鎧、死闘となる
『まずいぞ、ハイド。この雨で、妖狐の方が有利に、そして俺達には不利になる。』
そう、水で足元をすくわれて、いざ戦いの時に行動に制限がかかってしまう。
(奴ら、雨が降ることを予測して、攻めてくるのを朝にしたのか?まさかな、、、)
しかし、それを考察している場合ではない。
俺の生体感知がギンギンに反応してくる。
『まずいぞって言われても、どうすることもできなくね?』
『タンタ、スライムボールの解除!ハイド、呑気なこと言ってないで戦闘準備だ!親玉が来るぞ!エルト、タンタ、ハイリンは馬車ごと、後方へ退避!』
俺は、慌てる。
それだけ、緊急事態となっている。
『は、はい!』
『にゃ!』
俺とハイドは、その場で臨戦態勢をとった。
雨のせいで水煙が立ち上る中、気配を隠そうともしない妖狐ボスの近づいてくる方向を凝視する。
まだ視界が悪いが俺には視えている。
親玉が近づいてくる気配も強くなる。
ドスンドスンと足音による地響きを感じることもできる、、、
『なぁ、ハイド。』
『な、なんだ?』
『一つ、謝らないといけないことが有る。』
『謝罪なんか、今はいいって。何が問題なんだ?』
『いやな。奴らのボスはものすごくデカいわ。想像以上に。』
500匹のリーダーが人間の三倍くらいの大きさだったから、それよりも大きいのは想像がつく。
しかし、、、奴らのボスは、俺の想定以上の大きさだった。
『以前、ワイバーンを倒せる、と言っていたよな。』
『あぁ言った。って、そのくらいの大きさなのかよ!』
『うーん、それよりも大きいかもな。』
『そうかよ。でもそいつは空を飛ばないだろ?なら心配ない。』
『お?おう。頼りになる発言なんだが、もう一つ、俺の想定を超えてたことがある。』
『何だよ、もう、さっさと言えって。』
段々と視界が晴れてきたが、まだうっすらとモヤが周囲を支配している。
そして、妖狐のボスらしき影が近づいてくるのが解る。
まだ少し距離が有るはずなのに、その影はとてつもなくでかい。
『な!』
ハイドが驚きの声を上げる。
その驚きは、ボスの大きさのせいであげた訳では無いだろう。
『ボスが二体!』
『あぁ、おそらくは、つがいなのだろう。』
(二体の大型妖狐。俺達二人だけで戦うには、荷が重すぎだろ!)
見上げるような大きさの妖狐二体はそれぞれが大きな二尾を持ち、その白銀の毛並みは、これが戦いの場でなければ思わず手触りを試したくなるような見事なものだ。
(いやいや、何を考えてるんだ。しかし、見事だ。)
二体は、こちらを睨みつけながら悠然と歩いてくる。
『他にリーダークラスの妖狐が居ないのが救いだが、、、多分、こいつらにも魔術は無効化されるだろうし、、、』
(いや、待てよ。こいつら、湿地帯の足元の水を利用していた可能性があったな。と、すれば、この足元にある雨で貯まった水は、湿地帯とは違う水、、、そうか、ならまだ対策できることがあるかも。)
俺は、すぐさま地面に貯まる雨水に魔力を流し込む。
『ハイド。雨で足元が悪くなっているが、この水を利用する。しばらく時間を稼いでくれ。エルトも援護射撃を頼む。』
少し後方からでも、エルトなら弓矢で的確に支援してくれるだろう。
『おぅ。二頭相手はきついができないことはない。ワイバーンの時に比べればな。』
『はい、援護します。』
『二人とも頼む。さて、俺は、、、』
落とし穴の底たる地面の雨水への魔力付与は、既に始めている。
しかし、時間がかかる。
なにせ、この広範囲の落とし穴全域だし、雨は今も降り続いている。
魔力消費がハンパない。
(ちょ、ちょっとちょっと、ダンナ!無茶だって!)
