鎧、落ちる
『このボスさえ倒せば、残った奴らは引くはずだ。』
『おう!俺とビルのコンビネーションを見せてやろうぜ。』
ボスらしき個体がシャー!っと、一声吠えると妖狐達は、周りから一斉に飛びかかってきた。
『それ!樹火球100連プラス俺の火球連撃!』
「うぉりゃぁ〜!間合いに入ったやつから真っ二つだ!」
(しっかし、こりゃ多勢に無勢か!エルトの方も1000匹相手では、こちらを援護する余裕もないか。)
俺は、体を張ってハイドの背中を守る。
妖狐の爪や牙なんかでは、この鎧にキズを付けることはできても俺を倒すことはできない。
ガストに塗ってもらった白い塗装が剥がれて、元々の黒い色合いで出てきている程度だ。
しかし、ハイドは生身の人間。
すでに何か所か怪我を負ってしまっている。
毒状態にならないだけマシなんだろうが、さすがに数が多い。
(結構な数を倒したんだが、それでも半数ほどか。)
ハイドが息をのみ気合を入れ直すが、まだ200匹に囲まれてしまっている。
『ハイド、俺達も壁の上に撤退するぞ。』
『はぁはぁ、、、おぅ、、、』
俺は、浮遊魔術でハイドを撤退させようとしたが、なぜか魔術が発動しなかった。
『え!なに?なんで?』
シャーシャーと例のボスが笑っているような雄叫びを上げる。
(ちっ!こいつのせいか?)
俺が万事休すと思った時、多数の矢と火球が奴らの後方から降ってきた。
『なんだぁ?いや、まずはチャンスか!ハイド!動けるか!』
『おぅ!まだまだぁ〜!』
ボスの意識が後方に逸れたそのスキに俺達は、ボスに向かって走り出す。
(俺達の急接近に気がついたようだが、もう遅い。)
バシーン!!
ボスのなぎ手を俺が受け、俺の後ろについてきたハイドがボスの懐に潜り込んだ。
「お〜りゃぁ〜!」
ハイドの下からの一閃。
ズバン!とボスの首を落とした。
『お見事!』
そして、また後方から矢がいっせいに飛んできて、残った妖狐に降り注ぐ。
俺は、生体感知でなんとなく状況がわかった。
ハイドは、ニヤリとしている。
「やっと追いついてきてくれたか。」
(なるほど、他の冒険者の皆さんか。)
50人ほどの冒険者がその姿を見せてくれた。
「すまん。ハイド、遅くなってしまったな。」
「いやぁ、バーニーさん。助かりました。命拾いしましたよ。」
そんなやり取りをしている間に残った妖狐は、一匹残らず討伐された。
『師匠!大丈夫ですか!』
『心配ない。こっちは片付いた。そっちは?』
生体感知で、エルトが一人担当していた1000匹の生き残りの動きは解るが、様子が気になった。
『はい、妖狐達は撤退を始めました。』
『そうか。なら、しばらくは攻撃してこないと思う。おつかれさん。』
生体感知で生き残った妖狐が西へと移動していることがわかった。
(ボスを倒したんだ。もうただの魔獣だろう、、、)
『ビル。他の冒険者パーティーに挨拶ついでに感謝を伝えてくるわ。』
『おぅ。俺は、エルトの所から状況を確認してくる。』
『ん?まだ、何かあるのか?』
『そうだな。少し気になることがある。まだ、一応の警戒はしておいてくれ。』
(そうは言っても、これだけ冒険者が居れば大丈夫かな?)
