鎧、魔術を練る
そして俺一人、タレットに戻り西の方角を凝視する。
特に異常はない静かな夜だ。
半月よりも三日月に近い月が南空の中ほどに来た頃、、、
「ぴっ。ぴっ。ぴっ。ポーン。日付が変わりました。ダンナ!おめでとう!また、レベルが上ったよ。」
「何なんだ?その合図は?」
「いや、日付が変わったっていう合図じゃん。いや、そんなことより、沢山討伐したね。見てたよ。あと、あのボスを倒した時の上空からの加速付きの落下。怖かったわ。お腹がキュッとなったよ。」
「いや、お前、鎧だよな。怖いとか、お腹とか、、、あるのか?」
「あら、失礼しちゃう。私は高性能だからね。そんじょそこらのお腹じゃないのよ。」
「なんだよ、、、高性能のお腹って、、、」
「ともかく、無茶した甲斐もあってレベルアップだよ!あ、そうだ。あのボスを倒したときの空中でのシールドを発射台にしたのは、いいアイデアだったね。」
「生身の身体じゃないからできることだけどな。」
「ってか、魔術シールドいつの間に覚えたの?」
「あ〜あれな。前にエルフがフライトっていう飛翔魔術を使ってたろ?色々組み合わせて、なんとか似たようなことができないかずっと考えてたんだ。」
「ダンナもしつこいねぇ。」
「まだ、そこには至っていないけどな。それで、エルトたちのローブに各属性を付与した時の応用で、天樹の素材板二枚に火属性と空間感知を合わせて付与したんだ。」
「ふむふむ、双方を制御しつつ上手く利用しているね。もうそれは、空間支配(甲)だね。」
「甲?なんか変なネーミングだな。」
「空間属性の上級の最初の段階ね。」
「上の下といったところか。奥が深そうだな。」
「まぁ、火や水なんかの四大属性と違って、空間属性ってのは、目でわかりにくいし幅は広いし、次元収納にも大きく影響していて、、、しかも全容は解明されていない属性なの。」
「次元収納かぁ。これって重さや大きさを完全に無視しているよな。」
「時間もね。」
「ふーむ、だとして、、、なぁキョウカ、、、」
「ん?なんか閃いた?」
「あのボス妖狐が使っていた魔力効果の無効化だけど、やつが視認した時に無効化されていた。これを空間支配と組み合わせれば、魔力無効化空間っていうのができそうなんだけど?」
「なんか消臭剤みたいなネーミングだけど、できるかもね。」
「問題は、魔力無効化っていうのをどうやっているかだが、、、ダメだ。イメージできない。」
(まだ、その段階ではないのだろう。あんまり考え込んでも仕方がないか。こういう時は、切り替えが大事だしな。)
「おっと、そうだ。キョウカに確認したいことがあったんだ。」
「何かな?」
「次に奴らが攻めてきたら、この位の魔術を使うつもりなんだが、魔力量は大丈夫か?」
「ん?どんなの?」
俺は、次の戦闘に向けて、もう既にいくつかの罠を仕掛けたが、本番時に追加で魔術を使う。
その内容をキョウカにも伝えた。
「次の段階で、このくらいの魔術を使って、最終段階で多分接近戦になるだろうから、この位使うかも。」
「いや、この位っていう消費量じゃないけど、、、それにいつの間にそんな魔術を覚えたの?私の知らない魔術だし。」
「これは、俺のオリジナル土魔術だな。意外と難しいんだぜ。最初の砦罠を作る時に試したら、できたから最大限活用した。」
「オリジナルって、、、作ったんだ。びっくりだわ。」
シールド板を二枚使った発射台に続き、このオリジナル魔術でキョウカを驚かせることができた。
「なんかわからないけど、俺は、ちょっと満足したぞ。」
「なんかわからないけど、癪だわね。それはともかく、、、話を戻すわよ。まず、さっき日付が変わって、ダンナが消費した魔力は回復済ね。」
「それも、なんでなんだ?理屈がわからないんだが、、、日が変わったら魔力全回復って。」
「まぁその内、わかるんじゃない?で、あと、レベルも上がったからダンナの魔力容量も大幅アップしてるね。としても、さっきの計画だとギリだわね。」
「えぇ〜、そうなのか。やはり無茶が過ぎるのか?」
「まぁ無茶だけど。そこで、アドバイスを一つ。」
「ちょっと欲張りだったかな。アドバイス?何だ?」
「ハイリンの杖を借りましょう。」
「おお!なるほど。忘れてた。威力が倍になるやつな。」
「そう、杖の効果を上手く制御できれば、魔力の節約になるし、充分でしょ?」
「よし。これで万全か?あと、できることと言えば、、、」
「まだやるの?ダンナは、ホントに慎重だねぇ。」
「そりゃ、みなの命がかかっているんだ。後で後悔したくないからな。とりあえず、天樹の板で水の魔術シールドをいくつか作っとくか。」
「ダンナ、忙しい時になんなんだけど。」
「ん?なんだ?」
「レベルが上がったから、ダンナの扱う各属性の上級魔術の使用条件が揃っているんだけど。」
「なんと。いいタイミングじゃないか。」
「いや、でもね、さっき聞いた計画の魔術を使うと、上級魔術を使う余裕はないよ。」
「そうか、、、いや、知るだけでも、いざと言う時にだな、、、」
「はいはい、わかった。わかりました。最後まで言わなくても言いたいことはわかるよ。えっと、水属性の中級は、水刃、水槍ね。上級は、水爆。火属性の上級は、火炎弾。土属性の中級の一つ、土槍。そして上級は、大鉄塊。」
「おぉ〜。一晩で覚えられるかなぁ。」
「何いってんの。嬉しいくせに。んで、まだあるよ。次、組み合わせ魔術。」
「おぉ!」
「水属性と空間属性で、水壁。そしてそして、ダンナ喜んで。水と火のレベルがかなり上がったから、氷属性も使えるんじゃないかしら?」
「ほぉ〜すごいな。キョウカ先生、それら全てを教えていただけるので?」
「この妖狐討伐が終わったらね。」
「おぅ約束だぞ。」
「あと、昼間の戦いで不審な点があったのを伝えておくね。」
「おっと。急にマジだな。なんだ、不審な点?」
「私はいつもマジだけど?妖狐の方も魔力感知を使っている。これはダンナも気がついてるよね?」
「あぁ、なんとなくな。だから、森を通って奴らの群れに近づく作戦をやめたんだ。」
「正解だね。どういう方法を使っているのかわからないけど、妖狐達はダンナを狙っているの。」
「ほう。確かに、森と湖から、そして背後からの攻撃の中心に俺がいるが、、、俺を感知しているからこそ、正確に背後に回り込むという知恵を出してきた、と考えられるのか?」
「気をつけて。ただの魔物でもないし、ただの魔獣でもない。何か別の力が妖狐たちを動かしているのかも。」
「あぁ、ありがとうな。もはや魔物討伐でもなく戦争だな。よし、念には念を入れて、、、」
「まだ、やるの?」
「いや、罠というより、戦い方の検討かな。使える魔術も熟知しておきたいし。」
そんな感じで、俺とキョウカは空が白むまで、妖狐との戦いについて分析や案を出し合った。
そうして、湿地帯ならではの朝靄の中、やつらの群れに動きが見られた。