(やはり魔力が足りないか?完全じゃなくてもいい、ある程度の付与でもしておけば、奴らの魔力無効化を阻止できると思うんだ。頼む、残っている魔力のほとんどを使わせてくれ。)
(んもぅ〜!どうなっても知らないから〜。)
(すまん。)
俺は、魔力付与に集中する。
ハイドは、既に一体のボス、おそらくオスの方と戦っている。
二体の妖狐に雌雄のはっきりした差はないが、若干体躯の大きさに差があり、顔つきもオスの方が厳つい感じだ。
(これで雌雄逆だったら、やはり俺には男女の区別ができない、と烙印を押されかねないな。)
オスの熾烈な薙ぎ手は脅威だ。
あの爪にまともに切り裂かれでもしたら、俺のような鎧でも切り裂かれるような気がする。
さらに俊敏な動きに寄る噛みつきや体当たり、どれも油断はできない。
ハイドは、上手くそれらを回避しつつ、時折、剣で切りつけようと接近する。
が、妖狐オスもその動きを読んで、距離をとっている。
(やはり、一対一だと、ハイドの剣は生きるな。)
メスの方には、エルトが矢を射掛けているが、やはり魔力無効化のせいか矢には勢いがない。
しかし、エルトも負けてはいない。
一回の矢を射掛ける時に、二、三本、同時に番えているのだろう。
妖狐メスに向かう矢は、途中で30本ほどに別れ降り注ぐ。
しかも、なぜかあらぬ方向から、妖狐を取り囲む様な変な曲線を描いている。
一部、火矢も使っているようだし、全力で対応してくれているのが解る。
それでも決定打に欠けるが、時間稼ぎとしては申し分なかった。
(あのエルトの矢の猛攻で、時間稼ぎとしかならないとはな。地力は妖狐の方が上なのだろうか。いや、あの魔力無効化の能力のせいか。)
水への魔力付与で、俺の魔力が限界近くになったと思った時、、、
バシーン!ズシャー!
妖狐オスの薙ぎ手を受けたハイドが、俺の近くまで吹っ飛んできた。
『ハイド!だ、大丈夫か!』
『くっ、うっ、、、』
ハイドは、ショック状態なのか意識が飛んでいるようだった。
幸い、爪でなく妖狐の腕に当たったようだ。
(しかし、あの衝撃だ。骨の一本も折れているやも?)
俺がハイドをかばおうとした時、オスの方ではなくメスの方から魔力を感じた。
(やば、あいつ魔術を使ってくる!)
妖狐メスの周囲に無数の水玉が地面から浮かび上がり、水玉が細く長くなり一斉に俺達に向かってくる。
『水槍か!?』
俺は、ぶっ飛ばされて尚も動けないハイドに向かって、天樹の板に付与した水のシールドを数枚使用する。
そして、俺自身、、、鎧がバラバラとなり、そのままハイドへと装着状態となった。
少しでも水の魔術からのダメージを軽減しようと、咄嗟の判断だった。
妖狐の放った水槍のいくつかは、水の魔術シールドで防げたのだろう。
しかし、数が尋常じゃなかった。
数秒でシールドの意味が全くなくなり、その大きな魔力により霧散した。
(くそっ、奴の方が魔力が上ってことかよ!)
もうダメだ、防ぎきれない!と思い、俺は迫りくる水槍の衝撃が来ることを覚悟した。
が、しかし、妖狐の放った水槍は、俺に当たって多少の衝撃が有るものの、ダメージらしいダメージはほぼ無かった。
(どういうことなんだ?)
俺は、疑問に思いつつも、ハイドに声をかける。
『ハイド、しっかりしろ。意識をちゃんと持つんだ!』
「、、、え?お?何だこれは?っつぅ!あいたた、、、」
(ハイドの意識が戻ったのはいいが、俺との一体化で余計に混乱させちまったか?というか、やはりどこか骨が折れている?)
妖狐からは、なおも水槍や水刃が飛来してくる。
『ハイド、今、説明している暇はない。一旦、後方に下がって距離を取るぞ。少し痛いだろうが辛抱してくれ。』
「お、おぅ?」
(奴らに背を向けてしまうが、仕方がない。)
俺は、回れ右して後方へ、エルト達の方へと走る。
「ちょ!いってぇ〜!もうちょっと、ゆっくりぃ〜!」
痛がるハイドには、申し訳ないがハイリンに怪我を直してもらうためだ。
そんな俺&ハイドに相変わらず水の魔術が降り注ぐが、俺自身に、この鎧に何発かうけているがやはり大きなダメージはない。
(理由は、わからないけど、魔術によるダメージが無いなら警戒すべきは、妖狐のなぎ手や牙、噛みつき攻撃だけだな、、、いや、水の魔術が無効なのは、俺に対するものだけかも知れないから、過信は禁物だな。)




