聞けば納得できると思うよ。ハイド君、ちゃんと納得できる説明をしてくれるんでしょう?」
バーニーさんは先程の態度から180度反転した様子になっていた。
「ええ、それは勿論。その前に、コシール様に紹介しておきますね。ハイリンはいいとして、こちらがビルハインド。エルト、タンタと10匹の猫族?です。」
ハイドが丁寧な?紹介を済ませ、今度は俺達に向かって二人を紹介してくれた。
「こちらの方が、バーニーさんの従兄弟になるコシール・ケイト・アルバ様。ハイファーの街の統括たる領主様の御曹司様だ。で、この強面の髭の戦士がサケガスキーさん。Cランク冒険者の見た目通りのパワー戦士だ。」
(なるほど。青年の方が立場が上だったか。)
俺は無言で頷き、二人に会釈する。
「コシール様、こいつは口が聞けないんで、こんな態度でも許してやってほしい。」
「いや、街を救った英雄様だろ?全然、いいよ。むしろこっちが頭を下げてお礼を言わなきゃね。それと、ハイド君。僕のことを様つけで呼ばないでほしいなぁ。」
なんか、親しみやすい感じで接してくる領主の息子さんは、しかし、がっしりと俺の手を取り、握手をしてきた。
「いや、そんな失礼なことは、、、」
「そうですぜ。昔、少し仲間だったとはいえ、今は立場ってもんがありますぜ。」
「ここは戦場だけど、私達は軍ではないよ。ここでの立場なんて、魔獣の前では役に立たないと思うよ。」
バーニーさんは、いつのまにかこちらの援護射撃をしてくれている。
うぅっと沈黙するサケガスキーの代わりに、ハイドが言葉を繋ぐ。
「でもですね。こんな危険な場所に出向いてくるなんて、貴方様に何かあったら街も冒険者ギルドの存続も危ぶまれるのでは?」
ハイドのその発言は、この御曹司のことを心配しているのではなく街や冒険者ギルドを心配しているように聞こえた。
「ハイド君も言葉選びは、慎重にね。その発言はもっともな心配かも知れないけど、コシールを軽視してない?」
(ほら、バーニーさんに指摘されてんじゃねーか。)
「あれ?そんな意味じゃぁ、、、あれぇ?」
「いや、いいよ。勝手にここまで来た僕が悪いんだから。それに、あんな妖狐の集団をみてしまったら、ここに居ようが街に居ようがあんまり意味ないと思ったよ。」
(それは、もっともな感想だな。)
「そう。色々と想定外のことがありまして。」
「だろうね。こちらの砦から見ていたけど、罠となる砦に妖狐の大群が集中した途端、砦ごと地中に吸い込まれたように見えたけど?」
「大体、合っています。ただの落とし穴なんですけどね。」
「ただのって、、、そんな規模じゃないと思うけど、、、」
ハイリンのツッコミには、ただただ、みなが頷くだけとなった。
「魔獣の王との戦いの詳細は後で聞くとして、このあとも妖狐は襲ってくる?残存の個体はどのくらい?」
バーニーさんの心配は当然だろう。
「えーとですね。ほぼ全滅させたので、生き残っているのは5000から多くても10000匹だとの予想だそうです。」
「そ、そう、、、いや、生き残りも多いね。だけど、リーダーが居ない魔獣なら最早脅威ではないかな。」
バーニーさんに続いてコシールさんが確認の念を押してくる。
「スタンピードは回避できた、ということでいいのかな?」
ハイド以下、俺達はその言葉に頷いた。
「うんうん。一安心だね。さぁこっちの砦内で詳しく聞かせてくれるかな?残った妖狐への対策は、連れてきた冒険者達が担当しよう。」
バーニーさんはそう言って、カミィラさんに何やら指示を出したようだ。
そして、サケガスキーにも発破をかける。
「ほら、サケガスキーも行った行った。貴方のパワーの使い所だよ。」
「はぁ。わかりましたよ、ギルド長。では、コシール様、行ってまいりますぜ。ハイドの話は、いずれお聞きしますんで。」
「ええ、後でちゃんと貴方にも話すから、頑張って来てください。」
屈強なその戦士は、意気消沈してしまったようで、トボトボとカミィラさんと妖狐討伐に向かった。
「一応、彼はコシールの護衛なんだけどね。こんなとこに居ても仕方がないからね。」
バーニーさんは、そう事情を説明してくれた。
『エルト。』
『はい、何でしょう?』
