鎧、黒くなる
『なぁ。ビルさんよ。』
『なんだい?ハイドさんよ。』
『あんたがその鎧に封じ込まれたってのはわかったが、エルトちゃんとどこで知り合ったんだ?』
『あぁ、気になるか。エルト、村のことを話してもいいか?』
『ええ。大丈夫ですよ。皆さんになら。』
『エルトの許可も出たし、少しだけ話してやろう。俺がファントムとか言う盗賊団を退治したのは、言ったよな。退治する前にそいつらのアジトに囚われてきたのがエルト達だったんだが、、、』
俺は、盗賊を退治したあとのこと、エルフの村に立ち寄ったこと、エルトを連れ出す事情も三人に聞かせてやった。
『ええ!エルトちゃん、さん、魔術使えなかったんですか!』
『ハイリン。どうでもいいが、ちゃんなのかさんなのか、どっちか言い方決めないか?なんなら、”エルト”でもいいと思うが。』
『そうですよ。ハイリン?』
『え?いや、えと、はい。エルト。これでいいのかなぁ、、、』
二人でなんだか照れ合っているが、まぁ仲が良いのはいいことだな。
『えと、つまりエルトは、魔術を使えるようになって、まだ5日しか経っていないんだ。』
『マジか。あんたら二人には、驚かされっぱなしだなぁ。』
『まぁ、俺もびっくりしているけどな。』
『そういや、状況が落ち着いてきたんで戦闘を振り返ってみたんだが、いくつか聞いていいか?』
『あぁ、妖狐の放つ水槍という魔術がなぜ俺にダメージがなかったとか?』
『そう、それ!』
『あの水槍は、おそらく地面からの水を利用して細長く成形し、周囲を魔力で囲んで飛ばす、というものなんだろう。』
『あぁ、あの数は尋常じゃぁなかったよな。』
『その水は、雨水だ。その雨水に俺がありったけの魔力を付与した。通常の湿地帯の水には、奴らの魔力がすでに流れ込んでいた可能性があったが、雨で貯まる水には魔力は無いはず。と思ってな。奴らが扱う前に先に俺が付与したってわけだ。もっとも、目的は、妖狐の持つ能力、魔力無効化を逆手に取れないか、ってのを考えていたんだがな。』
『んん?それで、ダメージがないのか?』
『そう。あの水槍の中身の水は、俺には何の効力もないってことだ。外側の魔力にしたって、この鎧に仕込まれていた魔術によって無効化されていた。』
『仕込まれていた?』
『魔力シールド、とでも言うのかな。魔術シールドではないが攻撃を受けた魔術の魔力部分のダメージを軽減するというものらしい。』
そう、さっき知ったがそういう魔術がこの鎧に付与されていたのだった。
少し、ややこしいが、この鎧に魔力だけを付与したのではなく、魔力をシールドとする魔術が付与されていた。
『例えば、火属性の魔術シールドだった場合、攻撃が火属性なら付与された魔力の大きさでもって無効化される。しかし、その火属性のシールドに水魔術の攻撃は全くシールドの意味がなく、もろにダメージをくらう。でもな、この鎧に付与された魔術、キキョウの術なんだろうが、魔力シールドの場合、どんな属性の魔術でも魔力部分だけを防いでくれるようでな。全くダメージなし、とはならないまでも非常に軽減してくれるようだ。しかも、今回、俺の魔力が宿った水だったから、ほぼ効果が無かった、という事になるな。』
そう、ガストの爺さんに塗ってもらった白い塗装がほとんど剥がれているがそれだけだった。
『なるほど?いや、わかったようなわからなかったような、、、ま、俺が無事だったのは、ビルの、えと、その鎧を装着したおかげってことだな。』
『そうだな。ダメージ無効なのは俺にだけだからな。』
『じゃ、僕達に来た水魔術は?なんか、それていったんですけど。』
『あぁ、それはもっと簡単な話だ。ハイリン、エルトの着けているローブ。俺が水火土空間の属性を付与していたからだな。ちゃんとローブに付与した水属性が反応して、属性シールドとなって弾かれたって感じかな。今回、水属性の魔獣だったから助かった、ということになる。これほどの効果が出るとは思っていなかったがな。』
『よし。じゃぁ。次の質問。切断した尻尾はどうした?くっついた石がどうのこうのと言っていただろう?』
『うん、とりあえず俺の次元収納内に保管している。これに関しては街に戻ってから調べようと思っていてな。これは、まだエルトにも話していない内容になるから、その調査後に話すわ。とりあえず、バーニーさんには内緒な。』
『すっごく気になるな。冒険の匂いがプンプンする。な?ハイリン。』
『そうですね。匂いはともかく、気にはなります。』
