鎧、バレる
『エルト、ハイリン!無事か?』
『はい!師匠!大丈夫です!私達には妖狐からの攻撃のダメージはありません。』
『そうか。こっちも奴らの水の魔術によるダメージはない。なので、一旦合流する。』
「イタタ。ビル!痛てんだけど!あぅ!イタ!も、少しゆっくり、イタ、走れない、か?」
『すまん、ハイド。ちょっと辛抱してくれ。』
雨と奴らの尚も降り注ぐ水槍のせいで視界は悪いが、俺にはエルト達が視えている。
エルトも休むまもなく、矢を放ち続けてくれている。
そこまで少し距離はあるが、このまま走り続ける。
奴らは、追ってこない。
オスの方は、エルトからの矢を無効化している。
メスの方は、水の魔術をいまだ放ってきている。
奴の水槍は、俺やエルトたちを正確に捉えているが、俺には水の塊が当たっているような感じしかない。
エルト達に向かう水槍は、直前で逸れてあらぬ方向に飛んでいっている。
(俺に来ている水槍となんか状況が違う?あぁ、そうか。エルトとハイリンのローブに仕込んだ属性効果か。)
『こんなに効果があるなんて、、、』
エルトが攻撃された水魔術が逸れて無効になっているのに驚いているが、俺だってびっくりしている。
(俺へのダメージが無いのは、後で分析するとして次の手を考えないとな。)
『あ!師匠!』
エルトが俺に気が付き、ハイリンも気がついたのか手を振っている。
ちなみにタンタは、果敢にもエルトの前で腕を広げて、迫る水槍からエルトを身を挺して守っているようだ。
(ほう、タンタめ。やるじゃないか。)
ほぼ無意味な盾とはいえ、その勇気に俺は感心する。
そんな思いはともかく、俺は三人のもとにたどり着いた。
『ビルさん、一人?兄さんは?まさか、、、』
『いやいや、ハイリン、心配するな。俺は無事だ。いや、あんま無事とは言い難いが、、、痛ってぇ、、、』
『え?』
俺は、兜を外す。
当然ながら、そこにはハイドの顔が存在するわけで。
「え?じゃぁ、ビルさんは?」
皆、俺の中にハイドが居ることを飲み込めていない。
(ま、そりゃそうだよな。)
『説明は後だ。妖狐のボス二匹がこっちにくるぞ。』
妖狐達は、水槍魔術だと効果がないと判断したのか、魔術による攻撃が止まった。
しかし、悠然と二匹はこちらに歩み寄ってきている。
『ハイリン。ハイドに治癒魔術を頼む。多分、肋骨が何本か折れてると思う。ハイド、辛かったろう。骨が折れてるのに走って悪かったな。』
『い、いや、痛いってもんじゃなかったが、あのままじゃ二人とも喰われてたかもだし、感謝してるぜ。』
『はいはい。兄さん、治癒をかけるんで、鎧を脱いでください。でも、ビルさんはどこに?』
俺は、ハイドを解放するためにバラバラになり、そして、また中身が空の鎧姿に戻る。
「ええ?」
(ハイリンとタンタが、むっちゃビックリしているな。さもありなん。)
『ハイリン。説明は後ね。』
エルトの言葉にハイリンが戸惑う。
ハイリンは、まだ状況が飲み込めていないだろうがハイドの方はなんとなく理解はしているようだ。
俺が臨戦態勢を整えている間に妖狐二匹は、すでに俺達を攻撃範囲内に捉えたようだ。
妖狐達は牙を剥き、相変わらずこちらを睨みつけている。
『師匠。いま、この仔たち、、、えと、妖狐を見て気が付きましたが、この仔たちの尻尾が二つに分かれていますよね。』
『うん。それが何だ?』
『私の村に伝わる昔話があって、二尾を持つ二匹の、水の守護獣のお話でした。その昔、村を守っていたとか。』
『なんと!』
(つまり、その昔はこいつらエルフのペットだった?有りうるな。しかし、だからといって戦いが終わるわけではない。)
『そして、この子たちから思念が届いています。』
『なに?えーと、そんなことが有りうる、、、のか?、、、いや、まぁ、で、何と言ってきているんだ?』
『この子たち、尻尾にある石のせいで苦しんでいるようです。』
『石?』
『はい、いつの間にか石が尻尾についていて、身体の自由を奪われて居るそうです。しかもその石が勝手に魔力で仲間を増やしたそうです。』
『そうか。だとすると、その石を外してやれば大人しくなるのか?しかし、身体の自由がないということは、そう簡単に外させてくれないと思うぞ。』
『そ、そうですよね、、、』
今更ながら、妖狐二匹の様子が少しおかしいことに、気がついた。
いつ襲ってきてもおかしくない位置にまで近づいているのに、じっとこちらを睨みつけているだけ、、、いや、精神内で抗っているのか?
