鎧、ピンチになる
他のメンバーはどこに居るのかと言うと、タンタの馬車の荷台で軽食を摂っているようだった。
足元を見ると、湿地帯というだけあって、ぬかるんだ地面だ。
(自然の泥化か。これは少し動きにくいし、座るわけにもいかんしな。)
いざ、戦いが接近戦になったときのことを考えると、対策が必要なようだ。
俺は、皆のいる馬車に向かう。
『なぁ、ハイド?』
『お、ビルか。お前も食うか?エルトちゃんが作ったホットドッグ、、、いやこの場合、ホットフォックスになるのかな。わはは。』
『それにしても、あのパサついた肉がこんなに美味しくなるなんて。エルトちゃん、何をしたの?』
『いえ、このお肉は脂身が少ないので、火で炙った後スライスにして、薬味をまぶしただけで、特別何かをしたということはないですよ。』
『その薬味が秘訣なのかな。』
(そのパンに挟んでいるのは、妖狐の肉なんだ、、、)
俺は、呆れつつ気になった事をハイドに聞いてみた。
『いや、遠慮しておく。それよりも、聞きたいことが有る。』
『あんた、本当に繊細なんだな。で、なんだ?』
『妖狐についてなんだが、昨日の約1000匹。先程約500匹を討伐したよな。こいつら、500匹単位の群れで行動するのか?』
『そういや、妙だな?以前は、こんなにも多くなかったし、群れといっても20匹前後。多くても50匹くらいだったかな。』
『そうか、先ほどの500匹もスタンピードなのだろうが、もっと集団として数にばらつきがあってもいい気がするんだ。何かこう、上手く言えないが、違和感があってな。』
『うーん、知能が低いなりに、500匹の中にリーダーが居るんだろうか?ネズミやうさぎのように数だけが多い狩られる側ではなく、例えば狼のような狩る側の魔物だ。リーダーが居ても不思議じゃねぇ。』
『それでも、だ。500匹単位とは、数が多い。』
『そうだな。知能の高い奴が居るのかもな。』
『その知能の高さによっては、戦い方が変わるし、こちらも相手の作る罠に注意しなきゃならん。』
ここで俺は、少し考えて提案した。
『この先に進むより、ここで待ち伏せして様子を見ないか?』
『ふむ、そこら辺を少し見極めてからの方が安全かもな。』
(ここはもう奴らの縄張り。この待ち伏せも罠であるという可能性はないか?)
俺は慎重に情報を精査する。
(罠だったら、これ以上は踏み込まない方が、、、いやむしろ後退しとくべきか?しかし、それだと調査が、、、)
と、そこで俺の生体感知に反応があった。
『みんな!臨戦態勢だ!西の方から、また、妖狐の群れが近づいてきているぞ!』
俺は、警告を発する。
『なに?数は!』
『ちょっと待ってくれ。すぐに結果が出る。』
『ええい、みんな、先に準備だ!』
俺は、生体感知の感度を上げながら、大慌てで通り道としていた土壁の通路を塞ぐ。
(少し、様子がおかしい?)