『その二匹に確認して欲しいんだが、生き残っている妖狐達は全て討伐してもいいのかどうか?暴走していた時だったとはいえ、その二匹の仲間なわけだし。』
『えーと、ちょっと待ってください。』
エルトが二匹を撫でながら思念を送っているようだ。
二匹は、そのつぶらな目を輝かせながら、時折「くぅーん」と鼻を鳴らしている。
(こいつら、犬っころみたいだなぁ。猫たちと上手くやってくれるんだろうか、、、)
『師匠。確認しました。残っている妖狐は、子供でもなんでもなく尾についた石が勝手に魔力で増やした分身みたいなものだそうで、尾が切れたときにその妖狐達との繋がりも切れたそうです。ですので、問題ないそうです。むしろ汚点なので消し去って欲しい、との事です。』
『そ、そうか。余計な心配だったか。それにしても、その二匹、えらく知能が高そうだなぁ。』
『はい!いい仔達みたいですね。』
俺とエルトが無言で妖狐二匹を囲んで居た時、バーニーさんがふいに険しい顔つきでハイドを呼んだ。
「ところで、ハイド君。」
「は、はい。」
「そこの妖狐?二匹は大丈夫なのかな?」
「あぁ、この二匹は大丈夫です。人間に危害を加えるようなことはしませんよ。こいつらのことも後で話しますんで。」
「そう、ならいいけど。まぁとにもかくにも、君たちには感謝しなきゃね。砦内で詳細を聞かせてくれるかな?」
「はい、それは勿論。」
俺達は、砦内に入り、ここに詰めていた冒険者のものであろういくつかのテントが張られている場所に案内された。
いつの間にか雨もやみ冒険者のほとんどが出払っているからか、静寂な雰囲気だけが流れている。
「バーニーさん、妖狐との戦いを報告しますが、ウチのパーティー全員の同席でも構いませんか?」
「そりゃ、いいけど、その必要性を聞いてもいい?」
「情報共有です。俺達の仲間が他に気がついたこともあるかも知れないので。」
「うん。そうだね。その意見には同意するよ。」
と、コシールさん。
「では、こちらの大きめの天幕にしようかな。しかし、全員ってその妖狐も?猫も?」
「すいません。いつの間にか大所帯になってしまって、、、こいつらは人間の言葉は喋れませんが、エルトとタンタが意思疎通できるので大人しくさせておきます。」
「ホンットに君たちは不思議なパーティーだね。」
(バーニーさんは呆れているが、まぁ異常事態に対するにはこちらも通常でないと対処できなかっただろうしな。)
「まぁ、この異常な妖狐増殖に対応するには、こうでもしないとですね、、、」
ハイドも俺と似たような考えをバーニーさんに伝えた。
「いや、いいよ。わかったから。それで何から話をしようか?私からの質問は後にして先ずは顛末を聞こうかな。いい?コシール?」
「僕は、見聞きした事柄を父上に報告するだけですから。バーニー姉さんのお好きなように。」
俺達は、大きめの天幕内に入った。
そこには簡易的な机と椅子が数脚、机の上に地図が置いてあった。
魔術のライトが灯されたトーチの明かりが、その場の全員を照らす。
コシールさん、バーニーさんが椅子に座る。
そんな中、ハイドの報告が始まる。
「先ずは、指摘されたように嘘の作戦を伝えたこと。申し訳ありません。お詫び致します。」
「いや、いいよ。私達の事も守るための判断だったんじゃないのかな?理由も聞かせてほしいけどね。」
「まぁ、ハイドも座りなよ。後ろの皆さんには申し訳ないけどね。あ、自由に楽にしてくれていいから。」
ハイドがバーニーさんたちの対面に座り、話を切り出す。
「じゃぁまず、先に今回のことを説明しますね。バーニーさんに伝えたのは、俺達が森を抜けて奴らの本陣の不意を突き、切り込む作戦だったんですが、妖狐の数が予想以上に多いと判断しました。それで作戦を変更したんです。それがあの砦を餌にした罠、大規模な落とし穴だったんです。」
ハイドは、おおまかな顛末をバーニーさん達に伝えた。
バーニーさんは、報告書を作るためか必死にメモを取っている。
「ふーむ、リーダークラスが500匹以上、それにボスが二匹いたのね、、、しかも20万を超える妖狐の群れ、、、君たち良く生きてるね。」
(それ、二度目だ、、、)