『エルト、ハイリン。妖狐が付近に潜んでいないか確認できるか?』
『はい、もう居ないと思います。』
『よし、ハイリン、下の降ろすからハイドの治療を頼む。』
『うん、わかった。』
ハイリンを壁から降ろし、代わりに俺がタレットに立つ。
エルトと壁の上から西方向へ視線を伸ばす。
『なんとか持ちこたえたな、この土壁、、、』
『私の弓だけでは、防ぎきれなかったかも知れません。この壁のこちら側にどんな細工をしてたんですか?』
『はっはっは、たいした細工はしていない。この壁に触れると溶岩が射出する罠を100箇所ほど作っておいただけだ。』
『なるほど、だからですか。この壁の近くは、燃えた妖狐の死骸ばかり、、、』
『それはともかく、逃げた妖狐はどのくらいだろうな?』
『半数以上は、私の弓と壁で撃退したと思いますが。』
『そうだ。冒険者カードを確認してみよう。』
冒険者カードの裏には、討伐数が昨日との合算で表示されている。
エルトが1140、俺が1660。
ハイドが150〜200くらいだろうな。
『200〜300が逃げたか。』
今日、最初にエルトの弓、壁で始末した数が500匹。
先程の前面から来た1000匹に、森からの500匹と湖から100匹、後方まで回り込んできた400匹を合わせて、2500匹の大群だったわけだ。
(もう、大軍といってもいいよな。よし、下に戻ろうかな。)
と、思った時、下から騒ぎ声が聞こえた。
「妖狐だ!生き残りが居たぞ!」
「でけ〜!」
『なんだと?生き残り?しかも、でかいだと?』
俺の生体感知は、魔物や獣などと人間の区別がつかない。
てっきり、冒険者の反応かと思っていたが、妖狐が生き残っていたようだ。
『あ、師匠!あそこです!』
エルトの指差す方向は、森の方角。
俺が500匹を火壁で閉じ込め、溶岩射出で燃やした方角、、、
(あっちにもボスが居たのか。)
『弓を射掛けますか?』
『ちょっと、待て。なんだか様子が変だぞ。』
通常の妖狐よりもかなり大きな個体は、ボスで間違いないだろう。
そのボスの身体、白銀の体毛には、あちこち焼け焦げた跡がある。
それが溶岩に寄るものか、火壁を突破した時にできたのかはわからないが、悠然と冒険者相手に歩み寄ってくる。
冒険者達は応戦しようとしているが、矢は外れ魔術は発動していない。
『ん?さっきのボスの時もそうだったが、やつは相手の魔術を発動させないようなことができるのか、、、もしくは、やつの周囲が魔術を打ち消す空間になっているのか、、、』
そんな悠長に観察している場合ではないのは解るが、少しでもその仕組を知っておかないと、剣士のみで対処するには危険すぎる魔物だ。
なんとか、弱点はないかと様子を見ている間にも、何人かの冒険者がぶっとばされている。
『仕方がない。賭けに出てみるか。エルト、合図をしたら風の精霊さんの矢ではなく天樹素材の矢の方を力いっぱい放ってくれ。』
『はい!』
俺は、気づかれないように浮遊魔術で奴の後方から真上に移動する。
昨日、街で購入した短剣を取り出し、準備OKだ。
ボスは、隊列を組み直した冒険者達に対し、手でないだり牙で噛みつこうとしたり、忙しなく動きまわる。
(あまり、知能が高いようには見えないが、、、)
訝しげに思う俺はその考察を後回しにして、攻撃するタイミングを合わせるため、集中する。
『エルト!今だ!』
シュン!っと、土壁上部から放たれた矢は、まっすぐボスの額を狙う。
が、ボスが矢に気がついたのか視線をそちらに向けた時、矢は威力を失い、そして速度が格段に落ちてボスまで届かずに地面に刺さる。
(やはり、奴の目に魔力無効の力があるようだな。となれば、、、)
間を開けずに俺は、浮遊状態で逆さまになり、足元に火属性と空間属性を付与した天樹素材の板を次元収納から二枚出す。
その間に樹火球を数枚挟み込み、下側の板に足をつけ、逆さ状態で短剣を妖狐のボスに狙いを定めながら、樹火球を発動させた。
天樹の板の間で爆発する樹火球の威力が、瞬時に俺の足に伝わり俺自身がボスに向かって一直線に落ちる。
ボスも樹火球の音に気づき、こちらに視線を向け俺を視認したようだが、、、
ズドン!
『ふう、結構怖かったな、、、』
いくら痛みを感じないといっても、怖いもんは怖い。
あの高さからの落下だけじゃなく、属性付与した板によって樹火球爆発の威力をプラスしたスピードアップだ。
それにより、単純に魔術ではない超スピードの体当たり的な物理攻撃となったわけだが、はてさて。




