鎧、罠を発動する
『来たな。もっと暗いうちに来るのかと思ったんだが、やつら、夜行性では無かったのか、、、』
『だが、こちらも明るくなってからの方が戦いやすい。何かしら仕掛けてくるかも知れんが、こちらも準備万端だ。』
『まぁ俺は、よく眠れたから調子はいいが、ビルよ。あんた寝てないけど、大丈夫か?』
俺とハイドは、土壁のタレットから西の方角に大軍として現れた妖狐の軍勢を睨みつけている。
『あぁ、問題ないさ。』
『そうか?で、奴らの数は?』
『ん?ん〜わからん。わからんが、10万は超えているな。』
(さすがに俺の生体感知でも追いきれないか。)
『ほんとにビルの言う通りになったな。昨日の2000匹が可愛く思えてきたぜ。』
『奴らにしたら、俺達の想定以上の数で攻めたてて圧倒したかったんだろう。』
『いやぁ10000匹でもビルが居なかったら終わってた気がするけどな。』
『ハイド。こう言っちゃなんだが、俺達、出会えて運が良かったな。』
『違いない。自慢じゃないが俺のここぞという時の強運ってやつだ。』
『その強運で、全員無事で帰還しような。』
『おう。』
(さて、ハイドの運はともかく、俺の罠は奴らの想定内か、外か。こればっかりは、やりあってみないとわからんからな。)
俺とハイドは、土壁から砦内に降り、ハイリンやエルトの居る砦の中央に向かった。
『皆、準備はいいか?』
『あ、ビルさん。この杖をどうぞ。』
ハイリンが黄色の宝珠のついた杖、ハイリンの杖を俺に手渡してくれた。
『おっとそうだった。ハイリン、少し借りる。エルト、ハイリンに代わりの杖、、、そうそうビルハインドの杖を。』
『はい。どうぞ、ハイリン。』
エルトから杖を受け取ったハイリンも緊張しているようだ。
(そういえば、昨晩、二人はどんな話をしたのだろうか?ハイリンの猫嫌いは解消されたようだが、この戦いが終わったら聞いてみるか?野暮かな?)
そんな、今、気にしても仕方ないことを考えつつ、俺は気合を入れる。
『さて、始めようか。先ず、フェーズ1!攻めてきている妖狐の群れのど真ん中に火壁と溶岩魔術を5発!』
土壁の向こう側に、黒煙が五つ立ち上るのが見える。
「おお〜!」
ハイドが感嘆の声を上げるが、こんなのは序の口だ。
『2500匹くらいは始末したが、奴ら、こちらの力を過小評価してくれたかな?奴らの進軍速度に変化はない、か。』
『完全に舐めてきてるな。一瞬で2500匹って凄いと思うんだが。』
『よし、次。フェーズ2。生体感知の範囲を限界まで広げて、そして、その範囲の外側に火壁を発動!更にその火壁を徐々に狭めていくぞ。』
俺は、俺達のいる砦を含め、火壁で結界のように奴らを閉じ込め、そして。
『奴ら、びっくりしてるんじゃないか?外側から迫ってくる炎の壁なんて、、、』
『まぁ、これで少しでも混乱してくれたら成功だ。そして、さっきと同じ様に火壁と溶岩魔術を3発。』
(リーダークラスには効果が薄いだろうが、この火壁を操っているのが、この砦に居ると認識してもらう。)
『お?来たぞ!』
生体感知で奴らの全群の輪が小さくなってきているのが解る。
その群れの一部は、既に砦に取り付いている。
(俺の強化した土壁でも、崩されるのは時間の問題だろうな。)
『よし、奴ら全て、俺が昨日用意した罠の範囲に入った。フェーズ3だ!タンタ、ハイリン、タイミングを合わせてくれ。』
『はい!』
『にゃ!』
二人の元気のいい念話と、妖狐のリーダークラスの仕業だろう土壁の崩壊が同時となった。
妖狐の大軍が全方位から俺達を襲う。
その瞬間、俺は、この作戦の最初にして最後の罠を発動させた。
ゴゴゴッ!ボゴン!ゴバ〜!