西から来る群れは、、、1000匹程。
ただし、今度は、左右二手に500匹づつ綺麗に別れている。
(まるで軍隊の隊列だな。)
ここへ来て俺は違和感の正体に気がついた。
(そうだ。これは、組織戦だ。)
500匹がじわりじわりと近づいてくる。
歩みは遅い。
まるで、俺の生体感知、つまりこちらの索敵範囲を値踏みしているかのようだ。
『エルト、ハイリン。上にあげるぞ。』
『はい、師匠。』
とりあえず、目のいいエルト達をタレットに送り込む。
『師匠!妖狐の大群が見えてきました。』
エルトの報告があったその途端、妖狐の動きが止まった。
『む!やはりな。そいつらは、約1000匹。これは確実にリーダーが居る。大群を操るリーダーが。みんな、気をつけろ。さっきみたいに簡単にはいかないぞ。』
俺が警告を出した途端、別方向に生体感知が反応した。
『別の群れが現れたぞ!北の森から500匹!この壁を迂回してきやがった!』
『なにぃ!』
『ハイド!タンタに声を掛けてくれ。もっと後方へ下がっていくように。エルト、森からの500匹は俺が対処する。西の1000匹を監視しておいてくれ。あと、ハイリンは南側の湖の方を意識しておいてくれ。』
『はい!師匠!』
『は、はい!』
そして、俺は、森から向かってくる500匹の集団へ意識を集中させた。
『火壁!溶岩射出!』
敵を洩らさないよう火壁で囲み、地上を溶岩に変えるプロセスで、全滅させる。
もうもうと黒煙が立ち上る。
『師匠!湖から妖狐多数出現!』
『やはり、な。湖からの数は、、、100匹程度か。』
『西の1000匹が動き出しました!ものすごいスピードで迫ってきます!』
『敵さん、指揮官が居るのは確実だ。前面の囮。森からの陽動。そして湖を泳いできたのだろう奇襲の群れ。軍隊を相手にしているようだな。』
『んな、悠長に分析している場合かよ。やばくねぇか?』
『落ち着け。前の1000匹は、エルトと土壁に任せればいい。エルト、遠慮はいらん。全力で叩け!』
『はい!』
元気のいい返事が返ってきた。
『さて、ハイドと俺は、南からくる100匹を相手にするぞ。地面硬化!』
俺は、泥化の逆パターンとなる、ぬかるんだ地面を硬化する魔術を発動させる。
『これで戦いやすくなっただろう?来るぞ!』
『おう!』
湖から来た100匹の動きは、思ったより早く躊躇なく仕掛けてきた。
(一気に畳み掛ける算段か、、、いや、まだ、なにかあるのか、、、)
こちらに対策を立てさせないように連続して攻撃してきている。
俺は、それに違和感を覚えるが、今のところ、他に生体感知の反応はない、、、
キシャー!
「何くそー!」
ズバン!ズバン!とハイドの剣戟が光る。
自身の力と装備に付与したバフで遺憾なく、その力を発揮している。
俺も樹火球と土塊の射出で応戦する。
そこへ、後方に避難していたはずのタンタの馬車が戻ってくる。
「うひゃぁ!お助けぇ!」
「タンタ?なんで、、、」
馬車の後方を見ると、妖狐に追われていた。
『くそ!更に後方に回り込んできたのか!数は、400匹?湖から来た奴らの別働隊か!』
俺とハイドは、湖から来た100匹の集団をなんとか始末したところだった。
(が、しかし、、、今度は、400匹が相手か、、、)
冷や汗なんか出ない俺の背中なのに、その感覚だけが伝わってくる。
400匹が相手なら火壁、溶岩射出の殲滅プロセスを使うべきだが、タンタの馬車が近すぎて、巻き込まないようにするには、ハードルが高い。
『ハイド、ここは、俺達で400匹を相手にしなきゃならん。覚悟してくれ。』
『お?おぅ。もうできてるぜ。覚悟なんざとっくにな!』
俺は、土壁の上にもう一つタレットを作り、浮遊魔術でタンタと馬車を送り込む。
400匹の妖狐の群れは、少し距離をとって俺達を取り囲むように半円状に展開する。
そして、その中に、、、
『ハイド。居たな、ボスが。』
『あぁ、やっとおでましってやつだな。』
400匹の中、周りよりひとまわりもふたまわりも大きいその個体が歯を剥き出して、こちらを睨みつけている。
(もしかしたら、大型の熊よりも大きいんじゃないか?)
そう思わせるほどのがっしりした体躯と威圧感を放つボス。
それなのに白銀の美しい毛並みと見事なまでの長いふさふさの尾が、敵意剥き出しの顔と相反する。
しかし、その目は獲物を前にした野獣そのもので、俺達をどう狩るかを考えているのかのようだ。
(あいにく、そう簡単に狩られるつもりは全くないがな。)
『どうする、ビル?』
『どうもこうも無いさ。俺の認識が甘かったからだが、ここまでの数と対峙することになるとは思ってなかった。やっこさん達の方が一枚上手だったと認めようじゃないか。だが、しかしだ、、、』
(こいつらも必死なんだろうな。ボスが姿を表す状況というのは、最後の手段なのかも知れない。)




