鎧、怒られる
俺の短剣は、ボスの頭に刺さっている、、、そして倒れ伏しピクリとも動かない。
『仕留めたか?』
『師匠!大丈夫ですか!』
『おぉ、無事だぞ。』
『よ、よかったぁ〜。』
『心配させたか?こいつを倒すには、魔術では無理だと判断したんでな。』
『無茶もいい加減にしてください!もう!』
(怒られた、、、)
そのボス妖狐を相手にしていた冒険者さんも驚いている。
「いやぁこいつぁ大物だなぁ。」
「呑気に感心している場合か!ふっとばされた奴の救護が先だろう!」
「怪我をした人は?」
ハイリンが周辺の冒険者達に掛ける声が聞こえる。
『ビルさんも大丈夫ですか?』
『俺は、大丈夫だ。怪我はないぞ。』
『そ、そうなんですか?びっくりするような捨て身な攻撃だったと思うんですが、、、その鎧、頑丈なんですね、、、』
ハイリンは、半ば呆れているのか、口調は穏やかだ。
『びっくりどころの騒ぎではないですよ。はぁ〜ほんとにもう、、、見てて心臓が止まるかと思いましたぁ、、、』
(エルトとは、対照的だな。)
『エルト、すまん。ハイリン、俺のことは気にせず他の方を診てやってくれ。』
『は〜い。』
というわけで、ハイリンは怪我をした冒険者の治療をしている。
俺は、エルトとタンタと猫たち、馬車を地上に降ろしハイドとも合流した。
「はぁい。貴方がビルハインド殿ですね。」
そう声を掛けてきたのは、女剣士。
そう、俺の理想像のような人だ。
(だ、だれ?)
その女剣士に握手を求められ、鎧の手甲でいいのか迷っているうちに、彼女の方から俺の手をとり両手でブンブンと握手をしてきた。
「いやぁ、貴方の活躍をこの目で見れて光栄です!」
なおも両手で片手を掴まれ、上下に力強く握手してくる。
「ビル、こちらは、ハイファー冒険者ギルド長のバーニーさんとBランク冒険者のカミィラさんだ。」
「あ、バーニーさん。こいつシャイなんで、しゃべんないんっすよ〜。」
『んなわけあるかい。いや、喋れんケドも!』
「おっと失礼した。興奮のあまり、挨拶が遅れてしまったな。私は、バージニアストーク・ケイト・アルバと申します。長いから是非バーニーと呼んでください。」
「お嬢様、そんな簡単に気安くするのはいかがなものかと。おっと、これは失礼。私は、カミィラ・ベアラと申します。以後、お見知りおきを。」
カミィラという人は、バーニーさんのお目付け役なのかも知れないな。
バーニーさんとは対象的に普通の鎧と直剣を下げている。
年齢的に50歳以上なのだろうが、良く鍛えられた身体は鎧では隠されていない。
手入れの行き届いた髭を蓄えた、良く言えばマッチョなイケオジだ。
悪く言えば、カタい頑固親父的な感じだな。
こちらは、軽く握手を交わす。
「ビル、失礼のないようにな。バーニーさんは、こう見えてハイファーの領主家一族の方だ。つまり、貴族様だ。」
「ハイド君。その言い方がよっぽど失礼じゃない?こう見えてっとはどういう意味なんだい?んん?」
「あぁごめんなさい。つい口が滑ってしまって、、、」
「尚悪いわ!君のパーティーは昇格したくないのかな?」
「あぁいや、本当にすいません。心から尊敬していますとも!我が国一番の美人ギルド長のバーニー様!」
「相変わらず調子の良いやつだ。次はないからな。」
「はは!肝に命じます!」
(俺は、なにを見せられているのだろう?ハイドもハイドだが、なんだかノリの良いお姉さんだ。)
バーニーさんは、年の頃は20歳半ばくらいだろうか?