地面が大きく割れ、瞬く間に崩れ、そして崩れた地面が妖狐を飲み込む。
俺達も砦も、何もかも。
そう、昨日のうちに仕掛けた罠、何のことはない。
ちょっと大きな落とし穴だ。
但し、広範囲で深く、しかも落ちた先に溶岩を発動させており、全てを消し炭に変える。
落とし穴の底からは、凄まじい黒煙と熱気が登ってくる。
『うひゃぁ〜見える範囲が全て落とし穴かぁ。』
『昨日、森から襲ってきた妖狐で唯一生き残っていたのは、500匹のリーダーだった。おそらく、あいつは溶岩を避けつつ火壁を突破してきたんだと思う。』
『そうか、溶岩から避けられないように落とし穴ってわけか。』
『そう、フェーズ2で火壁を突破することもできただろうが、俺達が中心に居るということが解るなら、逃げるより俺達を襲うことを優先するだろうと予想したんだ。その上での落とし穴だ。』
(この落とし穴に、ほぼ全ての妖狐が飲み込まれたはずだ。つまり、奴らの大群は失われ、優位性の一つを奪えたはず。とはいえ、まだ終わったわけではない。さて、、、)
『しっかし、スライムにこんな使い方があるとはな。』
ハイドは、ただただ感心しているが、俺は気が気でない。
『タンタ、ハイリン。大丈夫か。もう少しの間、頑張れるか?』
『あぁ、ライミ、ライム頼むぞ。ハイリン、どのくらい持つ?』
『僕は、まだ大丈夫だよ。』
『頑張れ、ライム、ライミ。』
俺達は、カユマの引く馬車に乗り込み、そこから俺達を馬車ごと包んでいる二匹のスライムにエールを送る。
はたから見れば、スライムボールとでも言ってもいいような状態だが、さすがに馬車ごと包むとスライムもかなり薄くなっている。
それでも二匹の大きなスライムは、俺達を包みながら浮遊魔術で浮いてくれている。
そのスライムの下には、下から登ってくる溶岩の熱をできるだけ遮断するため、天樹の板に火属性を付与したシールドを二枚使っている。
そもそもスライムには各属性への耐性が備わっている。
それでもスライムにダメージがあるため、ハイリンにヒールを掛け続けてもらっている。
スライムが力尽きてしまったら、俺達も下に落ちてしまうので、そこは必死で頑張ってもらう。
無茶な落とし穴の無茶な回避方法だが、俺達が囮になった甲斐があって落とし穴に落ちた妖狐は全滅。
バーニーさんたちもこの落とし穴の外で、俺達を見守ってくれているだろう。
そして、俺は妖狐の全滅を確認して、溶岩魔術を解除する。
『ふう。そし、タンタ。下まで降りようか。あ、まだスライムボールはそのままで。』
俺自身が浮遊魔術で馬車ごと浮かしてみようと思ったんだが、広範囲の溶岩魔術を短時間でも維持するだけで手一杯だった。
馬車の下に展開している火属性のシールドだって、なるだけ自分の魔力の消費を避けるためにあらかじめ作っておいて、それを使用したくらいだ。
『この落とし穴の底は、まだ空気が少ないからな。もう少し、スライムボール状態な。』
もう溶岩はないが地面は熱く、周辺は煙が充満していて、人間が息をするのも難しい状態となっている。
『なぁ、ビル。こんな状態でも奴らの王は生きてると思うか?』
『リーダークラスの奴らも始末できたと思うが、王は生きているな。ん?』
『お?上から水?いや、雨か?』
ポツリポツリと水滴がスライムボールの表面に落ちてくる。
っと、思ったら急激に土砂降りの雨に変わった。
『うわぁ。なんだ、この雨は?』
この雨のお陰で、落とし穴の地面は急激に冷めて空気も入れ替わった。
入れ替わったのはいいが、地面に水が溜まっていく。
(そりゃそうだ。雨水の行き場のない穴だから、、、って、いや、これは、まずい!)




