鎧、話す
ドゥン!
「キュ〜」
尾を切られた妖狐二匹は、その場で倒れた。
『ハイリン!この妖狐に治癒魔術を!お願い!』
『え?え?う、うん。』
エルトの懇願にも似た頼みでハイリンが恐る恐る妖狐に近づき、治癒魔術をかける。
『ビルさん。これ、大丈夫だよね?いきなり起きて襲ってこないよね?』
『あぁ、心配は要らない。尾は切ったからな。暴走は止まったと思うぞ。しかし、ハイドの剣筋、早かったなぁ。衝撃音なんて初めて聞いたぜ?』
『あぁ、俺もびっくりした。この剣の特性って謎だったっけ?それのせいじゃないか?』
『その剣の力か。風属性の何かが発動したんじゃないかな?』
『師匠にもわからなかった力ですか?』
『ん、えと。俺は、火土水、空間とさっき使った氷属性魔術を扱えるようにはなったんだけどな。風だけは扱えないみたいでな。』
『いやいや、風を扱えないとは言うが、風以外をそんなに扱えるだけでも普通じゃないんだけど?』
『そうか?そんなに褒めるな、照れるじゃないか。』
『褒めてはないんだが、、、いや、褒めていることになるのか?』
ハイドの諦めにも似た呆れたため息に皆、緊張から解き放たれた。
『それにしてもやばかったな。エルトのお陰でなんとかなったけど。』
『そういえば、私の矢が通じたのはなぜです?』
『あぁ、簡単なことだ。奴ら、魔術を無効化することはできるが、俺の盾に付与した属性やエルトたちのローブに付与した属性は無効化されていない。いや、できないんだと思う。その理由なんだが、奴らの能力は、相手が魔術を発動するときの魔力に干渉して乱すことで、無効化していたからなんだと思う。』
『あぁなるほど。天樹の素材矢は、すでに成形されたものだから。』
『うーん、それもあるが、エルトが矢を射るときに自然と魔術を使っていたからだな。分散するだの、弱点に向かって制御するだのが魔術、魔力を使っていたんじゃないか?』
『えと。そう、、、なんですかね?』
魔力使用に自覚がなく、息をするように魔術を扱えるエルフ独特の能力なんだろうが、エルトは、先日までそれができなかったわけだし、その状況にまだ慣れていないんだろう。
俺は、今回の戦いを振り返りながら、切断された尾を次元収納に収めた。
(それにしても、尾についた石ってのは、なんだろうなぁ。)
『師匠!二匹とも意識を取り戻しました!え?でも?えーと、、、』
『ど、どうした?何か言ってきているのか?』
ハイリンは、妖狐が起きた時にすぐさま馬車の方に避難している。
『あのですね、この仔たちが私達に感謝と謝罪を言ってきているんですが、お詫びもしたいと、、、』
『へぇ〜?』
見れば、あの巨大な妖狐は、なんともう尻尾が生えていた。
ただし、短く可愛らしいチョンとした一本だけ。
そして、見上げるほど大きかった体躯が今は見る影もなく、通常の妖狐のサイズよりも小さくこぢんまりした姿になっていた。
(こんなに小さく、、、なんで?)