そう言えば、リーチェさんと姉妹になるのだろうが、似ていないな。
似てはいないが、また違った魅力を持ち合わせている女性剣士だった。
赤く長い髪を後ろで束ねていて、なぜか太陽光が反射してまばゆく揺れる。
冒険者の、しかも剣士の格好だからシャレっ気は無いが、気品というのか立ち居振る舞いは、どこか大きく堂々としたものだ。
それに身に着けている装備は、どれも素晴らしい物ばかりで、俺が目を引いたのは腰から下げている細剣と軽くて丈夫と言われているミスリル製の鎧だ。
そんな俺の視線を余所に、バーニーさんは俺達にビシッと言い放つ。
「と、そんな訳で、状況を説明してほしいんだけど?」
(あぁそうか、若くてもギルド長だな。冒険者の皆さんの命を預かっている身だ。状況把握は当然か。)
『ハイド、通訳を。』
『はいよ。』
「バーニーさん。今から説明しますが立ち話も何なので、、、」
俺は、次元収納からいつもの天幕と机を出した。
「ほぅ、これが次元収納なのね。話には聞いていたが、どういう仕組なんだろう、、、」
「ささ、この天幕の中で、これまでの出来事をお話しますよ。」
ハイドがバーニーさんを天幕内に案内する。
俺、エルトも中に入る。
(あぁそうだ。エルトも頑張ったんだから褒めてもらいたいなぁ。)
『ハイド。エルトも紹介してあげてくれ。』
「あぁそうだな。バーニーさん、この娘がエルトちゃんです。子供っぽく見えますけど、弓の実力は一流の冒険者です。今回もビルの次に活躍したんですよ。」
「いえ、そんな。それは言い過ぎでは、、、」
照れるエルト。
やはり、褒められ慣れていないのだろう。
恥ずかしがって、俺の後ろに隠れようするところを俺が肩を掴んで、バーニーさんの前に押し出す。
「ほぅ、君がギルドの訓練所で火矢を使った、、、」
「あ、すいません。使ってはいけないって知らなくて。」
「はっはっは!冗談だよ。君の名もリーチェから聞いているよ。ちょっと失礼するね。」
バーニーさんは、エルトのギルド証を手に取り、ウラを確認して目をパチくりしている。
「な、なるほど。すごいね、君も。」
(討伐数が1000を超えてたら、そりゃびっくりするか、、、)
「それでですね、バーニーさん。状況ですが、、、」
「あぁ、ちょっと待て。ここに地図が有るんだ。」
バーニーさんが机に地図を広げた。
「ここがハイファーの街。今、私達はここらへんにいる訳だ。」
エルトラン湖の東端に街のシンボルがある。
そこから一日程度歩いた所が現在の位置だ。
湖の西端に行くには、ここから7日程歩くらしい。
(エルトラン湖は随分と大きいな。)
「ここから、この西端までずーっと湿地帯で、奴らの縄張りとなる。で、この東端であるここで妖狐の大群が昨日今日と現れている。と、いうことでいいかな?」
「バーニーさん。奴らの大群の詳細と俺達が感じたことを伝えますね。」
「うん、頼む。」
「まず、今日は2500匹を相手にしました。」
「な、に、二千!?」
「えぇ。しかも500匹単位で組織だって行動していました。今までこんな事は無かったんですが、ビルが何かに気づき妖狐の中にリーダーがいて集団行動していると判断しました。」
「ほぅ?数の多い集団が組織だって行動している、だって?大した脅威でもない魔物でも組織的な行動を取ると、脅威度が何倍にもなる!」
「そうなんですよ。今日、最初に500匹が近づいてきました。俺達は、というかビルの罠とエルトちゃんで殲滅させました。でもこれは言わば、強行偵察だったようです。」
(ここから、ハイドには俺の念話で分析した内容を伝えてもらう。)
「縄張りに入った侵入者の排除か、力量を測ったんだと思われます。そして、すぐに目の前に500匹の集団二つが近づいてきました。」
そして、先の500匹と同じ様に土壁の罠やエルトの弓で対応したんだが、、、奴らは対策を立ててきた。
結果的にバーニーさん達に助けられたわけだが、何かこう俺的には悔しい思いが残る。
「、、、ということで、森からの陽動集団。湖からの奇襲と後方に回り込んだ別働隊群。合わせて2000匹を相手にしました。」
「、、、君たち、良く生きてるね、、、」
「これもバーニーさんが俺の要請に付き合ってくれたからですけどね。いやぁ助かりましたよ。ほんとに。」