よく見れば、二匹は睨みつけているのではなく、苦悶に満ちた表情で目で助けを請うているようにも感じられた。
しかし、、、俺にパッと浮かぶ案はない。
(何か方法は無いのか!考えろ!俺!)
土砂降りだった雨は、幾分ましにはなっているが降り続いている。
雨水は、かなりの量となっていて完全に俺達の動きを阻害するくらい足元に貯まっている。
(雨水、水か、、、はっ!そうだ!あの魔術なら、、、。キョウカ!後一回魔術を使えるか?)
(え〜もう残り魔力は、やばいけど。なにするのさ?)
(新しく使えるって言ってたアレだよ。)
(あぁ、アレで奴の動きを封じるのね?)
(理解が早くて助かる。そのとおりだ。)
(わかった。でも、一瞬しかもたないよ。)
(あぁ、一瞬でいいんだ。)
よし、策は練れた。
『ハイド。俺の魔術で奴らを足止めする。その一瞬の隙で尻尾を切り取れ。』
ハイリンのお陰で骨折が治っているだろうハイドに策を伝える。
『お?おぅ。』
『まずは、エルトの矢と俺が囮となって奴らを引き付ける。ハイドは、奴らに気づかれないように後ろに回り込むんだ。タンタとハイリンは、防御に徹してくれ。』
『いっぱい聞きたいことが有るけど、まずは奴らに集中だな。尻尾を切るんだな。』
しばらく静止していた二匹の妖狐に不穏な雰囲気が漂い始めた。
「キュギャーォー!」
オスの奇妙な咆哮が戦闘再開の合図となった。
どうも、奴らのオスは魔術を使わないのか、使えないのか、薙ぎ手や牙の攻撃によるものだけだった。
逆にメスの方は魔術を積極的に使っていたが、絶対そうとも限らない。
俺は、オスの方に向かって構え、慎重に間合いをとった。
『エルトは、さっきと同じ様にメスの方に矢を放ってくれ。』
『はい、いきます。』
オスの方に向かって駆け出した俺に、容赦のない薙ぎ手がくる。
しかも素早い連続攻撃で。
バシーン!バシーン!と、その攻撃をなんとか盾でいなす。
通常なら、ハイドの様にぶっ飛ばされかねない力が盾を通して感じられる。
が、事前に作っておいた空間属性付与の天樹の板を幾枚も使用しているお陰で、攻撃の威力を弱めている。
(そういえば、魔術付与したアイテムの魔術は、無効化されないんだな。これは、、、魔術が発動するときの魔力の流れを乱している?ということなのか?ならば、やりようはいくらでもある!)
『エルト!矢は天樹の枝から成形したものを使え!そして、矢を分散させずに制御もしなくていい!獣を狩る普通の攻撃に切り替えろ!』
『あ、はい!』
エルトが少し慌てているが、あの娘のことだ、俺の意図は通じていると思う。
『いきます!』
その言葉とともに、エルトの矢が一本、メスに迫る!
メスがその矢を凝視するも、矢の速度は衰えずそのままメスの胴に吸い込まれる。
「キャン!」
『やった。通じた!』
しかし、メスに刺さった矢は直ぐに、その場に落ちる。
威力が足りないのか、意外と妖狐の皮膚が硬いのか。
それでも、この矢のお陰でメスがエルトに対し慎重になっているのがわかる。
『よし、エルト。その調子でメスの方を引き付けてくれ。』
俺は、ハイドのように素早く攻撃を避けることができないので、今もオスの薙ぎ手を盾で受け続けている。
疲れを、痛みを感じない鎧姿だからこそ耐えているが、、、耐えながらも魔術を練り上げる。
『ハイド。メスの方の尻尾を頼むぞ。一瞬だからぬかるなよ。』
『おう、任せろや!』
すでにハイドは、二匹の後方に位置どっている。
この雨が、雨音が、ハイドが移動したことを感じさせなかったようだ。
『よし!いくぞ!氷結!』
そう、妖狐の足元への氷魔術。
文字通り足止めだ。
奴らの動きを一瞬でも止めるには、これしか無かった。
が、魔力が不足しているため、メスの足元だけへの氷魔術だ。
メスの方は、エルトからの矢に意識しすぎて俺の魔術に気が付かず、オスの方は攻撃を受けてばかりの俺が魔術を使うなんて思っても見なかったのだろう。
なんとか妖狐の魔術無効化をすり抜け、氷魔術の発動に成功した。
そのメスの動きが一瞬固まる。
(かかった!)
が、すぐに馬鹿力で足元の凍った部分が砕かれる。
しかし、その瞬間をハイドは逃さない。
スパーン!
その衝撃音とともにハイドの剣がメスの尾を付け根から切り伏せた。
「キュー!、、、」
メスの悲鳴にも似た声で、オスが後方のメスを振り返る。
『隙あり!』
その一瞬の隙をつき、俺はオスの尾にめがけて、土魔術を付与した天樹の板を投げた。
投げた板は、回転しながら刃として、見事にオスの尾を切断した。
「ギャ!」