そして、妖狐二匹vs猫十匹のいがみ合いがエルトを中心に展開されているのは言うまでもない。
『なぁみんな。一旦、馬車に乗らないか?このままじゃ風邪引くぜぇ。』
足元の雨水もかなりの深さになってきていた。
俺は気にならないが、他のみんなは靴や装備内に水が入って気持ち悪がっている。
『そうだな。まだ雨は止まなさそうだし、馬車に幌を張ってと、、、全員、馬車へ。妖狐達には、そのままそこで待っていてくれと伝えてくれ。』
『は〜い。』
そして、全員が次元収納から取り出した乾いた布で濡れた身体を拭い、エルトが火と水の魔術で用意してくれた温かい湯で一息ついた頃、俺は話を切り出す。
『ハイド、ハイリン、そしてタンタ。もう見せてしまったが、昨日の夜に話していた俺の秘密がこれなんだ。』
俺は、兜を外す。
頭もなければ、顔もない。
鎧の中は、明かりのない洞窟のように暗く、およそ、生き物の気配など感じられない。
『これが鎧に封じ込まれた人魔族のビルハインドだ。』
『すげぇなぁ。インテリジェンスアーマーってことだろ?初めて見たぜ。』
(おや?引くと思ったんだが、、、)
『この鎧を創ったのは、伝説の鍛冶師キキョウらしい。』
『マジか。あぁそれで、ビルはキキョウにこだわっているのか。納得したわ。』
『なるほど。どおりで生き物の匂いがしなかったわけだ。』
『えと、ビルさん。封じ込まれた、と言いましたね。どういういきさつなのでしょうか?』
俺は、この鎧になる前後の状況を軽く説明した。
『途方もないものを創るんですね、そのキキョウという鍛冶師は。』
『まぁ伝説になるくらいだからな。』
みなが俺について、納得したところで、次はエルトの番だ。
『そして、これが本来の私の姿です。』
エルトが姿見の護符を外し、エルフの姿となった。
「な!」
「ええ!」
これには、ハイドもハイリンも驚いているようで、、、
(っていうか、俺の時より驚きが上でないか?いや、エルフというのに驚いているわけではないのか。エルトの美しさに、といったところか?)
「凄く、きれい、、、」
「絶世の美女が、こんな近くに居たとは!」
『うーん、エルトさぁ。なんか以前より美しさに磨きがかかったと言うか、少し雰囲気も違うようなんだが?』
そう、初めてエルフ姿のエルトを見たのは、エルフの村を出て少しした頃だった。
あれから、たった数日しか経っていないが、こんなにも変わるものなのだろうか?
「あぁ、エルト様ぁ〜やはり、お美しい、、、」
タンタなんか、その場で祈るような格好で手を合わせている。
「ありがとうございます。私も成長した、ということでしょうか?」
(少し違う気がするが、、、いや、違わないか?成長というか、進化してね〜か?)
(、、、ゔぅ、だんなぁ、、、その娘、ハイエルフ、、、なん、じゃ?、、、キュウ、、、)
(お?キョウカ?)
(、、、、、、)
(ハイエルフ?それを言いに出てきただけ?オイオイ、、、)
『エルト、、、エルフはエルフでもハイエルフになっているそうだぞ。』
『え?そうなん?マジかよ!』
『”そうだぞ”?、、、変な言い回し、、、』
『え?自覚は無いですが?』
『さすがは、エルト様ですぅ〜。』
三者三様に驚いているが、、、
(いや、四人か。本人が驚いてどうする。)
『あぁ何か、色々突っ込みたかったが、エルトちゃん、さん?を見て、全部どうでも良くなったわ。』
『ハイドは、相変わらずあっさりしてるな。あっさりしすぎな気もするが。』
『エルトちゃん、さん。こういうことだったんですね。昨日の夜に言ってた事って。』
エルトとハイリンが昨夜、どんな会話をしたのかは、まぁ置いといて、、、
『そろそろ限界だ。タンタ。悪いがライムとライミに言って、俺達を上に上げてくれないか?俺はもう魔力切れなんだ。』
馬車の外を見ると、もう馬のカユマの腹んとこまで水位が上がってきていた。
カユマは、身の危険を感じて、時折ヒヒン!と鳴いていたのだ。
「ああ!カユマ!ごめん。ライミ、ライム、頼む!」
『エルト。その水の中で泳いでいる二匹も馬車に乗せてやってくれ。』
『あ、はい。』
そうして、俺達は、再びスライムボールに包まれ、俺自身が作った落とし穴から無事に地上に脱出した。
妖狐二匹は、俺達に詫びをしたからついてくると言っているらしいが、ただ単にエルトから離れたくないだけな気がする。
そんな俺の憶測には関係なく、エルトによって布で軽く毛皮についた雨水を拭き取られて、すっかりエルトに懐いている二匹。
これまたエルトによって、クスカ、クサカと名付けられ、狭い馬車の上でエルトの周りをくるくる走り回って喜んでいる。
その姿からは、さっきまで異様な大妖狐だったとは、誰も思えないだろう。
とりあえず俺達は、土砂降りから小雨になっている天候の中、バーニーさん達が籠もるもう一つの砦の方へと向かっている。