『話せば長くなるし、俺の推測が正しければ、この国全体に関わってくる内容だ。確証が得られるまで、そうそう言いふらすものでもないんでな。』
『ほぉう?その話にキキョウが出てくるんだな。』
『む!どうした?えらく鋭いじゃないか。』
『いや、ビルの話を聞いていると、そこかしこにキキョウが出てくるからな。その石ってのもキキョウ絡みなんじゃないかと思ってな。』
『キキョウがこれにどう関わっているのかまでは、わからない。ただ関係ないと言い切れない事象が多いんでな。関わっていると考えた方が自然なんだ。』
『兄さん。もう何を聞いても驚かないと思う位、色々と話が大きくなっていますね。』
『ははは、これだから冒険ってやめられねぇ。俺の好奇心が刺激されまくりだわ。』
『あと、エルトがエルフだとか、俺の事とか、伏せておいて、、、』
『わかぁってるって。で、昨日の夜のことなんだがよ。俺の方から頼みたい。是非ともこのパーティーで旅してみたい。』
『そうか、そういう話だったな。いいのか。もう、後戻りはできないぞ。死ぬほどしんどい事になるかも知れない。』
『そんなもん、冒険者やっていくなら、元より覚悟の上だ。なぁ、ハイリン?』
『いや、死ぬのは嫌ですよ。だから、誰も失わないように頑張りましょう。』
この瞬間、俺は、俺達は、正式にハイドのパーティーの一員となったのだった。
『ところで、エルトは何してるんだ?』
俺の隣りにいたエルトが雨で濡れた俺を布でせっせと拭いていた、のだが?
『えと、最初は師匠が錆びるんじゃないかと思って雨を拭き取っていたのですけど、白い塗装がペリペリと剥がれるもので、いっそ残った白い塗装を全部剥がしてしまおうかと。ダメでしたか?』
『む。そうか。世話をかけるな。自分ではどうしようもできないから。ありがとう。』
『なんか白い騎士風で見栄えしていたのに、黒くなると地味だなぁ。』
『別に見栄えに拘ってた訳じゃないが、白くしてくれた鍛冶師には世話になったからなぁ。あぁ、そうだ。ハイラックのケインの店に代金を届けるというのが当初の俺の目的だったわ。』
『あぁ、そういう話だったな。ここでの依頼の精算が終わり次第、明日にでも出発するか?ハイラックへ。』
『そうだな。よろしく頼む。っと、前方から何人か近づいてくるぞ。』
『それは、バーニーさん達だろうな。』
(もう砦には近いからな。様子を見に来たのかも。)
「やぁ。その様子だと妖狐の王は討伐できたようね。ビルハインド殿が黒くなっている?みたいだけど、みな無事で何よりね。」
やはり、バーニーさんとカミィラさん達だった。
他に冒険者だと思うが、見知らぬ戦士が二人ほど付いて来ている。
その内の一人がなんかよくわからんが殺気を放っている。
「はん、あんたがビルハインドって輩かい?さぞ気持ち良かろう。魔術かなんか知らんが功績をあんな罠で独り占めだもんな。」
「ちょ、いきなり、なんなんだよ。」
ハイドが諌めるが、効果は皆無のようだ。
(あぁ、なるほど。自分が活躍できなかったから、嫉妬している奴か?)
「おやおや。これは失礼。相変わらず礼儀知らずな奴だよね。だけど、否定はできないんじゃない?ビルハインド殿?」
(む?バーニーさんまで?)
「ちょ、それは無いですよ、バーニーさん。」
「ハイドは黙ってな。これは、冒険者たる者の矜持ってやつだ。あんた、バーニーさんに嘘の計画を話した上で、手柄を独り占めしたんだ。違うか?」
挨拶も名乗りもしない、俺につっかかってきた戦士。
大振りな戦斧を柄を無造作に肩へ担ぎ、不機嫌さを隠しもしない。
髭面に刻まれた無数の古い傷痕が、歴戦の戦士であることを物語っているが。
「ちょっと、サケガスキーさん、やめましょうよぅ。」
(なるほど、こいつはサケガスキーというのか。)
そのサケガスキーの後ろから抑えようとしているのは少し若い剣士風の青年。
その佇まいには、まだあどけなさが残る少年の面影があった。
「コシールさんは、悔しくないんですかい!」
(あれ?敬語?サケガスキーの方が凄みがあるし年配なのに、若い剣士にへりくだっている?)
「まぁまぁ、えと、悔しいとか悔しくないの話で無くないかなぁ?」
その青年剣士は、サケガスキーの前に立ちふさがり両手で気持ちを抑える仕草をしている。
「ぷふ!ふふ。あはは〜!」
突然、バーニーさんが笑い出した。
「いやぁ、すみません。もうダメ。笑いを堪えきれない。」
「お嬢様、悪ふざけもここまでですぞ。」




